第36話 ネズミがチューチュー増えていく系の詐欺にご注意ください
「俺の名前はヒューベル。気軽にベルさんって呼んでね」
距離の詰め方半端ないな。
いや、今はお金を貰ってる身だ落ち着け、落ち着け。
「ベルさん」
「ん? 何かな、えっとー……」
「ルセリナです」
「ルセリナちゃん」
ルセリナ『ちゃん』だと、馴れ馴れしいな。
あー駄目だ、落ち着け。これはそういうお仕事だ。それで報酬を得ている。そう考えるんだ、私。
「ディナーに行くって話でしたよね?」
「そうだよ」
「じゃあ、これは何ですか?」
行きがけにきっちりとドレスコードまで用意されたから、それなりに高いお店に行くものだとは思ったけれど。
案内されたのは、この街の中にあるやたら大きなお屋敷だった。
中に入れば、当然そこにはそれはもう見慣れたような豪華に輝くシャンデリアや大理石のフロアが当たり前のように存在していた。分かる、分かるぞ、この感じ。どう見てもこれは。
「パーティに見えるんですが」
「そうとも言う」
「私、こういう場所苦手なんですよ。参加する側じゃなくてもてなす側だったというか」
元メイドとしての仕事に対するマイナスイメージが蘇るというか。
「気にしない気にしない」
いや、気になるよ。
「大体、こんな場所に気軽に入れるなんて、ベルさんって一体何者なんです?」
軽く札束出して来たり、平然と高級そうな服を買ってくれたり、絶対一般人の金銭感覚じゃない。
「え、なになに。俺ってそんなに凄そうな人に見える?」
凄そうな人、ねえ。
今は確かに正装だからか、そう言われたらお金持ちの一人息子って感じがするけど、出会いが出会いだからな。
喫茶店で私のような人間に何度も声をかけてくるあたり、怪しいキャッチセールスなんじゃないかと思ってる。
「見えませんね」
そんな相手に付いていく私も私だけど。
これでこれから怪しいセミナーが始まって壺でも売りつけられようものなら私はどうすればいいんだろう。
「俺はなんてことないどこにでもいる組織の下っ端の人間だよ」
組織? 下っ端? やっぱり壺か。壺を売りつけられるのか?
「でも、この仕事をするとこういう場所にも入ることが出来るんだ」
「へ、へぇ」
それって壺を一人から二人、二人から四人、四人から八人に売っていくようなお仕事じゃないだろうな。
「ルセリナちゃん、お金に困ってるよね」
来た。これは確実に壺を買わされた挙句、ネズミがチューチューするようなビジネスを紹介されるパターン。
「あ、いや、困っている訳では」
「お一人様なんだよね。今夜はどこに泊まるの? ホテルだってどこもお一人様は1,000倍の料金だよ」
「……っ」
「お金、欲しくない? 好きなんでしょ?」
「あ、えっと、その」
「いい話があるんだけど」
まずい、まずい、まずい。これは断ったら後ろから怖いお兄さんとか出てきちゃう奴。
「とりあえず、これから紹介する人に会ってみない?」
教祖様かな? 教祖様に会って、そこで壺の凄い力がどうとか言われるに違いない。
「あー、そうだ思い出したー私これからちょっと用事がー……」
「ほらこっちこっち」
「あ、ちょっと」
賑わう男女の人込みをかき分けて、手をひかれて向かったその先。
「紹介します。この街とこの辺り一帯の領主を務めるコルトン様です」
「りょ、領主……様!?」
「コルトン様、こちら今回の花嫁候補の一人、ルセリナさんです」
「花嫁……候補!?」
そこには何ともまあご年配の白髭のお爺さんがおりましたとさ。
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