第13話

 最初にロゼたちに案内されたのは”司書の館”と呼ばれる書の民を手助けしてくれる施設だった。


 ここは俺たち書の民が持つ異界の通貨を、現在滞在している国のお金に両替してくれたり。


 不要になった異界のアイテムや武具を、適正な価格で買い取ってもらえる場所のようだ。


 司書の館は、遥か昔にこの世界を訪れた書の民たちが自分と同じ境遇にある人々の手助けになりたいと立ち上げた組織であり。


 書の民から買い取った異界の品々を売りさばく事で、両替に用いるこの世界の通貨を稼いでいるらしい。


「というわけなので、お兄さんも何か不要な物がありましたらじゃんじゃんお売りくださいねっ」


「ああ、了解した」


 ウサミンの受付嬢から司書の館に関する説明を受け。


 この施設が成り立っているサイクルを理解したところで少し考えを巡らす。


(さて、どうするか…)


 俺たち書の民を助けてくれるこの組織の資金源を考えれば、何かアイテムを売りに出してあげたい気もするが。


 所持しているアイテムがこの先いつ役に立つか分からない以上、気軽に手放すわけにもいかない。


(ここは慎重にいくべきか)


「売却についてはじっくり考えたい。 今日は両替だけお願い出来るか? 」


「はいっ、もっちろんですぅ! 」


 売却しなくても特に嫌な顔をされることはなく。


 ピョコピョコとウサ耳を揺らしながら、両替の手続きに移ってくれた。


「どのくらい両替しましょうか? 」


(これから先の事も含めて、よく考えた方がいいよな…)


 この世界の物価などにはまだ詳しくは無いが。


 少なくとも、今所持している異界の通貨…EGOのお金を全て両替してしまったら高校生の俺が自分で管理しきれない額の大金になることは予想できた。


 ゲーム内EGOでは武具のアップグレードに莫大な資金が要求されたように。


 今後まとまったお金が必要になる場面が訪れる可能性を考えれば、自己管理が出来ず散財してしまうリスクをわざわざ冒す必要は無いだろう。


(あまり貯金は崩さず…今は必要なぶんだけ両替しておこう)


 俺は受付嬢に、パンダムでそこそこの宿に一日宿泊するならいくらかかるかを尋ね。


 一先ず、一か月収入がゼロでも宿に泊まれるだけのお金を両替することにした。


 一か月ぶんの宿泊費だけでもそこそこの金額を一度に手にすることになるが。


 ここから個人差のある食費や、今から買いに行く鞄の代金を支払う事を考えればのくらい両替しておいた方が何かとやりやすいだろう。


「またのご利用お待ちしておりま~すぅ」






 ◇◆◇






「ねっ、ジークがよかったら明日からアタシたちの仕事に加わってみない? 」


 無事にゲームブックを仕舞っておくための鞄を手に入れ。


 日も沈み始めたので、そろそろ今日から泊まる宿を探さないとだなと思い始めた頃。


 ロゼが明日から自分たちのパーティーに仮加入してみないかと待ちかけてきた。


「ジークが書の民の目的のために、この街を離れる事になるまではアタシたちが力になるわよ」


「うん…」


「ヌイちゃんの命の恩人なら、あーしも異議なーし」


「いいのか? 今まで三人でやって来たところに…急に俺が加わっても」


「そこは気にしないで平気よ。 それに、いくらジークが書の民とはいえ男の人が一人で冒険者をやるのはあまり得策ではないわ」


「うん。 男の人だけだと、少しでも危険な仕事はギルドの判断で他に回されちゃうし…」


「冒険者崩れのならず者には目付けられるし、やっぱ危ないっしょ」


「なるほど…」


 正規の冒険者は、悪事を働くと自分やパーティーの評判に悪影響を及ぼし仕事にも直結するので世間で思われている荒っぽいイメージに反して想像以上に礼儀正しいし決められたルールもしっかりと守っていた。


 現に午前中冒険者ギルド支部を訪れた際には、俺が男だからといって変に絡んでくるような女冒険者は一人もいなかった。


 しかしセナが口にしていた冒険者崩れと呼ばれるならず者たちは、格安の料金で魔物退治などの荒事を引き受けてくれるがギルドに登録されておらず、等級のような評価システムもないので素行に問題がある場合が多い。


 俺一人で活動していては、受けられる仕事が大幅に制限されてしまったりそういった冒険者崩れに絡まれる心配があるということはロゼたちの話でよく理解出来た。


(これからA等級を目指して行くなら、やはりパーティーを組んでおいた方がいいだろうな…)


 こうして、せっかくロゼたちがパーティーに誘ってくれていることだし。


 俺もまったく面識の無い人と組むよりは、ロゼたちのパーティーに加わらせてもらった方が断然やりやすい。


「なら…ありがたく。 明日からパーティーに参加させてもらおう」


「いぇーい、そうこなくっちゃ! 」


「ちょっとセナ、あんまり跳ねないの。 アンタの無駄にデカい胸が揺れてはしたないわよ」


「え~? ロゼっち、それ。 あーしの巨乳への嫉妬ですか~? 」


「違うわよっ! 」


「ジークくん、バカ二人は放っておいて…先行こ? たしか…今日から泊まる宿を探してるんだよね。 よかったら、私が泊ってるところ…紹介するよ」


「あー! ルリコまた抜け駆けしてるしっ! 宿ならあーしのところがオススメに決まってるっしょ」


「あっ、その事なんだけど…。 ジークがよかったら、今日もウチに泊まってかない? 」


「「……」」


「きょ、今日も…? 」


「えっ、ちょ、何それロゼっち!? あーしら、そんな話聞いてないんですけどー!! 」


「き、聞かれてなかったしいいでしょっ! それより、ほら。 ヌイもジークが泊ってくれたら喜ぶと思うし…どう、かな? 」


 いつのまにやら、三人はこちらに顔を向け。


 誰の宿(家)についていくかという話になってしまっていた。


― おにいしゃん…もう行っちゃうでしゅか…? ―


 また会いに行くと約束したとはいえ、今朝のヌイの泣き顔を思うと。


 ロゼが言うようにヌイを喜ばせるためにも、ロゼの家へ行くのはありかもしれない。


(だが…)


「ロゼの家には、昨日もお世話になったのに。 迷惑じゃないのか…? 」


「いいのいいの、ヌイだけじゃなくてお母さんも喜ぶと思うし。 出ていった父さんの部屋も空いてるから、ちょうどいいわよっ。 アタシの家なら、宿代も浮くしなかなか魅力的でしょ? 」


「それは…たしかに。 なら、ロゼのところにお世話にならせてもらおう。 ヌイにも、また遊びに行くと約束したしな」


「決まりねっ! 」


「まさかの…敗・北」


「う~ヌイちゃんとの約束は反則っしょ~」





 こうして、当面はロゼの家にお世話になることとなった俺は。


 家主であるメイさんと話し合い。


 まだ若い男である俺からお金を受け取るという行為に抵抗があったメイさんに、なんとか納得してもらい。


 朝食などの食費や、個人で使う生活用品などの代金は毎週俺自身が支払う事で話がついた。


 いくら男に優しい世界とはいえ、その好意に甘えたままでいるというのはどうも性に合わず。


 居候という形でただでさえ宿代を浮かさせてもらっているのに。


 食事やお風呂まで全てタダというのは、俺自身が納得出来なかった。


(もとの世界と比べたら、色々と変わった世界だけど…。 受けた恩や親切への感謝を忘れちゃダメだよな…)


 この世界に転移させられてから、何かと世話になっているロゼとその家族に心から感謝しつつ。


 転移から二日目の夜は温かい家の中で更けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る