第50話 再進撃
レングラードたちが早速行動を開始するために魔王城と共に去っていく。
渓谷まで見送りに出ていた叶は、彼らの姿が見えなくなるまでその場に立っていた。闇の気配が遠くに消えていく。
その姿が完全に空の果てに消えて、叶は視線を固定したまま後ろの二人に話しかける。
「お帰りなさい。長い道のりご苦労様」
「「ただいま帰還いたしました」」
跪いて頭を垂れるイリスとレン。
今、ようやくアルカンレティアからこうして戻ってきたのだ。
振り返り、跪く二人に顔を上げるように促す。
「レン。ずいぶん強くなったみたいね」
「アルマ様に力を頂いたので」
「ずるいなぁ~。私もそういう力がほしい~」
「イリスは今度、私の血を吸わせてあげる。そうしたら強くなるんじゃない?」
「かもしれないです! カナウお姉ちゃんだーいすき!」
無邪気なイリスに気持ちがほっこりし、レンもクスリと笑う。
その後、叶はサラとセバスチャンの二人を呼び出した。即座に二人もやって来る。
「じゃあ、新しく命令を下すね。帰ってきたばかりのレンとイリスには少し申し訳ないけど」
「お気になさらず~」
「こらイリス!」
「いいのよサラ。イリスはこうじゃないと逆に心配になるわ」
不遜な態度をサラが諫めるが、叶としては友だちのような感覚で接してくれている気持ちになるためこちらのほうが好ましかった。敬語よりも、砕けた口調で話してもらう方がありがたい。
コホンと咳払いをし、全員の顔を見ていく。
「これより、勇者たちの殲滅を始めるわ。今までの小手調べなんかじゃない、本気の戦闘をね」
「「「はっ!!」」」
「サラとセバスチャンは聞いていたと思うけど、既にレングラードが軍勢を動かして攻撃を仕掛けている。私たちも出るわ」
「賢明かと」
「今回はサラとセバスチャンの二人に同行してもらう。私と一緒に人類領に侵攻し、二人の圧倒的な魔物の操作スキルで敵をめちゃくちゃに掻き乱して。おびき出せた勇者の仲間を私が殺していく」
「「はい」」
「レンは休みつつ、トランシルヴァニアの警備を。イリスも休みながら、そうね……もしレングラードから救援要請があれば応じてあげて。それまでは適当に離れすぎない場所で人間狩りでもしてていいわ」
「承知しました」
「まっかせて~! お姉ちゃんの期待に応えてみせるから!」
「決まりね。じゃあ、行動開始」
手を叩くと、それぞれが準備のために散っていく。
叶も、異空間に待機させておいた魔物たちをすべて解放した。指揮権をセバスチャンに委譲する。
渓谷を埋め尽くす魔物の大軍勢。人類がこの光景を目にするとこの世の終わりだと思うことだろう。
軍勢を見下ろしながら叶が自虐気味に笑う。
「これでまだレングラードが従える数に遠く及ばないのよね」
ちょっとした雑談で分かったことだが、対人戦闘能力は叶が高いが魔物の創造に関してはレングラードが優秀だ。
ここからどれだけ叶が魔物を作り出そうが、レングラードとの物量差を縮めることはできない。
そんなことを考えていると、サラとセバスチャンの二人が準備を終えやってきた。
「出発ね。セバスはこの子たちを引き連れて町や村を破壊しながら進軍を。私とサラで先行して拠点を作っておく」
「「はっ!」」
「来なさい、フレスベルグ」
移動用に巨大な雪の鳥を召喚する。
【フレスベルグ】
種族〈魔物〉 性別〈女〉 総合レベル200 ジョブ〈キャリアーレベル100 捕食者レベル100〉
二匹の鳥は早速サラに懐いたようだった。
頬をすり寄せ、甘えるような仕草を見せている。
二匹ともサラにすり寄ってしまったので、叶がポツンとその様子を見ている。少し寂しそうだ。
「私が作り出したのに」
「あ、えと……私の魔物操作スキルに反応しただけかもしれませんし」
「……ばか」
拗ねたように頬を膨らませ、続けてもう一体魔物を召喚する。
現れたのは黒い毛並みの馬だった。額には角が生えており、その角が高速で回転してドリルのようになっている。
【ドリルブレッド】
種族〈魔物〉 性別〈男〉 総合レベル200 ジョブ〈バーサーカーレベル135〉
「セバスにはこの子をあげる。将兵っぽい見た目になるでしょ」
「確かにそうですが、似合いますかな?」
「……着ているのが鎧じゃなくて執事服だものね。怪しい」
見栄えを整えようと頑張ってみたが、どこか上手くいかないなと少し落ち込んだ。
だが、どうせ全員殺すのだし誰の記憶にも残らないからともうこの際見栄えはいいやと諦めることにした。フレスベルグの件は少し残念に感じていたが。
叶とサラがフレスベルグに騎乗した。二匹が大空に飛び立つ。
「奴らの中間に向かう。さぁ、地獄の第二幕を始めましょう」
上空に吹雪を巻き起こしながら、フレスベルグたちが飛んでいった。
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