第9話 残酷な再会
ようやくあのウイルスが終息したのに、今度は別のウイルスが世界中に蔓延して、周りの住民が
まるで生きる屍のように――。
戸惑う僕に、竜史郎さんはそっと肩に手を置いた。
「香那恵は行方不明になった少年のことをずっと気に掛けていたよ。当時、紛争地にいた俺にわざわざ知らせたくらいだったからな。丁度その頃、国内でも原因不明の新型ウイルスの感染者が急増しクラスター状態になっていた。日本政府も緊急事態宣言後、ついに鎖国に踏み切ったくらいだ」
「鎖国ですか?」
「ああ、特に日本は他国に比べて感染者の増加が異様に早かったからな。賢明と言えば賢明の判断だ。おかげで俺も帰国できず、密航するに至ったってわけだ」
けど、ついでに違法武器を沢山日本に持ち込んでいるよな?
その時点でアウトですからね。
「竜史郎さんは、やっぱり妹の香那恵さんが心配で日本に戻って来たんですか?」
「まぁな。どの道、紛争地でも
……それが、西園寺
西園寺製薬の代表取締役にて、西園寺財閥の総帥。
パソコンでぐぐると、医療法人『
笠間病院も同じ傘下グループらしい。
事実上、遊殻市の医療分野を支配している人物。
そして生徒会長の「西園寺 唯織」の父親――。
「香那恵さんは避難せずに、ずっと病院にいたんですか?」
「そうよ。理事長や生き残った先生達は患者をほっぽいてとっとと逃げてしまったわ。私もそのチャンスはあったけど、逆に理事長と谷蜂先生が何を企んでいるのか探ってやろうと思ったし、患者さんも見捨てられなかったから……少し頑張れば、必ず兄さんが来てくれるって信じていたしね」
見かけによらず好奇心旺盛というか、アクティブな女性なんだな。
いや、あの太刀裁きを見る限りじゃ、やっぱり兄妹だと思う。
「数日前、病院に
「でも設置したバリケードも破られ、他の患者さん達も噛まれて感染していったわ。私も駄目かと思ったけど、兄さんが助けに来てくれたのよ。この『村正』を持ってね」
香那恵さんは腰に差している日本刀を見せる。
「こいつを預けた里親は居合道の道場をやっている。ちなみに『免許皆伝』の腕前だぞ」
それで容赦なく、
天使のような美人看護師が剣の達人なんて……凄ぇ組み合わせだ。
けど里親って……両親はいないのか?
まぁ兄貴は年齢を偽って外人部隊に入隊したり、傭兵しているくらいだからな。
複雑な事情があるに違いない……僕の家も色々あるから聞くのは野暮だ。
「香那恵と合流した後、そいつらの『何か』を暴こうと思ってね。ついでに行方不明になった少年を探していたら、丁度地下室で遭遇したってわけだ」
「私は秘密の理事長室でPCから、そのデーターを抜き出していたってわけよ。丁度、画面が開いていたところを見ると、逃げるのに慌てて消し忘れてしまったんでしょうね」
なるほど、大分輪郭が見えてきたぞ。
しかし、あの地下の部屋で僕が何をされていたのかがわからない。
患者リストだかに自分の名前があったてことは、僕は何かの
別に身体はなんともないようだけど……。
にしても――
「世の中が、そんな事態になっていたなんて……僕はその『
僕は握りしめ憤慨する。
物に当たり散らしたい気分だが、大きな物音を立てると
その反応に、香那恵さんは「ん?」と瞳を丸くする。
「やだぁ、弥之くん。どう見たって谷蜂先生、アラサーじゃないわ。年齢は確か40代半ばくらいの筈よ……それに爽やかな紳士には程遠い人だと思う」
言いながら、ナース服のポケットからスマホを取り出し、ある画像を僕に見せてきた。
そこにはドクターコートを着た中太りの中年男が映し出されている。
丸眼鏡を掛けた白髪交じりの坊ちゃん刈り。双眸が細く吊り上がって如何にも傲慢そうな医者だ。
「……誰、こいつ?」
「谷蜂先生よ」
え? 嘘でしょ?
僕と出会った男とまるで違うじゃん!
じゃあ、あの銀縁眼鏡のアラサーは一体誰なんだ!?
驚きのあまり絶句していると、竜史郎さんが顔を覗かせてきた。
「――少年はこれからどうする? 俺達と一緒に行動を共にするか?」
「え? いいんですか?」
「ああ、少年が地下室で何をされていたのか興味がある。それにお願いしたいこともあるからな……それを交換条件に受け入れてもいいと思っている。ここで独り引き籠っても家族は探せないだろ?」
まぁ、一ヶ月ほど前まではネトゲ三昧の引き籠りだったけどね。
けど、この人達と一緒なら美玖と母さんを探せるかもしれない。
「そうですね……よろしくお願いします。それで僕にお願いしたいことって?」
「大したことじゃない。美ヵ月学園に一緒に行ってもらいたい。ある人物に会う仲介役としてね。同じ学園の生徒だし、制服を着ていれば警戒されず容易に会えるだろう」
「ある人物に会う仲介役? 別にいいですけど誰ですか?」
「――西園寺
「西園寺先輩……生徒会長は学園にいるんですか?」
「ああ、今も他の生徒と教師の何人かで立て籠っているらしい」
「本当ですか!?」
「間違いない。SNSとTwitterで呟いているからな」
竜史郎さんは言いながら、スマホの画面を見せてくる。
本当だ……しかし、よく生きているな。
それに誰も助けに行かないのだろうか?
いや行けないのか……。
けど、少し希望が湧いてきた。
西園寺先輩が無事なら、きっと『
何せ彼氏は同じ生徒会役員だからな。
しかも西園寺先輩とは幼馴染みだ。
きっと計らいだってあるに違いない。
少し悔しくて切ないけど、今だけは『
僕にとって、姫宮さんが誰を好きになって付き合っていようと、彼女さえ生きてさえいればいいんだ。
それから軽くシャワー浴びて制服に着替える。
香那恵さんや竜史郎さんも体を拭き身形と整えている。
戦うことになったら、どうせ嫌でも返り血を浴びてしまうだろうと話していた。
これでようやく安心して休むことができた。
翌日の朝。
無人のコンビニから拝借した朝食を食べてから、自分のサイズに合った靴を履きスマホを持ち、新たな気持ちでアパートを出た。
また美玖と母と三人で暮らせますようにと祈りながら――。
美ヵ月学園に向かう途中。
幸い
このまま順調ならばと思った矢先。
進路方向とは違う路地で僕は意外な人物の姿を目撃した。
「――姫宮さん!?」
一瞬自分の目を疑ったが間違いない。
あの濡れ羽色の艶髪、あの制服に後ろ姿はまさに彼女だ。
しかも独りで歩いている。
彼氏の笠間はいないのか?
だけど、どうでもいい! 無事でいてくれて何よりだ!
思わず僕は駆け出し、姫宮さんの後を追った。
迂闊にも竜史郎さん達から離れる形で。
彼女はゆっくりとした足取りで歩いており、すぐに追い着いた。
「姫宮さん、無事だったんだね!? 良かったよ!」
僕が何も考えず肩に手を触れると、姫宮さんは振り向いた。
「――!?」
それはもう、姫宮さんであって姫宮さんではなかった。
あの乳白色の肌は黄色に染まっており、赤と青の血管が浮き出されている。
大好きだった綺麗な瞳は白目部分が黒く瞳孔も赤い。
品の良かった唇から唾液を滴せてまき散らし、雄叫びを放ちながら大口を開けて襲い掛かって来た。
ああ、姫宮さん。
ウイルスに感染しているんだね――
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