瞬く星、なき後に

 きらきらと、ぴかぴかと。頼まれもしないのにそれは勝手に輝いていた。昼もなく、夜もなく、ただ瞬き続けた、今はない星だ。


 五層の戦場にて、ジャッジメントは足を止める。五層と六層のいつもの小競り合いだったが、そこに普段は見ぬ姿を目にしたからだ。灰色の大型機体。頭部はヘルメットのように丸く、ニンゲンの文明に例えるならば潜水服のようだった。見る者にはそれが何者なのかはすぐわかる。かつての第五層の主。《暴君》が現れる以前よりこの地に混沌と争いを撒いた者。――前第五層主、アルマディス。すかさずジャッジメントの銃口が向いた。


「ファイブコート、《皇帝》アルマディス。貴公が前線に姿を現すとはな」

「うむ、何。そろそろ顔を見ておくのも良いかと思ってな。《瞬星》の後継よ」


 『後継』の言葉に、ジャッジメントの纏う空気が怜悧なものになる。対するアルマディスはそれを見て愉快そうにする。


「不快か、《裁君》。だがたしかに、お前は《瞬星》の後に続く者だ」

「知ったことではない。私は前任者を撃ち滅ぼし、否定し尽くした。私と奴を繋ごうとするそれは貴公の感傷に過ぎん」

「成程。ブラックヴェイルから聞いた通りの清廉さだな。意に添わぬものをけして寄せ付けぬ。あれが楽し気に話すのも道理」


 しかし、と前第五層主は続ける。

 

「――足りぬ」


 アルマディスは見る。白い機体の層主を。第六層の頂に立ち、層民から眩く、尊く見上げられるその存在を。


「足りぬのだ。貴様の光はネビュラポップに届かぬ。他を翳らせ、自らをも焼く眩い光ではない」


 その白き層主を、前第五層主が見上げることはない。そう足り得ないのだ。この灰色の機人にとっては。


「躊躇い。迷い。自らの道を省みる。そのようなものは不要。あれの後に続くなら、全てを白く塗りつぶす程に光を満たすがいい《裁君》。己が信条を貫き、己が世界を敷き、そうでなければ、足りぬ」


 ――お前は、まだ躊躇っている、と。

 前第五層主は囁く。もっと奔ってみせろと。もっと昂ってみせろと。

 お前にはそれが出来ると。甘美な誘いだった。欲望を肯定する言葉だった。だが――ジャッジメントは返す。


「私は滅びる気はない。私の砲が焼き尽くすのはこの身ではなく、この第五層すべてだ」

「だが――その光では五層を焼けたとて、吾を焼けはせぬ」

「では、試してみるが良い」


 アルマディスに向いた銃口が、直後に熱を放った。



(おわり)

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