第44話 不良グループとの戦い




「お前は、西園寺!? それと……テメェは誰だ?」


 山戸は唯織先輩の存在に気づきつつ、僕のことは忘れていた。


「ケ、ケンちゃん……こいつら拳銃持ってんじゃね!?」


「マジかよ~、ここ日本だぜ~!?」


「んなバカな。本物なわけねーじゃん」


 不良達は僕達が銃器を所持していることに不審に思っている。

 実際に撃ってやれば思い知るだろう。

 竜史郎さんからもGOサイン出ているしな。


 でも相手はあくまで人間……。


 僕もようやく、狙撃用Ⅿ24ライフルで人喰鬼オーガを撃てるようになったところだ。

 流石に人を殺めるのに抵抗がある。


 だけど、こいつらはクラスメイトの中田に動画配信させて、人喰鬼オーガに襲わせた外道達。

 他にも調達班の生徒達が、こいつらの餌食になっている……。


 ならば、こっちだって――。


「――弥之みゆき君、ここは私に任せてほしい」


 唯織先輩が僕の前に立つ。


「先輩……どうするつもりですか?」


「追っ払うに決まっているだろ? 奴らに大事な備蓄品を渡すわけにはいくまい」


「一人でやるつもりですか? ここは僕も戦います」


「いや、キミは両腕を負傷している。それに、その拳銃で人を撃てるのか? ここは私に任せてほしい。それとこれを――」


 唯織先輩は短機関銃ウージーを手渡してきた。


「これは?」


「預かってほしい……それを持っていると、つい撃ちたくなる衝動に駆られてしまう。私とて人を殺めるのに抵抗はあるよ」


 確かに彼女は重度のトリガーハッピーだからな。

 意外と自覚していたんだ……いや、そんなこと言っている場合じゃない。


「けど、唯織先輩!」


「大丈夫だ、弥之君――」


 唯織先輩が振り向いた途端、僕は気づく。


 眼鏡越しで彼女の双眸が、瞳孔が赤く染まっていることを――。


 ああ、そうか……唯織先輩も有栖と彩花と同様……。


 僕は黙って頷き、見守ることにした。



「西園寺ぃ! まさかテメェ自らが、こんな場所にいるなんてなぁ! ここのバケモノはお前が殺ったのか!?」


 山戸は近づく唯織先輩に向けて叫ぶ。


 地下室の感染者オーガ達は、奴らが誘導して閉じ込めたものだ。

 この先にある貯蔵庫に、非常時用の備蓄品と物資があるとも知らずに。


「だとしたらどうする、山戸?」


「生徒会長のテメェがここにいるってことは、この辺に何か重要なモノが存在する! そうだろ!?」


「流石、薄汚いハイエナ……大した嗅覚だと褒めておくぞ」


 唯織先輩は挑発しながら、ゆっくりと近づいて行く。


 身体強化された者は戦闘モードに入ると気性が荒く攻撃的になる。

 有栖や彩花がいい例だ。


 ――唯織先輩も同様。


 『黄鬼』から、僕を噛んだことで人間に戻り強化された存在となっている。


「西園寺ぃ、テメェ! 一人で何イキってやがるんだ! ああ!?」


「乳もぎ取るぞぉ、コラァ!」


「俺ぇ、前からこの女に目を付けてたんだ! 捕まえて犯してやろうぜ!」


 不良達がサバイバルナイフや鉄パイプを取り出して威嚇する。


 山戸はニヤつきながら、親指を立て合図を送ろうとしている。


「やってみろ!」


 先に唯織先輩が駆け出した。


 目で追うのがやっとの瞬足。

 あっという間に不良達と距離を詰める。


 そして――



 バキィッ!



「ぶへぇ!」


 不良の一人の頭部にハイキックが決まった。

 鋭くキレのある洗練された蹴り技だ。

 身体強化されているとはいえ、素人がなせる範疇ではない。


 蹴りを食らった不良は吹き飛ばされ、壁に激突して動かなくなった。


 山戸達は大口を開けたまま、眼前の光景を愕然と見入る。


 唯織先輩はチラッと僕の方に目線を向けた。


「……弥之君。言い忘れていたが、私は空手の有段者でもあるのだよ」


 そ、そーなんっすか……。

 素手でもお強いってことですね。


 おまけに身体強化された超人的な状態だから、よりヤバすぎる。


「西園寺ぃ、テメェ!」


 不良一人がサバイバルナイフを握り突き刺そうと迫って来る。

 人を刺すのに躊躇しない外道のようだ。


「ふっ!」


 唯織先輩は素早くナイフを躱し、腹腔に力を溜めて手刀を繰り出した。


 バキっという鈍い音と共に、サバイバルナイフが床に滑り落ちる。

 手刀で武器を持った手首をへし折ったのだ。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ――ぐわぁ!」


 不良は悲鳴と共に、顔面に正拳突きを浴びて倒された。


「こいつ、やべぇ! めちゃ強ぇぇぇっ!」


「うわぁぁぁぁぁ、逃げろ!!!」


 二人の不良は悲鳴を上げ、武器を捨てて逃げ出して行く。


「お、おい! テメェら!」


 リーダー格の山戸だけが、その場に残される形となった。


「さて、山戸君。貴様はどうする? どっちにしても逃がさんがな」


 唯織先輩は拳をバキバキと鳴らしている。

 まるで世紀末の救世主ばりに勇ましい。


「糞がぁぁぁぁ! テメェのような優等生女に暴力で負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」


 やけを起こした山戸は唯織先輩に殴り掛かる。

 だがすぐに躱され、カウンターのフックを脇腹に食らった。


 ボキッと鳴る鈍い音。


 おそらく肋骨が何本か折られている。


「ぐはぁ! ち、ちくしょうぉぉぉ!! 西園寺ぃぃぃぃ!!!」


「山戸……キミは弱いな。身も心も……少しは彼を、弥之君を見習いたまえ」


「み、弥之だと……あ、あいつは、そうか……夜崎 弥之?」


 山戸は脇腹を押さえ蹲る。

 顔だけを上げ、こちらを凝視してきた。


 ようやく思い出したのか、僕の名前を呟いている。


 ――って、可笑しくないか?


 どうして、山戸が僕の名前を知っているんだ?


 そういや、こいつには、ある疑惑があった。


 僕を監禁した『白コートのアラサー男』と繋がっている可能性だ。


 一ヵ月前、山戸が僕に絡みカツアゲをした際、事前に誰かと打ち合わせをしたような言動が聞かれている。


 ――現に、あの後から事が起きているんだ。


 僕が高熱を出して、笠間病院で緊急搬送され入院となり、その夜に意識を失わされたこと。


 空白の一ヵ月間となり、僕の身体は『白コートのアラサー男』に何かを施されたんだ。



 人喰鬼オーガウイルスの抗体を持つ体質へと――。



 あくまでピースを組み合わせた憶測の範疇だ。


 だけど、笠間病院の『裏患者リスト』に僕の名前が載っていたこと。

 癒着していた『西園寺製薬』が何らかの形で関与していること。

 『白コートのアラサー男』が西園寺製薬の研究員である可能性。


 ――全て、あの日から始まったことだ。


 山戸は何か知っているのか、知らないのか……。


 どっちにしても聞き出す必要があると思った。



「唯織先輩! そいつには聞きたいことがあります!」


 僕は大声で叫び駆け出した。


「弥之君?」


 唯織先輩が後ろを振り向いた瞬間。


「ぢぐじょうぉ! 覚えてろよ!!!」


 山戸は捨て台詞を吐き、出口の扉へと向かって逃げ出した。



 ゴッ!



「ぶぼぉぉぉ!!!?」


 突如、開いた扉から拳が出現し、山戸の顔面を殴りつけた。


 山戸はコンクリートの床に後頭部と背中を強打し、そのまま意識を失う。


「――フン。どっかからクズ鼠が入り込んでいたようだな」


 竜史郎さんだ。


 彼の背後に、大熊先生と生徒達が並んでいる。

 どうやら運搬係の護衛をして、ボイラー室に戻った際に殴ったようだ。


 でも、竜史郎さん。強化されてなくてもめちゃ強えぇ……。


「少年にイオリ、怪我はないか……いや心配するだけ無駄のようだ。そうか、イオリも嬢さん達と同じになったのか……」


「嬢さん? 姫宮さんのことですか?」


 唯織先輩は首を傾げる。


「後で説明しよう……それと、そこで倒れているクズと同じ『反生徒会派』と思われる二人を捕らえたぞ。どうせ後々始末する予定だし、このまま人喰鬼オーガの餌にするべきか、イオリの意見を聞きたくてな」


「いえ、そのまま逃がしてください。こちらまでクズに成り下がるわけにはいきません」


 眼鏡のブリッジ部分に指を添え、はっきりと言い切る唯織先輩。


 竜史郎さんは「ほう……」と呟いた。


「甘いのか、誇り高いのか……本当に西園寺の人間とは思えんな。まぁ、ここのリーダーはイオリだ、従おう」


 黒のキャスケットを被り直し、ニヤッと口元を歪ませる。


 心なしか、唯織先輩を認めたような気がした。






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