第5話

いやはや、そんなこんながあってもうすぐ夏休み。

かくいう私は特に何もない夏休み。

友達とプールに出かけるでもなく、部活に励むでもなく、

ただぼーっと1日1日が過ぎていく。

流石にどうかと思ったのでショッピングモールに出かけた。

外に出るともわっとした熱気に全身を包まれる。

あっつー…こんなの一瞬で熱中症じゃないか。溶けるぞいよいよ。

なんてぼやきながらバス停へ向かった。



(うわ、涼しー!)

20分ほどバスに揺られて着いたショッピングモールは、電気代が心配になる程クーラーが効いていた。

私は今日服を買いに来た。

しかもとびっきり可愛いのを。

別に可愛い服が売っているエリアに一人で参戦し、周りのざわついた視線が気にならないわけではない。

しかし、夏らしいことをしたい!と思ってしまったが運の尽き。

インスタで目にしてしまったのだ。

『サマーセール‼️』という浮ついた文字を。



いつの時代になっても女子という生き物は買い物が長いのだろうか。

13時頃に家を出たつもりが気づけばもう15時。

スマホのロック画面で時刻を確認した私の手には3店舗の大きなショッパーが

提げられていた。

(どこかに来ていく予定もないのにさすがに買いすぎたな笑)

夏ということでお財布の紐が緩んでいたのは否定できない。



 休憩に立ち寄ったチェーン店のカフェで背伸びをして買った

アイスのカフェラテが苦かった。

ビバ!夏休み!




 お気に入りの文庫本の新刊が出たというので本屋にも立ち寄った。

無事ゲットしてレジに並んでいると見知った顔が一人。

(まじか、黒川とはこの頃なにかと縁がある)

今日は少し茶色がかったウェリントンタイプの眼鏡をかけていて、それがまた

暴力的なまでの美しさを振りまいていた。

声をかけようか迷ったがサマーセールに浮かれているそこらの女子高生とは

一緒くたにされたくなかったので(実際そうなのだが)やめておくことにした。

「お次の方どうぞー」

という声が聞こえたところで我に帰った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

差した光芒、傘を閉じれば。 染谷絃瀬 @blue-sky0828

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ