第67話 行き当たりばったりじゃミステリーには突入しない


「根拠って言われると微妙なんですが」


 自分でマリアさんが怪しいと宣言したものの、いざその証拠をと言われると言葉に詰まる。

 これはミステリーじゃないので証拠集めなんてのはやってないのよ、いわゆるほぼ勘なのよ、勘。9割勘。

 なんて言ったらレイズ様はブチ切れるだろうから勿論そんな事は言わない。


「最初のドレス審査の時に問題行動を起こしたのが、控室でやたら怒鳴り散らしていた女性だったんですよね」


 参加者を集めた控室。ピリピリとした空気の中、人一倍声を荒げていた女性が特に目についた。


「そんなの、その人が元々イライラしていたってだけの話じゃないのか」

「その人、マリアさんにぶつかってまして」

「ぶつかったからって、怪しいにはならないだろ」

「因縁とか生まれたかなって」

「はあ」


 レイズ様のため息。こいつ話にならないなって思っているに違いない。

 そりゃそうだ。私もこの時点じゃ別に何とも思ってなかったし。でも一応ご参考までにね。


「じゃあ二つ目、さっきの料理審査」

「ああ。審査員が手をつける前に、自分の作った料理を自分で食べたやつか」


 そうそう。可愛らしくデコレーションされたスイーツを審査員の前で食べ始めたやつ。


「その問題の女性は別に控室で何か目立った行動を取っていた訳ではないんですけど」


 いや、その前に私は控室にいなかったから、実際には中でどんなやり取りが行われていたかは分からない。けど私がちょっと見た限りでは、二次審査前の控室は荒れていなかったように思う。


「マリアさん、審査が始まる前に言ってたんですよ。『料理が美味しくなるコツは、愛情と自分が食べたくなるものを作ること~』とかなんとか」


 あれは審査会場に入った後のことだ。私がレイズ様に料理の腕をこっぴどく馬鹿にされていたからか、マリアさんがそんなアドバイスをしてくれた。


「それがどうした」

「その発言とその後の騒動、妙にピンポイントだと思いません? 『自分が食べたくなるものを作る』って言葉の通り、自分の作った料理を食べだす女性が現れるんですよ」


 審査されるはずの料理を食べてしまうなんて行動、さすがに普通はやらない。偶然にしては、発言とその後の状況が一致している。

 

「あ! そういえば、一人目の女性の時もマリアさん『怒りが本番に影響しないといいわね』みたいなこと言ってた」


 そしてその後に起こったのが審査員に対するステージ上での猛抗議。

 まるで予言したかのようにマリアさんの発言が、その後の展開を表している。


「ほら、怪しい。怪しくないですか、レイズ様」


 なかなか私、いい推理なんじゃない。

 行き当たりばったりでもなんとかなるか? なっちゃうか、名探偵に。

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