第66話 望まぬ再会
急いで戻ってきた叶が空中で思わず止まってしまった。
眼下ではちょうど、梓がセバスチャンにトドメを刺す瞬間だった。胸部を拳が貫通し、セバスチャンが倒される。
初めて幹部に犠牲を出してしまった。自分を慕ってくれていた仲間の死に怒りが燃え上がってくる。
そして、殺したのが梓だという事実も怒りに拍車をかけた。
「お前……ッ!」
梓も叶に気づき、両者の間で視線による火花が散る。
激情のままに襲いかかろうとしたが、その前に鑑定で能力を確認した。そして、セバスチャン同様絶句する。
「な……ッ!?」
「どうした叶。驚いて声も出ないって?」
総合レベルが凄まじく上昇している。
何をすればこんなことになるのか分からず、屈辱的だがわずかに後退した。
すると、叶の肩に何の前触れもなく手が置かれる。
「あー……っぱやりやがったなあんにゃろー。ちょっとだが手を打っておいて正解だわ」
バッと振り返ると、いつの間にか現れていたアルマが苦笑いを浮かべていた。
「アルマ様? ……あれ、なんですか?」
「あ? 地球でいうところのチートだよチート。やると思ってはいたが本当にやるとはな」
「チート?」
「そっ。
またフォレアの仕業かと叶が額に青筋を浮かべる。
怒りを隠さないまま視線を地上に向け、ふと気になったことを尋ねた。
「最後の女神信仰ってどういう……?」
「そのまんま。女神様のいうことは絶対~、女神様こそ正しい~、つってアホみたいに思考停止するんだよ。簡単に言えば洗脳だ」
アルマからの返答を聞いて叶が目を見開く。同時に聖のことを考えて焦りを見せた。
聖は何としてもこちらに引き込みたい。それなのに、フォレアにその加護を付与されるとその道は閉ざされてしまうとすぐに理解した。
呼吸が速くなった叶を見て、すぐに考えを察したアルマがニタリと笑う。
「聖のことか?」
「ッ! 手遅れになる前に……!」
「心配すんな。言ったろ? 手は打ってあるって」
指先に黒い光のようなものを作り出し、巻き付けるような軌跡を描きながら口笛を吹く。
「聖には
「……っ! よかった……」
「俺も聖のことは気に入っている。叶と二人で俺の娘として迎えたいくらいだからな。……さて」
腕を引き、憤怒の形相で叶を睨み付ける梓をわずかに警戒を交えた目で見下ろしながらアルマが爪を噛む。
「まぁ気をつけろ。身体強化は馬鹿にできないからな。総合レベルはあてにならないと思っておけ」
「分かりました。それを踏まえた上で、殺します」
叶も戦闘態勢を見せたところでアルマの姿が消えていった。
空と陸とで叶と梓が向き合う形となる。
「よくのこのこ出てこれたわね……ッ! 一花としずるを殺したこと、絶対に許さない!!」
「どの口が。お前もあの二人同様惨たらしく殺して晒し者にしてやるわ」
一触即発の空気。少しでも動けばその瞬間、互いが大技を打つ雰囲気だった。
相手が先に動くのを互いに待つ。と、その時だった。
「落ちろ天の雷。“フォールン・サンダルト”!」
「ッ!?」
叶の直上に雷雲が発生し、極大の稲妻が降り注いで叶を飲み込んだ。
超高電圧の雷撃に晒され、叶が闇の翼を維持できずに地上へと落下する。
どうにか立ち上がろうとすると、眼前に迫っていた梓が拳を右頬へと叩き込んできた。直撃を受けて大きく後方へと飛ばされる。
衝撃の強さに体を震わせ、今度こそ立ち上がると既に叶は包囲されていた。
「なぁ! もうやめろよ叶!」
「お願い! 今ならまだ引き返せるから!」
「俺たちだってお前を殺したくはないんだよ!」
クラスメートの三人が必死な様子で叶の説得を試みている。
剣士の
が、上から目線な言動にも腹が立つし、どうせこいつらも女神の能力強化を受けているのだろうと無視を決め込む。
そんなクラスメートたちの後ろから、杖の先端を光らせて女性――高橋水穂が歩いてくる。
「蛮行もここまでだな宮野。命を以て謝罪するんだな」
「偽善者が……!」
怒りと共に血が混じる唾を吐き捨てる。
強化を受けたこの人数相手に不利は感じるが、そんなこと些細なものだと体内で魔力を練り上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます