第86話 魔王の遊戯
聖たちから離れた梓は一人で城内を突き進んでいた。
途中、何度もアルマサーヴァントたちの襲撃を受けるも、アビスで敗走したあの時とはもう違う。
両手両足に炎を纏わせ、荒れ狂う灼熱と共に振り抜く。
「砕け散れ!!」
攻撃を連続させ、頭を打ち砕いて次々とアルマサーヴァントたちを撃破していく。
魔王軍相手でももう負けはしない。魔人でもない限りは梓を止められない。
そんな自信を感じさせるほどの強い拳に、レングラードが従える魔物たちが攻撃を仕掛けられずにいた。
叶が従える魔物たちだけが断続的に襲いかかり、そしてそのすべてが返り討ちに遭っている。
「っと。こいつは……」
腐った女性のような魔物が梓の行く手を阻んだ。
上位アンデッドのリッチー。魔法攻撃が強力な敵だ。
前方に魔法障壁を展開し、梓からの攻撃を防ぎつつ魔法の詠唱を行っている。
だが、リッチーの背後に光る刃が見え、梓が親指を下に向けた。
「残念。死ね」
「"ギロチンカッター”」
背後からの一撃をもろに受け、リッチーの首が刎ねられた。
アンデッドであるために首を落とされてもすぐには死なないが、直後に光る刃がリッチーの体を両断した。その輝きに当てられ、消滅していく。
最初に首を刎ねた少女――花宮ランが剣を鞘に仕舞い、トドメを刺した少年――勇が梓に合流する。
さらに遅れて、ゲルマンや藤吾、残りのクラスメートたちやフォレア、英雄たちも集まってきた。
「梓! 無事だったか」
「なんとか。……でも、英里佳がどこに行ったのか」
「獅子神さんが?」
「……獅子神さんの反応は確認できません。残念ですが……」
フォレアが悲しそうに目を伏せ、随行する兵士たちが拳を固めた。
勇も悲しんでいる振りをするが、心では叶への憎悪を滾らせている。
(あのクソメス豚め……覚えてやがれ……っ)
それは梓も同様で、心の中で舌打ちを繰り返した。
そして、叶がいるであろう最奥の部屋を目指して突破しようと意気込む。
「よし! 梓も揃った! 僕たちに勝てない敵はいない!」
また、勇が全体の士気を高めて奮い立たせる。
仲間と合流を果たし、多少の困難はありながらも魔王城攻略は順調だと信じている兵士たちの気迫はすごかった。
雄叫びを上げ、周囲の魔物たちをあっさりと倒していく。
負けてはいられないと、藤吾とランも近くの魔物に狙いを定めた。
と、その時――、
「中々に騒々しいな。しかし、ここまで進んでくるとは」
突如として声が聞こえ、全員が部屋の上層部に視線を向ける。
闇で作られた翼を展開し、漆黒の鎧を着用してマントを靡かせる不気味な男。背中に構えた巨大な刀剣が威圧感を振りまいている。
その正体はすぐに誰もが悟った。どうしてここにいるのかと思うと額を冷や汗が伝う。
フォレアが緊張を滲ませる声でその名を発した。
「魔王……レングラード……!」
天帝の暗黒魔城の主である魔王自らがそこにはいた。
レングラードが腕をゆっくりと動かし、それを技の前兆だと感じた全員が防御態勢に移る。
その動作を嘲笑いながら、腕に竜巻を纏わせた。
「"次元断裂”」
レングラードの攻撃が炸裂した。
勇たちを横殴りの突風が襲いかかり、その場にいる全員が散り散りに吹き飛ばされてしまう。
それと同時に壁が回転し、向こう側が見えない暗闇の部屋へと繋がる道が開かれた。
いくつもの暗闇に乱雑に吹き飛ばされていく。
「さぁ……まだまだ楽しもう。次に会うとき、果たして何人が生きているかな……?」
全員を竜巻で吹き飛ばし、誰もいなくなった部屋でレングラードの不気味な笑いだけが反響していた。
◆◆◆◆◆
柱に叩きつけられた梓は、すぐに体勢を立て直した。
敵襲も警戒しつつ、一緒に飛ばされてきた仲間と周囲の状況について一瞬のうちに把握しようと試みる。
どうやら、クラスの誰とも同じ部屋には飛ばされなかったようだ。周りにいるのは英雄たちや、わずかな兵士と天使たち。
そして、梓がやって来たのは奇妙な部屋だった。
襖と柱だけがそこら中にある空間だった。
どこからか紫色の桜の花びらが舞い散るこの場所は、異世界でありながら日本を思わせるような造りをしている。
「ここは……」
梓が呟き、そして異様な気配を察知して振り向く。
いつの間にそこにいたのか、青年が一人で目を閉じて立っていた。
その身から感じる魔力と威圧は魔王に匹敵するほど。絶対的なレベル差を感じさせるほどの絶望感。にもかかわらず、近くにいたのに今まで気づくことができなかった不可思議な気配。
指一本動かせないほどの重圧。心臓が握りつぶされるかのような殺意。
梓が肺に溜まった空気を吐きだした時、青年がゆっくりと目を開いた。
「来たか。どうやら、イリスとサラは倒されたようだな」
剣の柄にそっと触れ、青年――レンが目を細めて梓を睨み付けた。
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