第37話 「ダンジョン?」
「聞いたか?」
「ああ…真実なのか?」
「らしい…ヴィクトル殿下は亡くなられた」
「帝国の卑劣な罠にかかって…くそっ!帝国めっ!」
…これに勝てば戦争が終わるかもしれないという一戦。
そこで第一王子ヴィクトル殿下が一騎打ちを申し込まれ、それに勝利。
だが勝利を納めた直後、帝国の卑劣な手段により殿下は死亡。
怒りに燃えた王国軍により砦の奪取と帝国の第三皇女は捕縛。
同時に攻めていた城塞都市も陥落せしめ、帝国の国土三分の一を奪う事に成功した。
本来ならこの時点で和平交渉に進む筈だったが息子を失った国王陛下の怒りは激しく悲しみは深く。戦争の継続が命じられた。
「帝国はヴィクトル殿下の暗殺は何者かの陰謀であり、帝国の意図したものではないと発表している、か…」
「今朝発表された王家の声明ですか」
「ノルンか。うん…これで漸く、戦争も終わるかと思ってたのに。帝国め…一騎打ちを挑んでおいて負けたら殿下を暗殺するなんて」
「…帝国の仕業では無いかもしれませんよ」
「うん?帝国の言い分を信じるのか?ただ否定してるだけだぞ?」
「入って来た情報ではそうです。ですが…この戦況で殿下を暗殺しても帝国にはデメリットの方が大きい。現に更に悪い立場に追い込まれてますから」
「…だから?」
「他国からの介入…という可能性もあると思います。王国にもそういう工作が得意な騎士団が…ありますよね?」
黒天騎士団の事か。
確かにそういう暗殺なんかもお得意な騎士団ではあるけど…
「でも他国が帝国の仕業に見せかけて殿下を暗殺するメリットって何?」
「憶測で良ければいくらでも。王国か帝国、或いは双方に恨みがある者の仕業だとか。出来るだけ長く戦争を続けて欲しい者の仕業だとか」
「戦争を…続けて欲しい?そんな奴…」
「いますよ。他国にも王国内にも帝国内にも。戦争は良い金儲けの場になるらしいですから」
「…武器商人か」
「武器商人に限らず、商人全般は上手く立ち回れば儲ける事が出来るでしょうね。奴隷商人なんかも…合法、違法の両方が」
「…嫌な話。でも商人なんかに殿下の暗殺や戦争の行末を左右する事が出来るか?」
「絶対に不可能とまでは言いませんけど、難しいでしょうね。まぁ誰であろうと簡単ではないですけど。国単位なら…色々手段は執れるでしょうね」
国…王国と帝国以外の第三国の暗躍…という事か。
「でも…国となれば周辺国になるよな?周辺国でそんな事しそうな国ってある?あったとして、その目的は?」
「ありますよ。一番可能性が高いのは魔族の国ですね。理由としては出来るだけ長く戦争させて王国と帝国を衰弱させる、とか考えられますね」
王国と帝国の衰弱、か。
そして弱った所を一気に攻め落とす…漁夫の利を狙うわけだ。
で、魔族の国…王国と帝国から見て南。
小国を2つ挟んだ場所に存在する魔道国ルナティクス。
国民の大半が魔族で国王は魔王と呼ばれる国。
世界で1、2を争う国力を持つ大国だ。
「あの国は今でこそ閉鎖的であまり他国と関わろうとしませんがアデルフォン王国、ファーブルネス帝国の双方を争っていた歴史があります。魔族は長寿ですし未だに戦争の続きをしている気な者も多いとか。何か仕掛けてくるとしたら最も可能性の高い国だと思いますよ?」
…確かに。それは同意見だけど。
でも、私は魔族に会った事があるけど…案外普通だったけどな。
「そんな事より…心配なのはジュン様です。噂によればジュン様…剣帝の眼の前でヴィクトル殿下は殺されたと。責任を問われ無ければ良いのですが…」
他にもバーラント団長にビッテンフェルト団長、ヒューゴ団長も近くに居たとか。
それで殿下を護れなかったとなると…責任の追及は免れないだろうな。
これまでの功績を考えたら処刑までは行かないだろうけど…
「おーい、ジュン。暇かー?」
「やっぽー」
周りが暗いニュースで持ち切りの中、いつもと変わらない調子でミゲル達がやって来た。
いや、むしろいつもより楽しそう…?
「何か良い事でもあったのか?」
「ああ、いや。良い事って程でもないけどな」
「この近くに新しいダンジョンが確認されたらしいの。知ってる?」
「ダンジョン?」
ダンジョン…神様、或いは悪魔が作った魔獣が棲む迷宮。
神様か悪魔、どっちが作ったのか、によってダンジョンのクリア報酬が変わるとか。
私はまだ挑戦した事が無い。
「何でも試練のダンジョンらしい」
「だからお宝はあまり期待出来ないけど、強くはなれる」
「どうだ?一緒に行かないか?」
「世間は王子の暗殺っていう暗いニュースで持ち切りだが…俺達が此処で暗く過ごしても何にも変わらないぞ」
「気分転換も兼ねて、どうだ?」
どうやらミゲル達は私に気を使ってるらしい。
セバスチャン達から親思いのジュンは戦争に行ってる父をとても心配してると聞かされてる。
だから終戦が遠のいた事で私が落ち込んでると思ったらしい。
「…良いのではないですか?ノルンも行きます」
「え?」
「お!そうかそうか!」
「じゃ、準備を整えて門前に集合だ」
「セバスチャンさんには私から言っとくね」
あれよあれよと。
ダンジョン攻略に向かう事が決定してしまった。
ノルンが賛成するのは…ちょっと意外。
「何です?」
「いや…本当に行くのか?」
「ええ。ジュン様の事は確かに心配ですが…もうジュン様の下へ行くのは現実的ではありませんし。ならばジュン様の為にあなたを強くするのが肝要かと」
「もう十分に強いけどね…」
何せ私…ジュンのLVは93にまで上がった。
ステータスも殆どが限界値に達してるし…はっきり言ってもう世界最強だろう。
でも、だからこそ余計にこの状態を周りに知られるわけには行かなくなったけど。
「試練のダンジョンという事は神様が作ったダンジョン。ならばダンジョンのクリア報酬はアビリティの獲得か称号の獲得です。今のあなたが獲得すれば、それはジュン様の能力のアップに繋がります。きっと役に立つでしょう」
神様が作ったダンジョンは「試練のダンジョン」と呼ばれ、悪魔が作ったダンジョンは「欲望のダンジョン」と呼ばれる。
どちらのダンジョンも最奥のボスを倒すと報酬が貰えて「試練のダンジョン」の場合はノルンが言ったようにアビリティか称号を獲得。
「欲望のダンジョン」の場合は強力な武具か財宝だ。
そして当然、どちらも命の危険がある。
「本来ならそんな危険な場所にあなたを行かせるのはどうかと思いますが、今のあなたなら問題無いでしょう。むしろミゲルさん達だけで行かせる方が心配です」
「確かに…」
あいつら、弱いもんね。確かに心配になる。
「では準備をしましょう」
「りょーかい」
ダンジョン攻略か…ちょっと楽しそう。
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