第151話
(……また、会えますか)
私が二人に向き合うと、彼らはキョトンとした後クスクスと笑った。
『どうだろうか、俺らはどうせ地獄だしなあ』
『お前はこっち側じゃねぇだろ』
あの世でも、もう会えないのか。これが本当に最後なのか。
そう思うとやはり寂しくて後ろ髪引かれる思いだった。そんな私の感情を読み取ったのか、マルがガシガシと頭をかく。
『──でもまあ、生まれ変わって次に会うときは、もうちょっとマシな人間になることにするわ。だからお前も、その激弱をなんとかしとけよな』
(──はいっ)
照れたようにそっぽを向いて、『行けよ』と指差した先に──この真っ白な空間にインクを落としたような黒い円が小さく見えた。あそこから戻れるらしい。
二人に背を向け足を踏み出そうとして、やめる。振り返ると、ずっと言いたくても言えなかった言葉が口をついて出た。
(──ごめんなさい、あなたたちを救えなくて)
マルが心外だとばかりに『はあ!?』と大声をあげる。デケンはまたゲラゲラと笑っていた。
……笑われるようなことを言ったつもりはないんだけれど。
『ばかか、お前に助けられるなんてカッコわりーだろ!』
『お嬢ちゃんのせいじゃない。むしろお嬢ちゃんのおかげで、最後は楽しかったよ』
そう笑い飛ばしてくれるから私の心は一気に軽くなって、また涙が滲んだ。
(──ありがとう、ございました……!)
『……ほら、行け』
ポン、とマルに背中を押されて私は歩き出す。小さな暗闇の待つ方へ。
──黒はあなたの色。もう怖くはないよ。
私の顔ほどの大きさの黒い円の中に、躊躇いなく私は手を入れた。ぐっと何かに手首を掴まれて、私は闇へと引き寄せられた。
白い光の世界から抜けて──私はまた月の光だけが差し込む水の中へと戻ったのだった。
腕を引かれる力に身を任せ、私の体は上昇する。ついには水面に反射する光が鮮明に見えて──。
「──けほっ……」
私は泉から顔を出した。肺いっぱいに空気を取り込もうと急いだことで咳が出る。
「……あ」
目を開けたらそこにあったのは、月の光を背にした漆黒の瞳だった。もう泉の底は浅くなっており、足はしっかりとついている。
「イェナ様……」
私の腕を掴むのは、紛れもなく目の前の人だ。痛いくらい強く握られるが、今は殺気を感じない。指輪も反応しなかった。
「……許さないよ」
──やっと、その真っ黒な瞳に再び私が映ったような気がする。彼の瞳に映った自分と目を合わせたのは久しぶりだ。
「勝手に消えるなんて、許さない」
頬を滴が伝う。それは泉の水なのか、涙なのかは自分でも分からなかった。
イェナの言葉にどんな意味があるのか、今の私には分からない。でも、本来の彼の思いが混じっているような気がして……私は決意を固めた。
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