第50話 「完全にアウトー!」

*ラティス視点です




「アイシスさんと二人きりで話がしたいんです」


 彼…ジュン君が突然やって来てそう言った。

真剣な表情と声色…雰囲気に圧される。

つい簡単に許可を出してしまったけど…これはもしかして、もしかする?


「ま、まさかジュンちゃん…」


「アイシスに告白する気じゃ…」


 ダイナとレティの言葉に団員達から悲鳴が上がる。

それは恋バナに反応する乙女の叫びでは無く、愛する人が奪われるかもしれないという恐怖の声だ。


「落ち着きなさい、貴女達。まだそうと決まったわけじゃないわ」


「いや、団長も落ち着いてください!」


「めっちゃ震えてるじゃないですか!ヴィクトル殿下が亡くなった時より動揺してますよ!」


 言われて自分の身体を見下ろす。

…確かに震えてる。冷や汗も出てる。


 どうやら私はジュン君に完全に惚れてるらしい。


 だってしょうがないじゃない。

あんなに魅力的なんだもの…年の差なんて気にしてられないほどに本気になっても仕方無いでしょ?


「皆様、御安心ください。そんな色っぽい話ではありませんから」


「え?貴女は?」


「申し遅れました。私、ジュン様専属のメイド、ノルンと申します」


 ジュン君のメイド…ノルンが言うには、ジュン君はアイシスに文句を言いに来たのだと言う。


「文句って…何の?」


「どんな内容かまではノルンは存知ません。ですが気になるのであれば様子を伺っては如何がでしょう?」


 ノルンの口車に乗せらた気もするけれど…気になるのは確か。そこで二人が居る部屋…アイシスとティータの部屋の隣、ダイナとレティの部屋で様子を伺う事に。


「どう?レティ。何か聞こえる?」


「ぜーんぜん」


 部屋に集まってるのは私、ダイナ、レティ、ティータ、ノルン。

この中で一番耳が良いレティで聞こえないとなると…どうしたものかしら。


「ノルンにお任せください。ノルンの耳は特別製ですから」


「特別って…獣人のあたしより?」


「はい。そういうアビリティを持っていますので」


 なら反対する理由も無い。彼女に任せてみよう。

 

「どう?何か聞こえる?」


 壁に耳を当てながらノルンが答える。

どうやらアイシスがジュン君に文句を言っているらしい。


 あれ?文句を言いに来たのはジュン君じゃ?


「アイシスは何と?」


「私も断片的に聞こえるだけですので…働き過ぎだと言っているようです」


「働き過ぎ?」


 つまりアイシスは…何処からジュン君の働きぷりを聞いて、ジュン君を心配した?


「それは…まぁ、アイシスが言うのはどうかと思うけど…心配して言ってるならいいんじゃ?」


「最近のアイシスは働き者だったしね。そのアイシスから見て働き過ぎなら、確かに心配かも?」


「…そ、そうかもね」


 確かに戦争が始まってからのアイシスは働き者だった。

以前なら散々急かさないとギリギリまで報告書を溜め込んでいたし。


「次は…お金の使い方に文句を言っているようです」


「お金の使い方?」


「はい。孤児院…寄付…炊き出し…」


「寄付?炊き出し?」


 ジュン君はつまり…孤児院に寄付をしたり自ら炊き出しをしたり?


「「「良い子…!」」」


 思わずダイナとレティ、二人と声が重なる。

いくら大貴族の子供でお金に不自由しないからって、自分からそんな事出来るなんて…!


「やっば!ジュンちゃん良い子過ぎ!」


「背も伸びて逞しくなった御蔭もあるけど!何を相談しても何とかしてくれそうな逞しさを感じる!壁越しに!」


 二人の言う事に完全に同意する。

「何でも言ってみなさい」って背中で語ってるかのよう。

私の母は昔、良い男は背中で語ると言っていた。

まさしく彼は良い男!今は背中見えないんだけど!


「…次はジュン様の番のようです」


 あっと…此処からが本題だ。

ジュン君は一体、アイシスに何を言うつもりなのか…


「…どうやらアイシスさんはグラウバーン家の使用人に手を出していたようです」


「「「ええ!?」」」


 突然の急展開!

それは予想外の話が過ぎる!


「グラウバーン家の使用人って…執事見習いの少年とか?」


「あぁ…居たね、そういえば。何人か…」


 確かに居た。

執事見習いや雑用係や、使用人の子供なんかが。

ま、まさか二年前に行った時に、無理矢理?

一体誰を…


「…ほぼ全員に手を出していたようです」


「「「アウトー!」」」


 全員!?ほぼ全員!?

未成年に手を出したの?一番下の子なんか十歳くらいの子も居たわよ!?


「そりゃ怒るわージュンちゃんじゃなくても怒るわー」


「私だって怒るよ…ティータはどうかした?」


「あ、いえ…何でも…」


「もしかして…ティータ、知ってた?」


「まさか共犯?」


「ば、馬鹿言わないで!私だって驚いてるんだから!」


 うん、流石にティータはそんな事は…いや、酒を飲んだらダメだった。

でも、グラウバーン家に滞在中はティータが飲酒時にはジュン君やグラウバーン家の人が犠牲にならないよう注意してた筈だから…ティータは白だと思いたい。


「でも何で今日になって?」


「だよね。戦争中は当然言えないけど、昨日は言えたよね」


 確かに。何故、昨日言わなかったのだろう?


「…まだ何かあるようです」


「まだあるの…」


 これ以上何が…もう既に結構な不祥事なのに…


「…ジュン様のお金…酒…娼館…クラブ…」


「「「完全にアウトー!」」」


 それってつまり…ジュン君のお金をアイシスが使い込んだって事よね!?

どう考えても犯罪だわ!重罪だわ!


「一体いつの間にそんな事を…」


「しかも酒を飲むのとクラブ?は百歩譲ってもアウトだけど、まだしもとして。娼館って。男娼を買ったって事だよね?」


「アウトだ…アウト過ぎる…」


 仮にも王家直属の七天騎士団に所属する騎士が男娼を買う…しかも他人のお金で。全く以って許されざる犯罪!

黄天騎士団が出て来てもおかしくない案件!


「でも、そっか。昨日言わなかったのは…」


「今日、証拠がある程度揃ったか、犯人が判明したか。どちらにしても…団長」


「ええ、わかってるわ」


 ジュン君はきっと内密に処理する為に動いてくれている。

白天騎士団やアイシスの名誉を守る為に…!

まだ子供のジュン君にそんな重荷を背負わせるわけにいかない!


「行くわよ。アイシスは私達の手で裁く!」


「「はい!」」


「あ、団長、ちょっと…」


「ティータ!ほら行くよ!」


 まさかアイシスを私達で捕える事になるなんて…英雄を地に落とすのね。


「くふふ…計画通り…」


 背後でノルンが何か呟いたみたいだけど…今の私には聞こえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る