第17話

 ミローネランド。


 広大な敷地面積を誇るこのテーマパークは、大人の足でもぐるりと一周回るのに一日以上かかるというのだから驚きだ。


 特に小さな子供などは徒歩で移動していてはアトラクションで遊ぶ前にバテてしまうので、ミローネランドでは家族や個人で利用できる移動手段として魔甲装機の馬車が園内を走っている。


 馬車が通る道は歩行者の道とは分けられているので、のんびり歩いて回りたい人も馬車の通行を心配せずに楽しむことが出来るらしい。


 このミローネランドにおいて、馬車やアトラクションは全て魔甲工学に基づいた魔甲装機と呼ばれるカラクリで構成されている。


 カラクリといってもその実態は地球の機械や精密機器に引けを取らないものであり、アトラクションの中にはジェットコースターのような絶叫マシーンも含まれているのだから驚きだ。


 魔甲工学とは簡単にいえば魔法の力で物を動かすための仕組みだ。


 魔法の力で物を動かすという行為自体は古来より行われていたが、魔法の力が可能とする物事のレベルには大きな個人差があった。


 例えば、魔法の力で水をくんだ桶を浮遊させ非力な者でも一度に大量の水を運べるようにするといった単純な作業であれば大半の者が行うことが出来るが。


 対象とする物が大きくなったり、稼働させる時間が長くなるにつれて必要とする魔力の量が膨れ上がり。


 また、複雑な動作を行おうとすると魔法の扱いに対して相当高い技術力が求められ到底万人の者が成せるような物事ではなくなってしまう。


 そこで登場したのが魔甲工学だ。


 魔甲工学が生み出した魔甲装機の技術は、少ない魔力で複雑かつ巨大な物を長時間稼働させる事を可能にした。


 これにより、魔法を動力とした生活は劇的な進化を迎えることとなったのだ。


 現に、このミローネランドの全てのアトラクションを動かしている動力源はサッカーボールほどの大きさの魔石一つであり月に一度の交換で事足りる。


 緊急時に備え、魔力を供給できる専門の魔法使いが常時三人程園内に在中しているとはいえ。


 これだけ広大な施設を一か月もの間魔石一つで動かすというのは百年前には考えられなかった事らしい。


 そんな偉大な技術の結晶である魔甲装機で作られた、カラフルな馬車に乗り込み。


 俺もロゼたち家族も初となる、ミローネランドでの一日がはじまるのだった。






 ◇◆◇






 俺たちが搭乗している屋形を引いてくれているのは魔甲装機で作られた馬であり、屋形内に置かれたミローネランドのミニチュアにピンと呼ばれる小さなフィギュアを刺し込み行きたい場所を示せば自動でそこまで走ってくれるため御者のような運転手は居ない。


「お、ヌイちゃん窓の外を見てみな。 あれがこのミローネランドのシンボル、ミローネ城らしいぜ」


「お城でしゅか…! ほりゃ、ポムちゃんもみえましゅか? 」


 最初の目的地として選んだ水上アトラクション「海賊王レベッカの秘宝」へ向かう道すがら。


 窓の外に映った巨大なパークのシンボル、ミローネ城にヌイもポムちゃんも釘付けだ。


(とはいえ、大切な友だちをミローネランドに連れて来たかった気持ちは分かるが…)


 ヌイよりもさらに小さなクマのぬいぐるみ…ポムちゃんを、どこかでうっかり無くしてしまわないか少しだけ心配だ。


「ほら、ヌイ。 そろそろポムちゃんをこっちに預けときなさい。 じゃないとアンタ、アトラクションに夢中になってどこかに忘れてきちゃうわよ」


「ぶーっでしゅ! ヌイちゃんがポムちゃんを忘れるなんてなーでしゅ! 」


「ぶーって、まったくこの子は…」


「お、見えて来たぞ! アレが今から俺たちが乗る海賊船か? 」


「みたいね、なんだかワクワクするわ! 」


「きゃぷちぇんヌイちゃんが、たいとくおーのお宝みちゅけるでしゅっ」


「海賊王ね」


「うふふ。 やっぱり女の子なら一度は海賊に憧れるものよね~。 ロゼだって昔は洋服をかけるハンガーを手に持って…」


「わー! わー! ストップストップ! あっ、え、えっと。 今のはそのなんていうか…すごい昔、アタシがまだ小っちゃい頃の話だからね? 」


「ハハハ、分かってるさ。 ごっこ遊びってやつだろ? 俺も昔はよくやったさ」


「えっ、ジークも? あっ、でも。 小さい頃のジークなら囚われの王子様役とか似合いそうね」


「お、おう」


(この世界の常識だと…そんな感じになるのか)


「さ、みんな。 到着したみたいよ、忘れ物が無いようにね」


「ほら、ヌイ。 しっかりポムちゃんを連れていくのよ」


「あいっ! 」






 ◇◆◇






「ん~お腹空いたわ! 」


「だな。 午前中だけでも結構な数のアトラクションに乗れたし、そろそろお昼時か? 」


「ええ、そうしましょうか。 午後からも一杯楽しむために、まずはお腹を満たしましょう」


「ほら、ヌイ。 今からご飯食べに行くわよ。 アンタが楽しみにしてたドーナッツ、今日は特別に二つ買ってあげるから何味にするかよく考えときなさいよ」


「…………」


「ん、ヌイちゃん? 」


「ひぐっ……ぃ……なぃでしゅ……」


「ちょ、ちょっとどうしたの? 」


「…ちゃん…ぁ……ひぐっ…ポム…ちゃんが…いなくなっちゃったでしゅ…」


「なっ、どこかで落としたのか!? 」


「ウソでしょ!? だからあれ程、アタシに預けときなさいって言ったのに…」


「ひぐっ…う、うっ…」


「ヌイちゃん。 ほら、落ち着いて…ね? 」


「びぃぇぇぇぇぇぇっ!!! 」


 自分が失くしてしまったという罪悪感からか、今まで泣くのを堪えていたのだろう。


 しかし、母親であるメイさんに抱きしめられたことで気が緩んでしまったのかとうとう本格的に泣き出してしまった。


(クソっ、どうするか…)


 パーク自体がバカみたいに大きいこともあり、午前中に回った場所だけでもかなりの広範囲になってしまう。


 ましてや、ぬいぐるみであるポムちゃんは子供が抱き抱えられるほどの小ささ。


 今から探しても見つけられない可能性すらあった。


(俺は…)


― 未羽お前泣いて…? どうしたんだ!? ―


― ひっぐ、おにぃ…。 あたし…あたし…おにぃにもらったウサちゃん… ―


― !! どこかで落としたのか? 待ってろ、必ず兄ちゃんが見つけてきてやるっ!! ―





「ひっぐ…ポムちゃん…ねーねに…ひぐっ…もらった…ポムちゃん…」


「っ!! 俺が、探してくる」


「えっ、ジーク!? 」


「みんなは先にお昼を食べててくれ! 俺なら連絡手段が無くても、スキルを使えば後から合流できるから」


「で、でも…」


「行ってくる! 」


「おにいしゃん…? 」


「大丈夫。 必ず、ポムちゃんを見つけてきてやるっ!! 」

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