第10話

「それじゃあまた明日、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 流石に年頃の男をこの時間帯から一人で外には出せないと、泊っていくようにいわれ。


 もともと行く当てもなかったのでありがたく今晩はお世話になる事にした。


 俺が通された部屋はもともとはロゼたちの父親…メイさんの元夫の部屋だったらしく。


 元とつくように、その父親はヌイが生まれてすぐに家を出て行ってしまい現在は離婚が成立しているらしい。


 ロゼから聞いた話では、離婚してすぐに別の女と再婚し子供も授かった父親とは今はもう顔を合わせる機会も無いのだという。


 酷い話ではあるが、この世界ではよくある話らしく。


 男女比があまりにも女性に多く偏っている関係上、相手の男が既婚者と知りながらアプローチする女も少なくないらしい。


(だからといって、家族を放ってまでその誘いに乗っちまうのはどう考えてもアウトだろ…)


 顔も知らないヌイたちの父親に対し、そんな憤りを感じながらベッドにゴロリと横になった。




「…………」


(クソ…なかなか寝付けないな)


 今日一日、色々な事があり疲れている筈なのだがどうも目が冴えてしまう。


 仕方が無いので一度体を起こし、まだ目を通せていないゲームブックのページを読みながら眠気が訪れるのを待つことにした。


(そうだ、今のうちに確認しておくか)


 ゲームブックを召喚してすぐに目を通した簡易ステータスとは違い。


 俺の習得しているスキルや各能力のパラメーターが細かく確認できる詳細ステータスのページを表示する。


 職能に紐づいたスキルをはじめとし、種族スキルや習得に縛りが無い共通スキルなど。


 俺が現在覚えているスキルだけでも軽く百種類は超えているため。


 一つ一つスキルの詳細を確認し直すのには根気がいるが、この世界を生き抜く上では自分の力を正しく把握しておく必要がある。


 スキルを一つづつタップし、説明文を開いては頭に叩き込んでいく。


(ん、これは…)


 スキル一覧を読み進めていくなか、現在俺が発動しているパッシブスキルのなかから興味深いものが見つかった。


 不動なる心壁。


 体質系にカテゴリーされるパッシブスキルの一つで、その効果は精神系状態異常に対する超強力な耐性を獲得というシンプルなものだ。


 EGOでいう精神系状態異常とは、プレイヤーの操作とは関係なくその場から逃亡してしまう「恐怖」や攻撃力が上昇するが防御力が下がりアクティブスキルの使用が制限されてしまう「激昂」など主に思考や心に関連した状態異常のことを指す。


(恐らく、俺が今も落ち着いていられるのはこのパッシブスキルのおかげだろうな…)


 今日こうしてヌイの家族と過ごしたことで、あまりにも突然の別れになってしまった家族の事が頭から離れてくれなかった。


 無口だが家族思いな父さん、優しいけど少し心配性な母さん、クソ生意気になったけど大切な妹。


 一つ年が離れた妹の未羽みうとはしょっちゅう喧嘩もしたし、親の事を口うるさく思うこともあった。


 だけど、心の底から嫌になる事なんて一度もなかったし…あたりまえの存在過ぎて、いまだに会えなくなってしまったという実感が湧いてこない。


「みんな、どうしてんのかな…」


 悲しみや寂しさを、確かに感じている筈なのに…何故だが涙は出てこなかった。


(不動の心壁…。 心の壁、か)


 ただの高校生だった俺の心は、本来ここまで強くなかった。


 俺がジークになったことで、心の弱い部分を守ってくれる壁が生まれたんだ。


(本当に変わっちまったんだな、俺)


 突然放り出されたこの未知の世界を生き抜く上で、このスキルはきっと頼もしい力になる筈だ。


 だけど。


 今日だけは。


 家族を思い泣く事すら出来ない自分を…虚しい存在になってしまったと。


 そんな風に、思ってしまうのだった。






 ◇◆◇






 翌朝。


 ありがたいことに、朝食までご馳走になり。


 他愛もない会話がひと段落すると、ロゼが壁に掛かった時計を確認し椅子から立ち上がった。


「丁度いい時間ね。 ジーク、そろそろ出ましょうか」


「そうだな。 メイさん、お世話になりました」


「いえいえ。 また顔を見せに来て下さいね」


「ぇ…。 おにいしゃん…もう行っちゃうでしゅか…?」


「ああ。 ヌイちゃんも、またな」


「も、もうバイバイでしゅか…?? ヌイちゃんと…もう会えないでしゅか?? 」


「ハハ、ったく…そんな悲しい顔しないでくれ。 ロゼと話してみて、暫くはこの街で活動する事に決めたんだ。 ヌイちゃんがいいなら、また遊びにこさせてくれよ」


「ほ、ホントでしゅか…! やくしょく。 やくしょくでしゅよ! ぜったいぜったい、あしょびに来てくだちゃいね! 」


「おう、約束だな」


「ヌイもアタシが居ない間ちゃんとお母さんのいうこと聞いて、いい子にしてるのよ? 」


「あいっ! ヌイちゃんいい子でしゅ! 」


「それじゃ、そろそろ…」


「ええ、気を付けていってらっしゃいね。 ジークさん、くれぐれも無理はしないで。 ロゼ、ちゃんとあなたがサポートしてあげるのよ」


「はいはーい、分かってるわよ」


「おにいしゃん、ねーね。 いってらっしゃいでしゅ! 」


「「いってきます! 」」


 ヌイとメイさんに見送られ。


 ロゼと共に俺はパンダムの冒険者ギルド支部へと向かう。


 本来であれば一刻も早く、優斗を探しに行きたいところだが。


 書の民である俺が、何の計画もなしに行動するのは無謀だとすぐに気付かされた。


 そもそも、この世界で冒険者として活動し生活に必要な日銭を稼ぐにしても。


 現在所持している冒険者手帳をそのまま使用することは出来ず。


 俺たち書の民は、使えなくなった冒険者手帳をギルドに返却し再登録の手続きを行わなければいけないらしい。


 冒険者としての等級もリセットされるため、国を自由に行き来して活動するためには一先ず一定の等級まで冒険者のランクを上げなおさなくてはならないのだ。


(国を跨いで活動出来るようになれば、優斗の捜索もゲームブックの攻略も格段にやりやすくなる…)


 戦争状態の国家を除けば、ほぼ全ての国を自由に出入り出来るようになる「A等級第五階位冒険者」への到達。


 当面はこれを目標に掲げ。


 俺はドラミンの冒険者ジークとして、このパンダムの街で再スタートを切るのだ。


(必ず、優斗を見つけ出して。 家族が待つ俺たちの世界へ、二人で無事に帰ってやるッ!! )

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