第97話


 アインとすれ違いで主人公パーティーが医務室へと駆け込んでくる。どうやら試合が終わったようだ。

「ナツ!!」

「ノエン様?」

 真っ先に息を切らして駆け寄ってきてくれたノエンに慌てて起き上がる。今度はイェナも止めなかった。


「大丈夫なのか!?」

 肩をガッと掴まれて問いかけられる。何度も頷くと──。

「……よかった」

 そう溢したと同時に、温かな体温に包まれる。ノエンが優しく抱きしめてくれていた。


 イウリスがヒューッと煽る。お前にはもっと私に感謝して欲しいんだけどな!?……とは、言わなかったけど。


「ぐえっ」

「……試合の前に殺してやる」

「えええええイェナ様!?」

 黙ってノエンの腕の中にいれば、いつの間にかイェナの武器、鋼線がノエンの首に絡みついて肌に食い込んでいる。実の弟であるノエンの息の根を止めてしまいそうになるのを慌てて止めた。


 ノエンが名残惜しそうに体を離すと、入れ替わりでイウリスが私の頭をなかなか強めの力でポンポンとたたく。

「……ありがとな!」

 今まであまり思わなかったけど、にかっと笑ったその顔はやっぱりカッコいい。さすが主人公だ。


 この流れでセリスにも……と思ったが、そろそろ婚約者のイライラがピークに達しそうなのでやめておいた。


「こいつも、お前に礼を言いたいんだと」

 そうイウリスが言って、ある少女を前へ押し出す。不安そうにこちらへ歩み寄ってきたのは私が助けたサリー本人だった。

「あなたが私を救ってくれた方ですか……?」

 おずおずと上目遣いで見つめる可憐な少女。さっきはあまりまじまじと見られなかったが生で見るとまるで人形のように可愛い。

「サリーと申します……」

「ナツです……」

 お互い遠慮がちに自己紹介をする。


「そうだ!怪我!怪我してない?」

 ぎこちない会話から一転して、慌てて怪我の有無を聞く。私が生まれて初めて守った命。パッとみた感じは特に大きな傷はなさそうだ。


「はい、ナツさんが治してくださったので……」

「ナツはお前を庇ったせいで満身創痍だったけどね」

「イェナ様!!」

 ホッとしつつ、空気を読まないイェナを嗜める。

「だ、大丈夫だからね!?完璧に治してもらったから!」

 そう言って腕をぐるぐると回し、元気なことをアピールをするとサリーは肩の力を抜いて安堵した。

「よかった……」


 いい子だな、とほっこりしているとイェナは不満そうにサリーを見ていた。私の怪我はこの少女のせいだとも言いたげだ。サリーはそんなイェナを一瞥し眉間にシワを寄せるが、すぐに私に笑みを向けた。


「あの……ナツさん、おねえさまと呼んでもいいですか?」

「もちろんだよ!おいで〜」

 両手を広げてハグを求めればサリーは素直に飛び込んでくる。なんてラブリーなの。私が「おいで」と言った瞬間、イェナがピクリと身動ぎしたのを目の端に捉えたが今は気に留めないことにする。

「怖がらせてごめんね」

 少女を抱きしめて頭を撫でる。彼女にだけ聞こえるように呟くと、サリーは小さく首を横に振った。


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