第80話 惨劇の予感
それぞれの場所で戦闘が繰り広げられている様子を見ながら、レングラードはワインを呷っていた。
門の前で勇たちと死闘を繰り広げるガルグレイド。
城内で聖たちと激戦を繰り広げるイリスとサラ。
こうして見ると、改めて最後の戦いが始まったのだと実感する。
「だが、足りない。その程度では俺には届かぬぞ、勇者よ」
ガルグレイドに押され気味の勇を見て呟く。
総合レベルで見ればレングラードはガルグレイドの何倍も強いのだ。押されているようでは勝負にならない。
英雄の一人がガルグレイドの弓――フェイルノートに撃ち抜かれて絶命したのを確認した勇が歯噛みしている。
当初の予定通りではないが、何も問題ない。レングラードが出るまでもなく幹部たちが勇たち全員を戦闘不能に追い込むだろうと考えていた。
その先の始末は叶がやる手はずになっている。
順番が前後しただけ。魔族の勝利に変わりはない。
轟く衝撃音を目を閉じて聞いていると、玉座の間に新たな気配が増える。
「よっと」
「ふん。来たかカナウ」
「お邪魔します。ここ、使わせてくれてありがとうね」
「問題ない。最初に連中を全員この場に引きずり込むことを提案したのは俺だ」
お酒が飲めない叶は、用意してもらったブドウジュースをワイングラスに注いで一緒に映像を見る。
イリスが狂気的な笑みでエリザベートを攻撃し、サラも愉悦に満ちた表情で聖と梓に攻撃を仕掛けていた。
「何やってるんだか。止めに行かないと殺されちゃうかな?」
「妹はともかく、姉はそこら辺分かっているだろう。アルマ様もあの姉妹は高く評価していた」
「そっか。確かにサラなら殺しちゃうヘマはしないか」
戦闘で興奮状態になってもある程度理性的なサラであれば、叶の言いつけを破ることはない。
それは、叶もレングラードも知るところだ。
サラの槍が未玖の肩を貫いた。
すぐに沙苗が援護に入り、聖が傷を癒やしている。
「さすがだな。あの者たちは連携が取れていて手強い。エリザベートとかいうあの英雄も、一見打ち負けているように見えるが妹と姉を合流させないように立ち回っている」
「最大の障害は聖たちだって。だからどうしてもこちら側に引き込みたかったんだけど」
「違いないな。……それに比べて」
レングラードが目を細めた。
梓は独断的な行動が目立ち、英里佳は自分の仕事を何一つ果たせていない。
完全に足手まといで、梓も攻撃のタイミングを合わせないせいで沙苗の足を引っ張っていた。
門の戦いでは、ガルグレイドが思うように戦場を動かしていた。
勇たちはまとまって戦っているが、今ひとつ踏み込みが甘い。常に誰かを先に行かせるような動きをしている。
それを的確に読み切ったガルグレイドは、英雄と天使たちの各個撃破ができるように動きを変えていた。
「連中の動きのなんと醜いことか。これまでの魔王たちが敗北したという歴史が信じられないな」
ふっと鼻で笑った。
それに合わせ、二人の頭上から笑い声が聞こえてくる。
「フォレアの人選ミスってやつだ。あの勇は、勇者の適性はあるが人間性に問題があるからな。そこを突けば一気に打ち崩すことができる。これまでの勇者たちはそうした隙が中々見つからなくて苦労したが、今回は上手く遊べたな」
ハンバーガーを囓りながら降り立ったアルマは、叶とレングラードにそれぞれチーズバーガーを渡す。
「これは?」
「ハンバーガー。聖の世界で人気の食べ物だ」
戸惑うレングラードに説明をしたアルマは、再び映像に視線を戻す。
「聖を勇者にされていたらヤバかった。さすが、美しい女神は目玉もガラス細工らしい」
嘲るように笑う。
そして、何かを閃いたように指をパチンと鳴らした。
「叶。お前、ワックとボスどっちが好き?」
「え? ワックによく行ってました」
「そっか! 俺はボスバーガー派だな! ところで、君たちはどっち派だ?」
「誰に言いました?」
「まぁ、それは気にするな。でな、叶。ワックのフライドポテトを作ってるのを待ち時間で見てたんだが、あれ、美味しそうだけどすっごい熱そうだよなぁ」
「そう、ですね……」
いまいちアルマの言いたいことを理解できず、叶がキョトンと首を傾げた。
くっくと不気味な含み笑いをしながら、アルマは紙袋からポテトを取りだして長い一本を映像に映る英里佳へと突きつける。
「レングラード。お前のペットはまだ生きてるな?」
「邪龍ディアゴスですか? それなら部屋で寝ているはずです」
「たしか、肉の揚げ物が好物だったよな?」
その瞬間、叶もレングラードもアルマの考えを理解した。
恐ろしいことを考えつく辺りさすがは邪神だなと思い、二人が頷く。
「そのディアゴスを起こしてこい。食事の時間だ」
「ハッ!」
「出番だぞ叶。今からあの英里佳を引き離してやる。調理場の用意はサーヴァントたちが終えているから、後はお前が楽しめ」
「ありがとうございます」
指示に従い二人が動き始めた。
アルマは、耐えきれなくなって腹を抱えて笑い始めると、指先に黒いインクのようなものを顕現させた。
横一文字に引き、宙に黒い線を描く。
「さぁ、始めようか。"ダーク・カーテン”」
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