第69話 「大丈夫かなぁ?」
毛蛇魔蛇を討伐した日。
その後、そのまま皇帝のいる帝都ファーブルクへ。
城で皇帝陛下から、ありがた〜いお言葉を頂いた後、今日はそのまま泊まる事に。
今は明日の予定について、ストラウド殿から説明があるらしいので、貴賓室で全員が揃って待機中だ。
「大丈夫かなぁ」
「何が?」
「帝国の城に泊まって。此処で襲われたら一溜まりもないんじゃん?」
「レティの心配はわかるわ。でも大丈夫よ。今更私達をどうにかしたところで、帝国の立場が悪くなるだけだもの」
「でもさ、王国が憎い!って、連中はいそうじゃない?」
そういう連中が暴走して私達を襲う。
そういう事態をレティは懸念しているのか。
う〜ん…わからなくもない。
「大丈夫だとは思うが、用心はしておくか。ベッドを運んで二部屋くらいに纏まって、見張りを立てるとしようか」
「信用していただきたいものですな。帝国は皆様に危害を加える気はありません」
「ストラウド殿か…」
予定通りにストラウド殿が来た。
どうやら話を聞かれていたらしい。
「今更我々が皆様をどうにかしたところで、何も特しません。そちらのお嬢さんが言ったように」
「そうかな。私達が知り得ない帝国の事情で狙われるかもしれないし、憎しみや恨みは制御出来る物ではなかろう?ましてや、ヴィクトル殿下の一件もあるしな」
「う…」
ああ…そっか。
ヴィクトル殿下の一件もあったか。
でも、あれは帝国の仕業じゃないって話だったけどな。
「…アレは帝国の意図では…」
「そうであったとして…いや、それなら尚更警戒せねばな。第三者によって、また同じ事が起きるかもしれない、という事だろう?」
「…わかりました。こちらでも警護は着けますが、そちらもお好きになさってください。それで、明日の話ですが…」
魔導書閲覧の許可は問題無く降りたたらしい。
一人一冊までなら貸出も可。
但し、禁書は全員で一冊のみ。
貸出は不可。
更に閲覧時間は二時間のみ。
「…随分とセコいのではないか?ストラウド殿。今更魔導書を見せるくらいで、何をケチっているのだ?」
「全くですわ。金銭を要求してるわけではないのですから、帝国の懐が痛むわけではありませんでしょうに」
「…耳が痛いですな。しかし、陛下は恐れているのです。魔帝が存在する国に、魔導書や禁書の知識を渡して良いのか、と」
「ボクですか?」
「ええ…魔帝とは全ての魔導士の頂点に立つ者。その魔帝に魔導書や禁書を見せる事を、陛下は非常に警戒されています」
…それはジュンが更に強くなるから?
そう言えば謁見の時、皇帝の顔は妙に渋かったな。
でも戦争は終わったんだから、そんなの今更だろうに。
「それと…」
「まだ何かあるのか?」
「魔帝殿と剣帝殿を皇族に迎え入れるべきだと、一部が騒いでいまして…第一皇子と第一皇女が共に乗り気で…」
「「お断りします」」
その二人って、皇帝の傍に控えてた奴らでしょ?
そこそこの美男子と美女だったけどさ。
ジュンとは比べるべくもない。
「…私には止められそうにありません。皇族の婚姻に関しては口出しする権利を放棄していますので」
「皇位継承に関わるからか?それは私と同じだな」
「はい…ですから、御二人には両殿下が接触してくるやも…いえ、して来るでしょう。その際は、何卒穏便に…」
穏便になら断ってもいい、と?
こうやって情報を漏らしてくれる辺り、この人は私達の味方なのかな?
「そ、それと…」
「まだあるのか…」
「…毛蛇魔蛇の討伐は私達帝国の宮廷魔道士と合同で行なった。そういう事にしていただきたいのです」
…ん?まぁ実際にあの場に居たんだし、そういう事にしても問題は無さそうだけど?
でも、殆どジュンの手柄だと思うんだけどな。
「…ジュンはどう思う?」
「ボクは構いませんよ」
「ジュン様がそう仰るのであれば紅天騎士団は何も言いませんわ」
「白天騎士団も同じです」
「ならば私もそれで構わない。だが…帝国は随分と恥知らずで、恩知らずなのだな?ストラウド殿よ」
「…お恥ずかしい限りです。陛下には再三、皆様とは友好的な関係を築くべきで、報酬を惜しむべきではないと進言したのですが…」
「魔獣討伐の件はお前が勝手に依頼したのだから、お前が報酬を用意しろ…とか言われたんですか?」
「…概ね、その通りです魔帝殿。陛下に、ではなく主に第一皇子や、その取り巻きに、ですが」
…この人も苦労してるんだなぁ。
板挟み状態って、一番辛そうだもん。
「それでは、私はこれで。魔導書閲覧の件はもう少し陛下に掛け合ってみますので」
「ああ。頼んだよ、ストラウド殿」
…なんか、最初に見た時より痩せた気がするな、あのおじさん。大丈夫かな。
「頼りにならないねぇ、あのおじさん」
「ほんと。筆頭宮廷魔道士の名にかけてとか言ってたくせに」
「まぁ、そう言ってやるな。ストラウド殿も苦しい立場なんだ」
「あれ?エメラルダ様はストラウド殿に怒ってたんじゃないんですか?」
「彼に怒ってなどいない。だが私は王国側の代表だからな。私は思っていなくても、言わなければならない事を言ったに過ぎん」
「ふうん…あのおじさん、立場苦しいんですか?」
「ヴィクトル殿下の暗殺事件の時、彼はあの場に居たんだろう?なのにヴィクトル殿下の暗殺を防げず、帝国の立場を悪くした。更には第三皇女も捕虜になった。責任を問われるのが自然だろ?」
ああ…そっか。
第三皇女を除けば、帝国筆頭宮廷魔道士はその場での最高責任者。
当然、槍玉に挙げられるわけだ。
「でも、それなら何故筆頭宮廷魔道士を続けてるんです?普通なら辞任させられるんじゃ?」
「今の帝国の状況で、誰がやりたがるんだ?」
「…なるほど。そりゃそうですね」
敗戦で色々バタバタしてる時期に筆頭宮廷魔道士の後釜になったとしても、尻ぬぐいに奔走する事になるだけ、か。
そりゃ誰もやりたがらないよね。
「それよりも。ジュン君が第一皇女に狙われてる件でしょう。対策を講じませんと」
「あの、バーラント団長。私は?」
「貴女は放っておいても……大丈夫じゃないわね。やんわりと断りなさい」
…助けてはくれないんだ。
拗ねちゃおっかな…全く。
「でも…確か第一皇子には妻が居たはずでは?」
「お?流石はティータ、情報通」
「耳年増なだけあるぅ」
「…怒るわよ」
「まぁまぁ…それで、確かなんですか?エメラルダ様」
「知るか。自国の王族の婚姻にも殆ど興味無いのに、他国の皇族なんか知らん」
そんな力強く断言されても。
…ま、私も同じだけど。
「噂だけなら、ノルンが聞いています。第一皇子は既に妻が二人います。ですので、アイシスさんは三番目の妻に迎えよう、という事でしょう」
「ハッハッー…一昨日来やがれって感じ?」
この私を第三夫人だとぅ?
最初っから乗り気じゃないけど、ふざけるなって感じ。
「第一皇女は更に酷いです。何でも…その…美少年ハーレムを持っているそうです…噂ですが」
「「「は?」」」
美少年ハーレム?
美少年を集めたハーレムだとぅ!?
なんてうらやまけしからん!
「アイシスさん?羨ましいとか考えてませんよね?」
「ジュルリ……はっ!そ、そんな事ないよ?」
いかんいかん。
私はジュン一筋。ハーレムなんて以ての外。
でも、やっぱりちょっと羨ましい…ん?
「それは赦す訳には行かないわね…」
「今回ばかりはラティスに同意ですわ。美少年とは皆で愛でるべき、共有すべき存在。それを…ハーレム?とても認められませんわ」
「なんで団長達が怒りに燃えてるんです…実は羨ましいとか言いませんよね?」
「…何を言うのかしら?ティータ、そんな訳ないでしょう?」
「ま、全くですわ。わたくしを破廉恥なハーレム皇女と一緒にしないでくださる?」
…いいや、その反応は図星だったな。
実は二人って仲良いんじゃ?
「そ、それより、どうしますの?」
「エメラルダ様は何かありませんか?」
「私は知らん。個人の色恋にまで口出しする気は無い。お前達で勝手にしろ」
「いえ、エメラルダ様。そういうわけには。狙われてるのは魔帝と剣帝ですよ?二人は王国にとっても重要な存在。それを帝国に渡るのを黙って見ていたとなると…陛下にお叱りを受けるだけじゃすみませんよ」
「む……あぁ、もう!面倒くさいな」
それを一番思ってるのは私とジュンですけどね。
「…ジュンは転移魔法が使えたな?」
「はい」
「ならアイシスを連れてグラウハウトに帰れ。明日の朝、戻って来れば魔導書の閲覧は出来るだろ」
「わかりました」
「では、ノルンもですね」
「あぁ、君はジュンのメイドだったな。わかった、好きにしていい。二人が居ないのは帝都の観光に行ったとでも言っておく」
「お願いします。じゃあ戻りましょう、アイシスさん」
「うん。……はっ!?」
「どしたのアイシス」
「あの顔は何かロクでもない事思い付いた顔だね」
ティータや団長を帝国に置いて帰るって事は…ジュンと寝るチャンス!
「グフフ…」
「…ティータ、貴女も一緒に帰っていいわ。アイシスを見張ってて」
「了解です」
「なー!」
く、くそぅ…ジュンとラブラブするチャンスが!
いっそ、ジュンを私達の部屋に呼んで三人で……それもアリだな!
「グフフ…」
「またしょうもない事考えてるね」
「ジュンちゃん、大丈夫かな」
「ボクも不安になって来ました」
さぁ!いざ行かん!めくるめく魅惑の夜へ!
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