第85話 「いらっしゃいませ」

 ジュンがジドさんに依頼したローブへの魔法付与は一日掛かるらしい。

なら折角王都に来たのだし、一日王都で過ごす…かと思いきや。


 王都に私とジュンが来てる事が広まると色々面倒だからすぐに帰る事に。


「もう帰るのかい?ジュン君」


「ええ。明日また来ますけど」


「そうか。だが、特に予定は無いのだろう?今から私の部屋でお茶でもどうだい?」


「遠慮しますわ。貴方の部屋でお茶を飲んでも美味しくなさそうですもの」


「そうね。そこらのカフェの方が余程美味しいお茶を飲めそうね」


「…ネーナもラティスも、誘っていないのだが…」


「クリスの部屋にジュン君一人で行かせる筈がないでしょう」


「いたいけな少年が変態の毒牙にかかるのを見過ごすわけにはいきませんわ」


「私は変態じゃない!ただ他の男と愛のカタチが少し違うだけだ!」


「物は言いようねぇ…なら、あたしの家に来ない?娘のフィルが魔帝に会いたいって言ってたのよねぇ」


「止めておきなさい、ジュン君」


「ヒューゴの娘さんには悪いと思うが、止めておいた方が良い」


「ジュン様におかしな癖がついては困りますわ」


「酷いわねぇ…てか、あんた達仲良いじゃない…こういう時だけ」


 うん…確かにジュンは大変そうだ。

ヒューゴ団長の家かぁ…ちょっと見てみたいかも。

怖い物見たさで。


「…そうですね。お邪魔させて頂いてもいいですか?ヒューゴ団長」


「あら?来てくれるの?」


「はい。お嬢さんがボクに会いたい理由は解りませんが、今日を逃すといつになるかわかりませんしね」


「娘に対して父親の面子を護ってくれるってわけね?ありがと~助かるわぁ」


 あ、ジュンはヒューゴ団長の家に行くのか。

なら私も………ああ、いや。

私は買い物に行こう。欲しい物があるんだった。


「ジュン、ごめんね。私は必要な物があるから買い物に行って来るね」


「必要な物?…ああ。わかりました。じゃあ買い物が終わったら王都のグラウバーン家の屋敷で待っててください。迎えに行きますから」


「うん」


 流石ジュン。具体的に何を買いに行くのか、言わなくても解ってるみたい。


「なら私はジュン君に付いて行くわ。ティータ達はアイシスに付いて行きなさい。一人にすると色々不安だから」


「「「はい」」」」


「貴女は帰っていいわよ、ネーナ。クリスも」


「帰りませんわよ!わたくしも行きますわ」


「勿論、私も行こう。出遅れている分を取り戻さなくては」


「うんうん。団長同士仲が良くなって結構な事ね。じゃ、行きましょ」


「あ、私も行っていいですか?」


 ジュン達とは別れて私達は王都の商業区へ。

御目当ての物があるといいんだけど。


 因みにノルンは当然のようにジュンについて行った。

セーラとかいう公爵家のお嬢さんも。


「で。何買いに行くの?服?」


「アイシスはファッションに無頓着だから違うでしょ。新しい剣帯とかじゃない?」


「どっちもハズれ…いや。もしかしたら服かもしれないし、剣帯かもしんないけど」


「んん?つまり…目的の魔法が付与がされたアイテムを探しに行くの?」


「何の魔法?」


「フェイクとハイドでしょう?」


「ティータ、正解」


 ジュンがジドさんに依頼した時から思ってたんだ。

私もコレが必要だなって。


「何でアイシスがそんなの…ああ~教会対策かぁ」


「そういや帝国で大司祭に絡まれてたもんね」


 そうなのだ。王都にも神の子教の教会はあるし油断は出来ない。

グラウハウトにはないけれど、ジュンが冒険者として活動する時は付いて行くつもりだから、やっぱり私にも必要だ。


「じゃあ…先ず向かうべきは魔法道具店だね」


「御金あるの?アイシス」


「こないだのダンジョン探索で山分けした御金があるよ」


 倒した魔獣や宝箱の中身を皆で分けた御金が。

特にグレートドラゴンの素材がウハウハだった。


「あ、そういやその御金であたしもウハウハだった」


「私もついでに何か買うかなぁ」


「私は…下着を補充したいわね。後で付き合ってちょうだい」


 下着か…私も買おう。

ジュンを悩殺する勝負下着を。

グフフ…


「アイシスがまたアホな事考えてる顔してるよ」


「いつもの事じゃんか。それより着いたよ」


 この店には初めて来たな。

ええっと…『ガーデルマン魔法道具店』?

ガーデルマン…何処かで聞いたような?


「ガーデルマンって…アイシスが顎を砕いたボンボンの実家?」


「多分、そうね。財務系貴族だし、店の一つや二つ経営していてもおかしくは無いわ」


 ああ…あのボンボンの家か!

という事はこの店で買い物は無しだな。


「よし、別の店に行こう」


「言うと思った」


「店名だけで敬遠されるとか、この店自体に罪はないでしょうに」


 そうだけど、あのボンボンに関わる可能性がある店は避けたい。


「じゃあ次の魔法道具店…あ、あそこでもいいんじゃない?」


「あそこは…冒険者や旅行者向けのお店ね。魔法道具もある程度は置いてるでしょうね」


 ふむ。店名は『ノーティカ雑貨店』…ノーティカ?

知らない名前だな。


「ノーティカは王都に拠点を置く商会の一つよ。そこそこ大きな商会だから、貴族との繋がりはあるでしょうけど…何処の貴族と繋がってるのかまではわからないわね」


「そこまで気にしてたら買い物なんて出来ないでしょ。ほら行くよ」


「アイシスの買い物の次はティータの勝負下着も買わなきゃだしね~」


「勝負下着じゃないわよ!」


 私は買うけどな、勝負下着!


「いらっしゃいませ」


 店内に入ると、中年のおじさんが出迎えてくれる。

店内には私達だけみたいで、接客してくれるようだ。

どうせなら美少年が良かった。


「本日はどのような品をお探しでしょうか?剣帝様」


「ん?私の事を知ってるの?」


「勿論で御座います。王国の英雄を知らない者などいません」


 そんなものかな…グラウハウトじゃ街を歩いてても誰にも気づかれなかったけど。


「それで、どのような品をお探しで?」


「あ、えっと…フェイクとハイドの魔法が付与されてるアイテムを探してるんだけど。それか、その二つの魔法が付与可能な一品」


「フェイクとハイド、で御座いますか?…ああ、なるほど。有名人はお辛いですね」


「うん、まぁね」


 多分、このおじさんは勘違いしてるけど、それはまあいい。


「で、ある?」


「申し訳ございません。剣帝様の御要望の品は現在、当店には御座いません。フェイクとハイドは高位魔法ですので道具に付与出来る者は少数。恐らく、他店で探しても見つからないでしょう」


「そっか…じゃあ、付与出来る何かは?」


「それも現在当店には…高位魔法の付与ともなると、粗悪品では耐えきれませんから、それなりの物が必要となります。一つに纏めて付与しなくても良いのであれば、選択の幅は広がるのですが、それも魔法付与が出来る人物に当てが無ければ意味がございませんし」


 その当ては有る。

今ならジドさんに依頼したら受けて貰えるだろう。多分。


 でも、出来るだけ早く手に入れたいんだよね。

何となく、急いだ方が良い気がする。


「出来るだけ早く手に入れたいんだけど、何処か心当たりは無い?」


「そうですね…古物商を訪ねてみては如何でしょう?」


「古物商?…って、何?」


「引退した冒険者が装備品を売ったり、遺跡で発見した古い道具なんかを買い取ったりするお店よ」


「はい。基本的に古い物ばかりですから、御値段は抑えられているので御安くお求め出来るかと。あとは…遺失物店にも、もしかしたらあるかもしれません」


「…遺失物店?」


「駅馬車や宿屋なんかに客が忘れて置いて行ったまま、取りに来なかった物を扱ったお店よ。遺失物は一定期間が過ぎると預かっている国の物になると、法で定められているから違法じゃないわよ」


「そのようなお店ですから、高価な物は無いのが普通ですが、極稀に掘り出し物があったりするのです。古い話ですが、遺失物店で売られていた木彫りの像の中に宝石が隠されていた、なんて話もございます」


「「「ほっほう?」」」


 まぁ、そんなうまい話、そうそう転がってないだろうけど。

ちょっと面白そうだ。


 早速行ってみるとしようか。

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