第54話 「「保留でお願いします」」

「楽にしたまえ」


「今、飲み物を用意させるわ。お酒がいいかしら?」


「いえ…」


「私はなんでも」


 王都にあるパーティー会場でアイシスさんに声をかけた後、ボクとアイシスさんは第二王子と第一王女に連れられて、王城に戻って来た。


 今は誰も使ってない一室で、第二王子と第一王女、それぞれに仕えるメイド、そしてボクとアイシスさんだけで話をする事に。


 セーラさんも一緒に来ようとしてたけど、それは止められている。

両殿下からすればセーラさんは第三王子派なので仕方ないだろう。


「さて…知ってると思うけど、一応自己紹介しておこうか。私が第二王子のエディ・ラフ・アデルフォンだよ」


 ヴィクトル殿下とは全然違うタイプの、文官肌な印象を受けるのが第二王子のエディ殿下。


 背はボクより少し低い。

髪は陛下ともヴィクトル殿下とも違う茶髪。

あまり武芸は得意そうに見えない。


「ニーナ・トゥレ・アデルフォン。第一王女よ。よろしくね」


 ヴィクトル殿下の直系の妹、ニーナ殿下。

金髪に鋭い目付き。女性としては高い身長。美人というよりは凛々しいという印象の女性。


 両殿下の名乗りの後、ボクとアイシスさんも応えた後、本題に入る。


「用件は想像がつくでしょ?」


「…次期国王の選定の件でしょうか」


「その通り。二人には是非、味方になって欲しくてね」


「…どちらのです?」


「それは君達次第かな」


「というと?」


「君達も私とニーナが次期国王の座を賭けて対立してるのは知ってると思う。だが、別に兄妹仲が悪いわけじゃあない」


「だから二人ともに欲しいと思った人材は抜け駆け無し。声を掛ける時は一緒に、と取り決めしたの」


 二人仲良く勧誘しに来たけど、協力してるわけじゃない、と。


「…ん?では第三王子のジョゼ様はお誘いしなくて良いのですか?」


「君は九歳になったばかりのジョゼが本気で次期国王を目指してると思うかい?」


「ジョゼは公爵達の御輿よ。ジョゼが国王になったら傀儡政権の誕生よ」


 つまり…第三王子派の代表、マクスウェル公爵が影の支配者になる。

マクスウェル公爵の思想が善であれ悪であれ、両殿下からすれば、それは阻止したいわけだ。


「つまり両殿下はジョゼ様が国王になるのは避けたいわけですか。…あれ?じゃあ第二王女は?」


「クロエは論外よ」


「クロエは自室に引き籠もりっぱなしで、国王になる意思も無いし能力も無い。当然、クロエを次期国王に推す声もない。私の全妹だし、私が居る以上はクロエが国王になる事はないよ」


 アイシスさんの疑問に両殿下が答える。

クロエ殿下の事はボクも殆ど知らない。

父上も会った事はあるけど、会話らしい会話はした事がないらしい。

知っているのは第二王妃の娘で、ボクの一つ下という事だけ。


「では、いきなり私達のどちらを支持するか選べと言われても困るだろう。何か聞きたい事はないかな?」


「因みに、此処での会話は外には漏れないわ。メイド達にも秘密は厳守させるし。多少無礼な口を利いても構わないわよ」


「あの、その前に。私は白天騎士団に所属してるので、王位継承に関して発言権を持たないのですが」


「勿論、承知しているよ」


「貴女は別に何もしなくていいわ。だけど私達のどちらかを

支持してくれるなら、貴女とは懇意にしてると周りに示させて欲しいの。それだけで良いわ」


「はぁ…つまり本命は私じゃなく…」


 ボクですか。

そりゃボクは男爵兼公爵家の跡取り。

ボクを味方にすれば自動的に父上と東部の領主も付いて来るだろうと。 


「じゃあ、私はいいから。ジュンが好きに質問しなよ。ジュンが選んだ方に私も付くから」


「ほう。それはそれは」


「つまり魔帝を味方に付ければ勝利が決まる、と。いいわ、燃えて来た」


 そんな事は……あるのかな。

東部の貴族の殆どが味方になればパワーバランスは一気に崩れるだろうから。


「では魔帝。何でも聞いてくれたまえよ」


「はぁ…では両殿下は国王になったら、この国をどうしたいと思っていますか?」


「うん、王としてこの国をどう導くのか語れという事だね。では私から。そうだな…ジュン、君はどんなモノが好きだい?」


 凄い漠然とした質問だな。

どんなモノって言われても…例えば何について?


 そんなボクの疑問を察したのか。

返答を待たずに殿下は話を続けた。


「私はね。美しい物が好きなんだ」


「はぁ…美しい物」


「自然、絵画、宝石、その他美術品。そして人。この世界は美しい物で一杯だ」


「……」


「反対に、醜い物は嫌いだ。醜い物は存在するだけで人を不快にする。この世の害悪だ」


「ソデスカ」


「私はね。この国を美しい物だけの国にする。そして行く行くは世界中を美しい物だけの世界に。そうすれば、人々は心豊かに暮らせる事は間違い無い。そう思うだろう?」


「…はあ。因みに、その醜い物の中には人間も?」


「無論、含まれる」


 選民思想ですか…王族や貴族にありがちな思想だとは思うけど…それに世界中を?

最終的には世界征服でもするの?


「美しい物と醜い物の判断は誰が?」


「私と、私が信頼する者達で」


「美しくも醜くくもない者は?」


「これまで通りに」


「見た目は醜いが、心は美しい者は?」


「排除する」


「見た目は美しいが、心は醜い者は?」


「排除する」


 ダメだ、極端過ぎる。

そんな政治思想じゃクーデターは必至。


「何を不安そうにしているのかな?君やアイシスは美しい。誰も排除しようなんて思わないさ」


 そんなの人によって違うでしょ…ボクが選ばれてもボクの大事な人達は排除されるなら意味ないし。


「こんなとこかな?」


「じゃ次は私だね。私はね、使える者は残して優遇する。貴族でも平民でも。使えない者は排除する。貴族でも平民でもね」


 ニーナ殿下も選民思想ですか…能力主義とも言えるか?


「使える者と使えない者との判断基準は?」


「私の役に立つか立たないか」


 …独裁者の思考じゃない?それ。

いや、王政なんて基本、独裁かもしんないけどさ。


「ジュン、貴方も幼い頃から天才と呼ばれて来たならわかるでしょ。自分にとっては簡単な事でも他人にとっては難解。何故、こんな簡単な事が出来ないのか理解に苦しむ。何故、自分の周りには馬鹿しかいないの?とね」


 いや、そんな他人を見下した思考してませんけど?


「しかも、そんな連中に限って自分より優秀な者を妬み、陥れようとする。私はね、そんな腐った思考の人間は人の上に立つ資格は無いと思う。特に国の中枢には優秀な者だけを集めるべき。そう思わない?」


 そりゃ優秀な人だけを集められるならそれに越した事は無いでしょうけど…


「初めは優秀だったけど、徐々に足を引っ張る存在になったら?」


「排除するわ」


「初めは無能だったけど、努力で能力を伸ばした者は?」


「必要無いわ。無能が努力しても、有能が努力した方が素晴らしいに決まってるもの」


「有能でも無能でもない、凡庸な者は?」


「末端でなら使ってあげる」


「…無能な者も上手く使ってこそ優秀な指導者では?」


「時間の無駄よ。優秀な者を上手く使ってこそ指導者でしょ?」


 そして、その判断基準がニーナ殿下の役に立つか立たないか。そして努力は認められない……ダメだな。

ブラックにも程がある。


 父上はヴィクトル殿下を酷評してたけど…もしかしたら国王としては凄くまともな人になったのかも。


「質問は終わりかな?」


「じゃあ選んでちょうだい。ジュンは私と兄様、どっちが国王になるべきだと思う?」


 アイシスさんはずっと黙ってる。

言ったようにボクに任せるのか。

じゃあ…ここはビシッと。


「「保留でお願いします」」

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