第58話 「心配しなきゃいけない事?」
ほらアイシス!サボってないでこれも運んで!」
「はーい…」
「これもお願いねーアイシス」
「その次はこれとこれ。その後はこれもね」
「こき使いすぎじゃないかな!?」
ジュンがファーブルネス帝国の第三皇女をグラウバーン家に連れて行った日から遅れること二週間。
白天騎士団はグラウバーン公爵領に向かって移動中。
明日にはグラウハウトに着くので、今は最後の野営の準備中なのだが。
団長にダイナとレティの人使いが荒い。
一体私が何をしたと言うのか。
「何言ってるの…前回のアレが効いてるのよ」
「…誤解は解けたはずでしょ」
私がグラウバーン家のお金を使い込み、グラウバーン家の使用人の少年を手籠めにしたのは誤解だと、私は無実だとわかったはず。
「…ほぼその通りじゃない。貴女とジュンさんが入れ替わってたって説明と証明が出来ないから無かった事にするしかないだけで。もし可能なら、貴女は間違い無く有罪なのよ?
「ティータ、声大きい。抑えて」
「団長達も誤解を解いたわけじゃなくて、ジュンさんが必死に庇ってるから、無かった事にしようとしてくれてるジュンさんに同調してるだけよ。その分、貴女には厳しくしようってなってるのよ。グラウハウトに着いてからも暫くは大人しくしてなさいね」
くっ…何というお邪魔虫。
夢のジュンとのイチャラブ生活が!
「自業自得よ、諦めなさい。それにそうでなくても、ジュンさんとイチャイチャは出来ないでしょう?貴女は」
「そうでもないよ」
ティータの視線の先には私のパパとママ。
それとニルヴァーナ家で引き取る事になった奴隷の少女、サラが居る。
「旦那様、私は何をすれば…」
「今は休んでて良いんじゃないかな。ねぇ、エマ」
「良いんじゃないかね。私らのテントも建ててくれるみたいだし」
何故、パパ達が白天騎士団に同行しているのか。
ニルヴァーナ家は先日、子爵になった。
騎士爵から一気に子爵になったのだが、それに相応しい振る舞い、貴族同士の付き合いや繋がりなどが重要になってくる。
騎士爵に過ぎなかったパパにはそんな知識は無く。
何をどうすればいいのかわからない。
そこで、戦勝パーティーでガイン様に色々教えて欲しいと頼んだら快諾してくれたらしい。
先ずは子爵家ともなれば屋敷に貴族や商会の会長なんかを招いてのお茶会やパーティーの一つも開くようになるので、子爵に相応しい屋敷を建てるべきだという話に。
新しい屋敷は建築中で、出来るまではグラウバーン家にて逗留されるがよい、と。ガイン様から誘われたらしい。
屋敷で働く使用人も紹介してくれるとか。
ほんとにガイン様には頭が上がらない。
更にサラにメイドとしての教育もしてくれるとか。
いや、ジョークが言いたいんじゃなく。
「ママはジュンを落とせって言ってるから。パパはママに逆らえないし」
「…エマ様は貴女の母って感じよね。ノア様は正直、イメージじゃないわね」
「よく言われる」
娘の私から見ても、ママがパパと結婚した理由がわからない。
見合いや政略結婚ならわかるんだけど、恋愛結婚というから驚きだ。
「パパのどこに惚れたんだろう」
「それを娘の貴女が言うのね。…ところで、確認しておきたいのだけど」
「何?」
「貴女が獲得した称号の効果…一定期間、異性をだ、抱かないと暴走するって話だけど。その期間って、どのくらい?」
「私は一週間くらいが限界だと感じてたけど?」
あのやり取りの後、ティータにはジュンが怒ってた理由は全て説明してある。私がしたんじゃなく、ジュンがしたんだけど。
「それがどうかしたか?」
「…入れ替わってる間、二人はアビリティやステータス…称号の効果も共有していたのよね?」
「うん…あ」
「つまりはアイシスになってたジュンさんも、異性を抱かないと暴走状態になってないとおかしい。でも私が知る限り、そんな事にはなってない。つまり…」
「つ、つまりジュンは……男に抱かれてた!?」
私の身体で!?私、知らない間に穢されてた!?
「違うわよ!それに声が大きい!誰かに聞かれたらどうするの!」
「バッチリ聞こえてたよ」
「とても聞き捨てならないね。ジュン君が男に抱かれた?」
「どういう事か説明してくれる?まさかアイシスが原因なのかしら?」
いつの間にか、団長含め白天騎士団の皆に囲まれてる!
眼が怖い!眼力で殺されそう!
「あ、あの…今のはアイシスがあんぽんたんな事言っただけだから…ジュンさんが男に抱かれたなんてありえないから」
「「「「「ほんとーに?」」」」」
「ほんとーに!アイシスがおバカさんなだけだから!」
「誰があんぽんたんでおバカさんだ!」
「貴女は黙ってなさい!」
くっ…ティータめ…後でとっちめてやる。
皆が散ったのを確認してから、ティータが続きを話し始めた。
「…話の続きだけど。私が知る限りではあるけど、ジュンさんは暴走して無かった。だからジュンさんにはせ、【性豪】と【夜の帝王】の効果…少なくとも暴走状態になる効果は適応されて無かった事になるわ」
「うん…それで?」
「推測に過ぎないけど…ステータスや称号、アビリティ以外にも共有されてた物があるんじゃないかしら。例えば…性欲とか」
「性欲?」
「だって、つまりはアレでしょ?異性を抱いてない期間が限界を超えるって、言い換えれば性欲が限界を超えるって事でしょう?つまりはアイシスが二人分の性欲を発散してたから、ジュンさんは暴走しなかったんじゃないかな、と」
「な、なるほど」
言われてみれば確かに。
二人分の性欲を発散する必要があったからこそ、私があそこまで性の快楽に溺れたわけか。
「それは貴女の意思が弱いだけよ」
「何故、そんなに力強く断言出来る?」
「何となく」
「そんなので納得出来るか」
「貴女がいつも使ってる言葉じゃない…兎に角、私が言いたいのは、貴女とジュンさんの入れ替わりは、ステータスとアビリティ、称号の共有以外にも何かあるんじゃないかって事。検証はもう出来ないけど、また何かしらの理由で入れ替わる必要があった時の為に、推論くらいは立てておく必要はあると思うわ」
「そんな事無い…と思うけど、わかった」
絶対に無い…とは言い切れないかな。
何せ発動条件はキス。ジュンとキスする事は確実なんだし。
ムフフ…
「くだらない事考えてるみたいだけど。貴女は心配しなきゃいけない事があるんじゃないかしら?」
「心配しなきゃいけない事?」
「ジュンさんは女性を抱かないと、いずれ暴走するんでしょ?」
「…あ」
「話を聞く限りグラウバーン家のメイドの殆どは抱かれても構わないみたいだから大丈夫だと思いたいけど…今はグラウバーン家預かりになってる帝国の第三皇女を襲ったりしたらどうなるか。貴女、考えてる?」
「あああ!?」
確かに、その可能性はある!
ノルンが上手くやってくれると思いたいけど、その可能性は十二分にある!
「ウオォウ!こうしちゃいられない!今すぐに行かねば!」
「落ち着きなさい。貴女の話じゃ一週間で限界なんでしょう?ジュンさんがグラウバーン領に帰ってもう二週間以上経ってるのよ?もう手遅れよ」
「うああ!?ジュン!どうか早まらないでいてー!」
「そうなってたとしても貴女の責任だけど。あのノルンって子が上手くやってくれてると期待するしかないわね」
でも、それってジュンがノルンを抱いてるって事に…
「やっぱり、それはそれで嫌だー!ジュンの初めては私が貰うの!」
「仕方無いでしょ…声が大きいわよ」
ジュンー!どーか無事で居てー!二つの意味でー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます