第79話
予選は滞りなく終わり、無事にノエン達は勝ち上がった。
あれからセリスの対戦だけは何故かイェナに見せてもらえず、頬を膨らませていた私にアロが「かわいいね」と近付いてペンダントの罰を受ける──というやりとりを何度繰り返したか分からない。
そして1日の休息日を挟み、予選で勝ち上がったチームとアロチームを含めた16チームでの本戦が開始された。
「イェナ様ファイトです!」
「……うん」
VIPルームでアロとイェナ、そして彼らのチームメイト黒騎士を見送る。この部屋はセキュリティもしっかりしているから安全だとイェナが貸し切りにしてくれたらしい。試合が始まれば、熱気に囚われた観客が見境なく襲ってくるかもしれないからと、ここで見ているように言われたのだ。
「余裕で勝ちますよね」
「当たり前だろ」
結果など知っているけれど。それでも心配なのに変わりはない。イェナの手をギュッと握って祈りを込める。そして手を離すと彼は私の頭をぽんぽんとたたいた。
「……二人とも先に行っててくれる」
アロと黒騎士にそう告げたイェナ。二人はやれやれと首を振って会場へと向かう。
「イェナ様は──」
行かないんですか?と聞きかけて、言葉が止まる。彼の腕に包まれて、優しく抱きしめられたからだ。
「心配しなくても、負けないから」
「え……」
「ナツの願いならなんでも叶えるよ、オレは」
私の不安を汲み取ってくれたような囁く声が耳を擽る。無言で頷けば、イェナは私の顔を上に向けてそっと額に口付けた。
「大人しくしておきなよ。終わったらすぐ迎えに来る」
「あ……!」
離れかけた腕を思わず掴む。不思議そうなイェナを引っ張って──。
「……!」
前屈みになった彼の唇目掛けて、そっと自分のものを押し付けた。
「い、いってらっしゃいのキスです!」
すぐに離れると恥ずかしくて目を逸らしてしまう。横目でチラリと見たイェナはぽかんとしていた。今までに見たことがない類の表情だ。
いたたまれなくなって、イェナの背中をぐいぐいと押しVIPルームから出す。こちらを振り返った時にはもう無表情に戻っていたけれど──
「……“おかえりのキス”も期待していいってことだよね」
期待の込められた目で見てくるから「早く行って!!」と闘技場を指差した。
「──いってきます」
まるで新婚のような甘い雰囲気に噎せ返りそうになりながら、それでも大好きな人の背中が見えなくなるまで廊下で彼を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます