第23話

 ジークはセナたちにルドルフの護衛を頼み馬車まで下がるよう指示を出すと、自身を鼓舞するように雄叫びをあげた。


 紅き獅子は男の雄叫びに闘志を煽られ、敵意を示すように牙を剥き出す。


 睨みあうこと数秒。


 ダンッと大地を蹴り上げ、ほぼ同時に走り出した魔獣と亜人。


 両者はその肉体を、その大盾を武器に真正面から相手を打ち破らんとぶつかり合った。


 大気を揺らすかのような衝突の後、一拍の間を置き吹き飛んだのは巨体を誇る魔獣であった。


 木々をなぎ倒しながら地面へと転がりこんだ獅子に向けて、大鐘槌を振りかざし飛び掛かるジークであったが。


 魔獣もこのままやられるわけにはいかぬと、苦し紛れに暗黒の霧を吐き散らした。


 獅子の吐息には強力な呪詛が込められているが、数多の祝福によって守られているジークを呪い殺すことは叶わず。


 臆することなく死の霧へと踏み込んだジークが、一撃二撃と巨大な鐘で獅子の横腹を殴りつける。


 ジークが持つ大鐘槌は大型の鈍器であると同時に聖なる術式を行使するための触媒でもある。


 故に彼は、獅子を殴打するために大鐘槌を振るいながらその鐘の音を響かせることで攻撃とほぼ同時に聖術を発動できるのだ。


 キイャァァァァァァァァ!!


 金切り声のような音と共に、大鐘槌を中心に小規模な光の爆発が”二度”起こる。


 祝福の光…その波動は死の霧を吹き飛ばし、打撃によるダメージで動けずにいた獅子の肉体を包み込んだ。


 目覚めの慟哭どうこく


 ジークが打撃攻撃に合わせて発動した聖術スキルだ。


 被弾した対象に強力な神聖ダメージを与えるとともに、対象の神聖ダメージに対する防御力を大幅に下げ、さらに神聖ダメージ弱点を付与するというウォールセイントの攻撃の要ともいえるスキルだ。


 クリムゾンレオは魔獣系でありながら悪霊系の特性を兼ね備えた特殊な魔物だ。


 特性として悪霊を所持した魔物はほとんどの属性魔法および物理攻撃に対してダメージ軽減の耐性を持つ一方で、神聖ダメージに限り二倍のダメージを受けるという特性を持つ。


 ただでさえ弱点であった神聖攻撃。


 一度目の爆発で、神聖防御ダウンと神聖弱点付与という強力なデバフが与えられ極限まで神聖ダメージに対し弱体化したクリムゾンレオは二度目の爆発に耐えられるはずもなく。


 祝福の光が黒き霧を晴らす頃には、獅子の肉体もまた聖なる光に浄化され跡形もなく消し飛んだ後だった。






 ◇◆◇






 聖術の爆発に飲み込まれ、光の粒子となって消えていったクリムゾンレオ。


 神聖ダメージという弱点を突かれ、俺とのレベル差があってなお奴は一度目の爆発を耐えきった。


 流石に目覚めの慟哭によってデバフが付与され、特効攻撃となった二発目の爆破には耐えられなかったようだが。


 この世界にきてから一体に敵に、シールドチャージに打撃や爆発と五発もの攻撃を叩き込んだのは初めての経験だ。


(やはりEGOにおいて高レベルだった敵は、それだけ脅威になるということか…)


 今回のように一体だけで現れたならまだしも。


 二体三体…さらには数十体の規模で高レベルの敵が現れた場合、今のように俺一人で戦うというのは現実的ではない。


 仲間であるセナたちはまだ成長途中、ゲームのプレイヤーでいえば序盤を過ぎて少し経ったくらいのレベルだ。


(もしもの時を考えて。 強敵に遭遇したさいに、全員で安全な場所まで避難できる手段を考えておかないといけないな…これは)


 また一つ今後の課題が見つかったところで。


 俺はクリムゾンレオが消え去った跡に、黒ずんだ紙切れが落ちていることに気づいた。


(これは…! )


 紙切れを拾い上げ、その正体に気づくと慌てて視線を周囲に走らせる。


「っ…! 見通せ、真透の眼!! 」


 妨害されていた索敵スキルは無事に再発動できるようになっていたが。


 強化された視覚でぐるりと辺りを見渡しても、不審な影は見られなかった。


(すでに立ち去った後か…。 とにかく、みんなにこの事を報告しよう)






「魔物を呼び出す魔導書!? 」


「ああ、この焦げた紙切れは恐らく。 その一ページだろう」


「でも、どうしてそんなものが…」


「その魔導書って、ジークくんの世界のアイテムなんでしょ? 」


「ああ、そうだ。 所有者がアイテムを売りに出したという線も考えられるが、クリムゾンレオを使った今回の襲撃…その犯人は俺と同じ世界から来た書の民の可能性が高い」


「狙いはなんなのかしら…」


「それは分からないが…。 相手が本気で俺たちを殺しにきていないのは確かだ」


「どうしてそう言い切れるの? 」


「俺の範囲索敵で感知されないような位置から、スキルの発動を妨害できるような奴がわざわざクリムゾンレオとの戦闘中は索敵以外のスキルを発動出来るようにしていたんだ。 本気で仕留めにきていたのなら遠距離からスキルを封じておいたうえでクリムゾンレオをぶつけてただろう」


「あ、そっか」


「索敵スキル以外は妨害できないという可能性もあるが…クリムゾンレオを召喚できるレベルの魔導書を所持しているとなればもっと強力な魔物も呼び出せたはずだ。 どのみち、今回は小手調べ程度だったのだろうさ」


「な、なるほど…」


「あの魔物で小手調べ…なんだ…」


「さて、こうなった以上皆の意見が聞きたいのだけれど…。 このまま護衛を続けてスロイタを目指すか、謎の襲撃という危険性を考慮してパンダムまで引き返して依頼を中断するか」


「そ、そんな! 」


 依頼の中断と聞いて、ルドルフが驚いたように声を上げるが。


 パーティーを仕切っているロゼが依頼の中断について考えるのも無理はない。


 カンストプレイヤーである俺からすれば脅威度が低い襲撃でも、あの場にいたのがロゼたちだけであったのなら全滅だってありえた事態なのだ。


(依頼を続行するか、中断するか…判断するなら早いほうがいい)


 道中の移動時間もあるので、あまり時間がたってからパンダムに引き返していたのでは日が暮れてしまう。


 日が落ちれば、森を徘徊する魔物たちもより危険なものが多くなるので日中に行動出来るうちに身の振りようを考えておくべきだろう。


「あーしはここまで来たんだから、さっさとルドルフ様を送り届けちゃったほうがいいと思うんだけど」


「うん…私もそう思う」


「そう…分かったは。 ジークはどう思う? 」


「俺も二人に同意見だ。 先ほどの襲撃、その目的が分からない以上どこへ向かおうが危険度はそれほど変わりがないだろう。 であれば、依頼をちゃんと達成できたほうがいい」


「それじゃあ、護衛の依頼を続行しましょう。 皆、今まで以上に気を引き締めるように! 」


「オッケー。 ロゼっち」


「うん…分かった」


「了解した」

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