第57話 苦情は受け付けませんのであらかじめご了承ください


~会場~


 次々と登場していく花嫁候補達。


「今回も色んな子がいるね~」


「おい、ベル」

「ん?」

「あの口の悪いメイドは本当に参加してるんだろうな。俺に偉そうなこと言っておきながら、逃げ出したらタダじゃ済まないからな」

「ははは、口が悪いのは君も同じじゃないか。ま、大丈夫だって。ルセリナちゃんは、ちゃーんと参加してるよ……あ、ほら次出てくるみたい」

「次?」


『エントリーナンバー38番』


「いや、あれはイレニさんだろ」


『魅惑の有能メイド ルセリナさんです!』


ぱちぱちぱちぱち


「……は??」

「は? じゃないよ。ルセリナちゃん」

「いやだってお前、あれは…………」


 最大級の優しい微笑みを浮かべるベル氏。


「……」


 えー、皆様ごきげんよう。魅惑の有能メイドことルセリナです。

 何だよ、魅惑の有能メイドって。疑惑の無能メイドの間違いでしょ。誰だこんな詐欺まがいのキャッチフレーズ作ったの。訴えられても知らないからね。

 それにしてもステージの上って想像以上に広いなー。わーみんながこっち見てる。恥ずかしいわ、死ねる。

 うん? 観客の中に一人、手を振ってる人がいるぞ。


「あれは」

「ルセリナちゃーん」


 誰かと思えばベルさんか。やたら上機嫌だなあ。ん? 私にも手を振れって?

 ……仕方ないな。何事にもアピールは大切って聞いたもんね。はいはい、やりますよ。こうやって笑顔でにっこり手を振ってー……


「ん……!?」


 あ、あれは……。なんか今ヤバいのが視界に映ったんですけど。

 ベルさん、どうしたのそれ。なんかお隣に悪魔でも召還しちゃったんじゃない? なんか凄くどす黒いオーラの人影が見えるよ。ほらなんか凄い顔してる。めっちゃこっち睨んでる。え、嘘。やば。怖っ。

 頼むからそのレイズ様って人、早くどこかに封印しておいてもらえます?


 あ、レイズ様が口パクで何か言ってる。えっと、何々? こ・ろ・す?


「……」


 この審査終わったら、私、闇に消されるのかな。

 

『続きまして、エントリーナンバー39番です!』


 お、おっと、そうこうしてるうちに次の人の番。自分の命の不安は残るけど、とりあえずステージから急いで退場しなきゃ……


「ちょっとどいて!」

「えっ? うわっ」


 思い切り弾かれた。何だ今の。

 相手はそのままステージに飛び出していったし、一体何が……。


「いい加減にしてよ!」


 ひえっ、いきなり怒鳴り声。


『落ち着いてください』


 どうしたんだ、司会者の人と口論が始まったぞ。


「私をいつまで待たせれば気が済むの!?」

『でもこれは受付順で』

「そんなのスタッフの案内が悪かったからいけないんじゃない。私はもっと早く会場には着いていたわ」


 誰かと思ったらこの人、さっきマリアさんとぶつかった人だ。

 あの時もかなりイライラしていたけど、今の方が更に怒ってるみたい。


『そう言われましても』

「もうっ、今日は本当になんて運の悪い日なのかしら!」


 それにしても一方的だな。


『これ以上、場を乱しますと退場していただくことになりますよ』

「別に構わないわ。私はスタッフに一言文句を言ってやりたかっただけよ。ああスッキリした!」


 えええ。その為にわざわざステージに出てきたの。嘘でしょ。どんだけメンタル強いの、この人。


 結局、例の彼女はスタッフにつまみ出される形で会場を後にした。



『えー気を取り直して続きからまいりましょう。エントリーナンバー40番』


 これがこの後勃発するトラブルの始まりだったなんて、この時の私にはまだ知る由もなかった。 

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