第79話 「なんかヤバそうな雰囲気だよ」
「アヴェリー様!アヴェリー様!」
「いい加減目を覚ましてください」
「ん、んん…ここは?」
アヴェリー殿下は薬で眠らされてただけのようだ。
怪我も無いようだし、長時間眠っていたせいか、正気に戻ってるみたいだ。
「………ひっ!ここ、何処!?リリ、ララ!、ど、何処か隠れられる場所は!?」
「落ち着いてください、アヴェリー様」
「此処はダンジョンです。下手な行動を取ると死んじゃいますよ」
「だ、だだ、だんじょん?なんで?どーして?」
「説明しますから、落ち着いて聞いてください」
アヴェリー殿下の事はララさんとリリさんに任せよう。
それよりも、だ。捕らえた実行犯達の処遇だ。
「どうします?八人全員を連れて行くのは無理がありますよ」
「全員生け捕りに成功しちゃったもんねぇ」
「此処がダンジョンじゃなければね。ジュン君の転移魔法で解決なのに」
いや、帰るだけなら転移魔法で簡単に出来るのだけど。
だけど一度の転移で全員を連れ帰る事は出来ないし、転移魔法でダンジョン内に戻って来る事は出来ない。
つまり、何人かはダンジョン内に置き去りにする事になってしまうのだ。
「それにさ。此処まで来たのに途中で帰っちゃうのも、勿体なくない?」
「あ~言えてる。どうせならこのダンジョン攻略しちゃいたいよね」
…その気持ちは、まぁわからなくもない。
でも、今は一刻も早く地上に帰るべきじゃ?
アヴェリー殿下を心配してるジーナ様やハリー殿下の事を思えば。
「ふむ。それも一つの手ですな」
「ストラウド殿?」
「ダンジョンはボスを倒せばダンジョンの外まで転移してくれますからな。その方が手っ取り早いかもしれません」
そうだったのか?
でも、今居る階層は地下十六階。
確か此処は地下三十階まであるって話だから、進むにしても戻るにしてもほぼ同じ。
それに捕まえた実行犯達をどうするかという問題が残ってる。
「彼らはこうしましょう」
「お。おおー」
「ゴーレムに取り込まれちゃった?」
ストラウド殿がゴーレムを作り、ゴーレムの胴体に実行犯達を取り込んだ。
実行犯達は頭だけ出て、身動きが取れないようだ。
「これで連れ歩くのが楽になったでしょう?」
「やるじゃん、おじさん」
「筆頭宮廷魔導士は伊達じゃないね~」
「此処に来てようやくそれらしい活躍出来たねぇ」
「だから、貴女達…もう少し言葉を選びなさい」
相変わらずストラウド殿に厳しいな、アイシスさん達は。
でも、確かにこれで実行犯の移送は楽になった。
「では、決をとりましょうか。進むか、戻るか」
「進むに一票!」
「あたしも!」
「私も進む方が良い!」
満場一致か。
進むのは確定かな。
「あ、あの…ジュンさん」
「アヴェリー殿下。御無事で何よりです。状況は理解出来ましたか?」
「はい…あ、あの、皆さんには大変ご迷惑を……」
人格矯正計画が少しは活きてるのか?
正気に戻ったのに、逃げ出そうとしない。
「アヴェリー殿下は完全な被害者ですから、気にしないでください。むしろ、貴女を護る立場にあったボクの落ち度です。申し訳ありませんでした」
「い、いえ、そんな…悪いのはイワン兄さんとヴァネッサ姉さんです…そ、それで、あの、鎧の予備とかありませんか?先に進むんですよね…なら、私も鎧くらい着ておきたいんですけど…」
「ああ、必要になるかと思ってアヴェリー殿下の鎧は用意してますよ。はい、どうぞ」
「ど、何処から出したんですか?」
「収納魔法です。さ、あちらの物陰で着替えてください」
本当はスキル「アイテムボックス」だけど。
収納魔法に比べてアイテムボックスの方が使い勝手良いんだよね。
魔力は消費しないし、自動で仕分けしてくれるし。
何が入ってるかステータスで確認出来るし。
「お待たせした」
「…本当にさっきまでとは別人だねぇ」
「だね。ちょっと面白いかも」
「止めなさい、もう…同僚が失礼しました、アヴェリー殿下。この槍をお使いください。そこの騎士達が使っていた槍ですが、無手よりはマシでしょうから」
「問題無い。ありがとう」
これで準備は整ったか。
じゃあ、折角だしダンジョンを攻略するとしよう。
「じゃあ隊列は…先頭はレティとノルンのままで。最後尾はゴーレムにしましょう。そいつらは最悪死んでも構わないから。アヴェリー殿下は中央に居て下さい。ジュン君とストラウド殿も中央で、アヴェリー殿下を護ってくださいね」
「了解した。…久しいな、ストラウド。頼んだぞ」
「はい。二度とアヴェリー殿下を危険な目に会わせたりしません」
「うむ…それに剣帝殿か。…不思議だな」
「はい?何がです?」
「貴殿とは戦場で何度か会っているというのに、まるで初めてあったような気がする。どうしてだろうな」
「は、はは…な、何ででしょうね」
もしかしなくても、アイシスさんとアヴェリー殿下がまともに会話するのはこれが初めてか?
グラウバーン家の城ではずっと引きこもってて白天騎士団とも碌に顔合わせしてないし。
「そう言えば、逆に魔帝…ジュン殿とは初めて会った気がしなかったな。もっと以前から知っていたような…どうしてだろうな?」
「……どうしてでしょうね?」
何だろう?アヴェリー殿下もアイシスさんと同じで勘が鋭い?
…少し注意しておいた方がいいか?
「それはきっと運命の赤い糸ですね。恋をしたのですね、アヴェリー殿下」
「……はっ!?恋!?」
「わぁ、良かったじゃないですか、アヴェリー様。捕らわれの皇女と敵国だった国の男爵との恋ですか。演劇の題材になりそうな御話しですね」
「ば、バカを言うな!そんな事あるはずないだろう!」
「…ずっと静かだったけど、あの二人のメイド。アレが素なんだ」
「仲良いねぇ」
…いや、いいか。様子見に留めよう。
それからおよそ数時間。
ダンジョンの最奥、ボス部屋の前に到着。
外はもう真っ暗になっている頃だろう。
「バカな…こ、こんな短時間でボス部屋に着くだと?」
「何回も潜ってる俺らでもここまで来るのに三日はかかるんだぞ…」
「下層に進む程、攻略が難しくなるものなのに全く変わらなかった…一体何もんだ」
ゴーレムに埋まったままの実行犯達が何か言ってる。
そう難しいダンジョンじゃなかったと思うけどな。
「さて、とっとと倒してクリア報酬もらって帰ろ」
「だね。あ、ボスが単体だったらアイシス一人で倒しちゃわないでよ?」
「何らかの活躍をしないと報酬を貰えないって話だったよね」
「そうだったっけ?ま、入ろうよ」
部屋の中に居たのは…ドラゴン?
「げぇ!嘘だろう!?」
「ド、ドラゴン!?それもグレートドラゴンじゃねえか!」
「最上級のダンジョンで出るようなボスじゃねえか!何でこのダンジョンで出るんだよ!」
ほう?そうなのか。
確かに鑑定ではグレートドラゴンと出るな。
「ま、途中でズルした結果が此処で効いて来たって事じゃないかなぁ」
「そうみたいですね。まぁ、今回は急いでいましたから仕方ないとして、次回からは真っ当に攻略するとします」
「いや、アイシスもジュンちゃんも!妙に落ち着いてるけど!アレはヤバくない!?」
「く、来るよ!」
グレートドラゴン…ドラゴンという種族は魔獣の中でも強い種族で、その中でもグレートドラゴンは上から数えた方が早い強さを持つ。
並の騎士団じゃ歯が立たない強さを持ってると言える。
鋭い牙に爪、強靭な肉体と鱗。
パワーもあるし生命力も高い。油断ならない相手と言える。
「けどまぁ…どうとでもなりそうな相手ですね」
「だね。取り合えず、私とジュンで弱らせてみよっか」
「ですね。じゃ、アイシスさんは右からで。ボクは左から」
「りょーかい」
アイシスさんは魔剣『エア』を抜き右から突撃する。
ボクは魔法で左から…お?
「ヤバいよ!」
「ドラゴンブレスの態勢に入ってる!」
おっと、それはマズい。
先にそっちを対処しなくちゃ。
「アイスロック!」
『グモウッ!?』
ストラウド殿が騎士を捕縛した魔法、ロックジェイルを真似てみた。
氷の魔法でグレートドラゴンの口を無理やり閉じた。
これで暫くはドラゴンブレスは撃てないだろう。
「さ、お次は…翼をもがせてもらうぞ。ウインドカッター!」
風の刃を生み出す魔法、ウインドカッター。
中位の魔法だが、今のボクならこれで十分なダメージを与えられるはず。
「わぉ…さっすがー…」
「ジュン君の魔法一発で大ダメージ受けてるねぇ…」
「アイシスも…前脚を一本斬り飛ばしたわね…」
うん、良い感じに弱らせる事に成功したな。
「さ、ラティスさん。後は全員で攻撃させて、皆でクリア報酬をもらって帰りましょう」
「え、ええ…そうね」
「…ストラウド。我々は何と戦っていたんだろうな…」
「つい最近、私も同じ事を思いました、殿下」
何か、アヴェリー殿下とストラウド殿が黄昏てるけれど…早く攻撃した方が良いですよ?
「アヴェリー殿下とストラウド殿も、どうぞ。折角ですから」
「わ、私も参加して良いのか?」
「私は遠慮しておきます。私は随分前に此処は攻略しておりますので」
「そうですか。ララさんとリリさんもどうぞ。ボクとアイシスさんでフォローしますから」
「あ、じゃあ…」
「御言葉に甘えさせていただきます」
その後、全員で攻撃。
無事にグレートドラゴンを倒しダンジョンはクリア出来た。
さて、報酬は何を貰えるのかな?
「ジュンちゃん、折角だからドラゴンの死体、回収してくんない?」
「グレートドラゴンの素材なら高く売れるしさ。帰ったらみんなで山分けしよう」
「あ、はい」
何か、まだダンジョンの影響を受けてるのかな。
欲望に忠実だな…いや、これくらいは当然なのかな?
「おっと。なんか出て来ましたね」
「ノルンにも出て来ました。これが欲望のダンジョンのクリア報酬なんですね」
どうやらそうらしい。
突然、ボクの前に宝箱が出て来た。
「どれどれ…ボクのクリア報酬はローブですね。結構良さそうな」
鑑定の結果では…『魔法剣士のローブ』と出る。
ミスリルの糸と銀糸で編まれたローブのようだ。
軽量化の魔法も掛かってるようで、防御力と魔法耐性の両立された良品だ。
しかも、まだ改良の余地がある。
「ノルンは何だった?」
「ノルンは腕輪です。どんな物かはわかりません」
「どれどれ…」
鑑定、と…『風神の腕輪』か。
風属性耐性と風を操る力を与えてくれる腕輪のようだ。
「だってさ」
「ノルンは風属性の魔法は使えませんから、丁度良い物のようですね」
どうやらクリア報酬はその人にとって丁度良い物が貰えるらしい。
さて、他の人何を貰ったのかな?
「品評会は後にしましょ。あの魔法陣が出てる間に外に出なくてはならないわ」
おっと、そうだった。
先ずは外に出よう。
「私は最後に出ます。ゴーレムの操作がありますからな」
「御願いしますね」
全員で一度に魔法陣で外に出るのは無理で。
三回に分けて出る事に。ボクは二組目だ。
「…ん?どうかしたんですか?」
「あ、ジュンちゃん…」
「ジュン、なんかヤバそうな雰囲気だよ…」
一組目で既に外にいたアイシスさん達の声に緊張がの色が混じってる。
一体何が……あ。
「帝国騎士団…?」
「百人程度だけど…何の用なんだろうね、全く…」
ダンジョンの入口には帝国騎士凡そ百人の待ち伏せ。
一体、何だ?
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