第34話 会敵
不気味な騎士の攻撃を、蓮と海斗が協力して抑え込む。
騎士の攻撃はすさまじく重い。彼我のレベル差が相当あるように思える。
他の兵士たちも苦戦していた。どうしても力負けしてしまう者も現れ、倒れたところを斬られてしまう。
悔しい思いで歯がみしていると、戦場を一筋の光が駆け抜けた。
エリザベートが目にもとまらぬ電光石火で騎士――アルマサーヴァントたちを撃滅する。
「落ち着いて! レベルは高くても動きは素人です! 訓練した皆さんなら勝てない相手じゃない!」
「そ、そうだ……! やってやる!」
「レベルだけがすべてじゃねぇ!」
兵士たちの士気を上手く高めることができている。
確かに、アルマサーヴァントたちの動きには隙が多い。どれほどレベルが高くても、生まれてすぐの個体なのだからこんなものだ。ロッカで少しばかり戦闘経験を積んだところで、兵士たちとは踏んできた場数が違う。
一撃で倒せなくてもいい。攻撃を受けず、一方的に攻撃を加えることでいつかは倒しきれる。
エリザベートの鼓舞が入ってから、兵士たちの勢いが増した。
各所でアルマサーヴァントの撃破が相次ぐ。レベルも数も違う魔王軍相手に戦えているという事実が、さらに兵士たちを盛り上げた。
「すごい!」
「あぁ! 俺たちもいくぜ!」
「二人とも頑張れ! “護法の障壁”」
未玖が防御結界を蓮と海斗に付与し、二人が魔王軍に立ち向う。
姿勢を低くして駆けてくるのはキルキャット。既に爪を尖らせて戦闘状態だ。
飛びかかってくるキルキャットを海斗が剣で防ぐ。が、そのせいで無防備になった脇腹めがけて別のキルキャットが攻撃を仕掛けてきた。
「させねぇよ!」
海斗を回り込むように蓮が飛び出し、襲ってきたキルキャットの顔に正拳突きをめり込ませる。
顔を潰されたキルキャットがそのまま絶命した。
海斗も、剣で防いだ個体を振りほどき、着地される前に鋭い斬撃を放って首を刎ねる。
短く断末魔を漏らしたキルキャットが絶命した。最初の二匹に続いてきた他のキルキャットたちが、怯えて威嚇しながらジリジリと後退していく。
安心したのもつかの間、影に潜んでいた別のキルキャットに二人が気付かない。
影で回り込んでいた三体がいきなり飛び出した。この奇襲には対応が間に合わない。
「やべっ!」
「こいつら!」
目を狙ったキルキャットの攻撃は、届くことがなかった。
眩い金色の光が一体を包む込む。その光に触れたキルキャットは、小さく鳴いてから消滅した。
正体不明の光で出鼻をくじかれた二体は、蓮と海斗が難なく処理する。
命拾いした二人が後方に視線を向けた。
「今のは聖の魔法か。助かった」
「後でお礼を言っておかないと」
ホッとしたのもつかの間。蓮は凄まじい闇の力が膨れ上がるのを感じた。
殺意の矛先は自分たちに向けられている。未玖の防御結界があっても無傷では済まないと本能的に察し、海斗を蹴って自らもまた回避行動をとる。
「なっ、おい!」
「早く逃げろ!」
二人が離脱した跡地に、強烈な斬撃が叩き込まれた。
光を両断するような一撃で、一部空間が闇に閉ざされる。底の見えない奈落が作り出され、地盤が脆くなったことで倒壊した家屋が吸い込まれていった。
瓦礫が落ちても、反響音が聞こえない。落ちたら二度と地上に帰ってくることは叶わないだろう。
攻撃の被害はそれだけではない。二人が回避したことで、近くにいたアルマサーヴァントや兵士たちが巻き添えになって粉微塵にされていた。未玖が二人にかけていた防御結界も吹き飛んでいる。
直撃を避けてもこの威力。あまりにも隔絶した力に蓮が戦慄を隠せないでいると、何者かが海斗と蓮の間に降り立つ。
「今の攻撃を躱すか。直感が鋭いのか見えていたのか」
「っ! お前……」
「調子に乗って落日宵闇ノ禍月を選択したのが悪かった。面攻撃の悲哀五月雨斬にすれば確実に殺せていたのにな」
闇の力を漲らせた剣士――レン。
他の敵とは明らかに格が違う。先刻襲撃を仕掛けてきたイリスよりも強いと判断した海斗は、エリザベートに言われたとおり無謀な攻撃は仕掛けない。
レンは、蓮が格闘戦の構えを取っていることを確認して目を細めた。
「確認しよう。お前、まさかサイトウレン……で、合っているのか?」
「っ! 俺の名前を知っているのか……どこで……」
「……ははっ……カナウ様には感謝しないとな」
レンが口にした名前に蓮も海斗も、たまたま聞こえた未玖も驚きで目を見開く。
まさかそんなことはないはずだと思いながらも、レンの力がより一層強まったことに警戒感を露わにする。
「サイトウレン……貴様は、俺の町を滅ぼした。あそこには俺の大事な大勢の人がいたんだ……ッ! そんな彼らも貴様らは……ッ!」
「だからなんだよ……魔人を滅ぼして何が悪い!」
「戦う者なら仕方のないだろう。だが、無抵抗の者まで殺した以上、俺たちも本気で貴様ら人間を殲滅してやる」
レンが剣に魔力を漲らせた。
周囲の光が闇に塗り替えられていく。空間が歪み、発せられる殺意で意識が飛びそうになる。
「メラ……エリッサ……お前たちの無念は今ここで……」
「来るよ! 戦闘開始!」
「来いよ魔人!」
「……殺す。“常闇の剣戟・光明滅殺”」
神速で放たれる横凪の居合い斬り。
レンの想定以上に蓮たちが遅かったため、運良く攻撃は不発に終わった。小さく舌打ちを漏らした後、レンは次の技を準備しながら向かっていく。
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