第29話 向けられた銃口




「ん? どの階段も破壊されている……生徒会派のみんなは、どこで立て籠もっているの?」


 随分と長い距離を歩かされてと思ったら、行くところの階段が全て壊されている。

 あからさまにハンマーや何か工具を使った人の手によるものだ。


「三階ですよ、夜崎先輩。拠点は生徒会室ですけどね」


 城田は素直に答えてくれる。

 あれから何故か無視されなくなった。


人喰鬼オーガが上の階に昇られないようにするためだな。ってことは、どこかに梯子かスロープがある筈だ」


「流石は久遠さん、その通りです。非常階段にロープ梯子があります。そこから昇っていくんですよ」


 イケメンである竜史郎さんの質問には語尾にハートマークがついている気がする、城田 琴葉。

 

 何でも二階も同じように階段を壊している二段構えだとか。

 この辺が指揮した生徒会長である西園寺先輩の大胆かつ慎重な配慮だ。


 ちなみにハンマーや工具で階段を壊したのは、体育教師の大熊先生と複数の男子生徒によるものらしい。

 

「ねぇ、琴葉。さっきのカス、『反生徒会派』だっけ~? あいつらはどこを根城にしてんのぉ?」


 彩花は人懐っこく聞いてくる。

 もう名前で呼ぶなんて、不登校だった割にはフレンドリーな金髪ギャルだ。


「うん、体育館の屋上だよ。こちらを真似て階段は壊しているみたいだね」


 生徒会派を否定している割には真似が多い気がする。

 おまけに言っていることといい、やっていることといい……ほとんど世紀末世界の「ヒャッハー達」の思想だ。

 あんな連中をこのまま野放しにして良いのやら……。




 それか嘗て非常階段があった場所に行くと、二階から他の男子生徒が顔を覗き込んできた。


 城田は「梯子を下ろして」と頼むと、上からロープ梯子が下ろされる。

 何でも彼は当番制の『梯子係』だそうで、三階にも同じ役割を持つ生徒が配置されているらしい。


 全て西園寺先輩の采配か……やるな、あの生徒会長。


 そう考えながら梯子を昇って行く。

 色々あったからか、僕の体力や筋力も戻っていると実感する。


「……姫宮さん? それに、その人達は? 他のみんなはどうしたの?」


「色々あったんです。みんなは、また反対派に仕掛けられて……私も危なかったけど、この人達が助けてくれたんです。姫宮さんもその一人です」


 城田は割愛しながら、梯子係の男子生徒に説明する。

 密かに有栖を庇う言動が聞かれているのは嬉しい。


「玄関に設置されたバリケードも元に戻したので安心してください」


 一応、僕もフォローする。


 男子生徒は「わかった」と納得し、今度は三階の非常階段のあった場所へ向かい、同じ工程を繰り返した。


 手間暇が掛かる分、それだけ感染者オーガ除けになっているんだなっと実感する。



 そしてようやく三階に到着した。


 先に伝達当番の生徒が知らせに行き、その上で僕達は城田に案内され生徒会に向かった。 


 そういや僕は、生徒会室に行くのは初めてだ。



「――失礼します」


 城田が扉を開け、僕達は室内へと入る。


 荒れ果てた校内の中で最も整っており清潔感の溢れる光景。

 初めて入るのに、どこか懐かしい雰囲気を醸し出している。


 そう、人喰鬼オーガウイルスが蔓延する前の世界だ。


 大きなテーブルが部屋の真ん中に設置されており、左右に教師と生徒が分かれて座っている。


 右側には体育教師の大熊先生。

 角刈りで体格が良く、いつも上下のジャージを着ている男性。

 確か生活指導担当している熱血漢で、31歳の独身だ。


 その隣には国語教師の御島みとうかおる先生がいる。

 27歳の女性で黒髪を後ろに結んだ温厚そうで優しい顔立ちをしている。

 

 左側には生徒会副会長の冨樫とがし 義彦よしひこという三年生の先輩だ。

 眼鏡を掛けた如何にも真面目そうな優等生タイプだ。


 富樫先輩の隣席は設けられているも空席なのが気になる。

 本来は書記である筈の『笠間 潤輝』の席なのだと思った。


 そして、中央の席でテーブルに机に両肘を立てて寄りかかり、組んだ両手を口元に添えている女子高生が一人。


 凛とした清潔感溢れる雰囲気を持ち、眼鏡を掛けた綺麗系の美少女。

 黒髪のポニーテールに、見事なまで育った大きな胸部。

 彼女は美ヶ月学園の生徒会長、


 ――西園寺 唯織いおり


 その人だ。


「話は大方聞いております。どうかお座りください」


 張があり威厳が込められた声と口調。

 学園の女王様は健在らしい。


 僕達は用意された椅子に座った。


 何故か、しばらく沈黙が流れる。

 まるで圧迫面接を受けている重い気分だ。


 僕は横目で竜史郎さんの横顔を見つめる。

 キャスケットの奥から覗く切れ長の双眸で真っすぐ、西園寺先輩だけを捉えていた。

 他は無表情だからわからないけど、普段とは違う怖い雰囲気を感じてしまう。


 香那恵さんも同様だ。

 けど彼女の場合、怖さというより迷いを感じる。

 時折瞳を逸らし戸惑った表情を見せていた。


「ちょい、リュウさん。せっかく会えたんだから、何か言った方がいんじゃないの~?」


 彩花が痺れを切らし、沈黙を打ち破るように言ってくる。

 ギャルだから空気読まないのかと思う反面、重圧感から解放してくれたようで感謝もした。


 竜史郎さんは「……そうだな」と一言発した。


「俺は久遠 竜史郎だ。お前が『西園寺 勝彌かつみ』の娘だな? 親父はどこにいる? 今すぐ会わせろ」


 突然、立ち上がり腰ベルトのホルスターから自動拳銃FN ブローニング・Pを抜き、西園寺先輩に対して銃口を向けた。


「お、おいキミ!?」


 大熊先生が立ち上がろうとした瞬間、喉元に日本刀の刃が当てられる。


「どうか動かないでください。私に人を斬らせないで……」


 香那恵さんが刀を抜いて威嚇する。


 なんだ? どういう状況だ、これ?


「ちょっと、竜史郎さんに香那恵さん! これはどういうつもりですか!?」


「安心しろ、少年。この女以外に危害を加えるつもりはない。だが抵抗したら死者は出るかもしれん」


「安心できますか!? 何考えているんですか!? 香那恵さんもやめてください!」


「ごめんなさい……弥之くん。そればっかりは聞けないわ」


 え? ええ!? ど、どうこと!?

 どうしてそうなるの!?


 困惑しているのは僕だけじゃない。


 有栖も戸惑い状況が飲み込めず、大きな瞳を見開き呆然としている。


 だが、こいつだけは違った……。


「にしし♪ リュウさんにカナネェさん、ウケる~! 面白くなってきたね、センパイ」


「彩花、アホか! ニヤついてないで、お前も二人を止めてくれよ~!」


「やぁ~だよ。あたし部外者だしぃ~。それにお互い協力し合うって約束だしぃ~、やれやれ」


 このぅ、金髪ギャルがぁ~!

 どいつもこいつも本性ばっかり見せやがって~!


 しかし、竜史郎さん達の目的はわかったぞ。


 ずっと彼が言っていた『借りを返す』って意味――。


 西園寺先輩のお父さん、『西園寺 勝彌かつみ』を殺すことだ。


 パンデミックを巻き起こした人喰鬼オーガウイルスといい……。


 笠間病院との癒着といい……。


 僕の身体といい……。


 これまでのことを踏まえ、その『西園寺 勝彌かつみ』って人を善か悪かと問われれば、僕も『悪』じゃないかと答えてしまう。


 きっと竜史郎さんと香那恵さんなりの理由があり、二人の兄妹が戦っている目的なんだ。


 だけど娘であるってだけで、西園寺先輩に銃口を向けたり、こんな脅迫まがいのやり方は間違っている。


 彼女は他の生徒達のために、危険を顧みずに一生懸命頑張っている人じゃないか!?


 僕には『西園寺 唯織』が悪とは思えない!


 これだけは、はっきりと言えるんだ!


 そして、僕は――


 胸のホルスターから自動拳銃Mk.23を引き抜いた。






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