第20話 後始末

「うーん……いまいちかな?」


 奏の血を全て吸い尽くして殺したイリスが不満そうに感想を言う。

 これで、この町にいた全員の殺害に成功した。叶は、奏と京也の首も切り落として残った体は闇魔法で消滅させる。

 四つの生首を並べて腕を組み考える。どうすればより残酷で、そして宣戦布告に捉えてもらえる作品に仕上がるか悩んだ。

 そして、閃く。

 しずるを貫いていた槍を引き抜き、長くしてから四つ全ての頭に横方向から刺し貫かせる。血とはまた少し違う、粘ついた液体のようなものが飛び出した。

 顔も少し弄って絶望に満ちた感じの表情へと加工する。

 それらの作業を終え、作り上げたを眺めて叶が一息ついた。やりきった、とでもいうように額を拭う振りをする。


「うん。自分で言うのもなんだけど、結構いい感じの芸術作品になったんじゃないかな?」

「いい感じ……ではありますが芸術……?」

「ちっちっち。分かってないなぁレンくん。私がいた世界にはね、生首を乱暴に扱う絵画や斬首される直前の女性を描いた絵画もあるんだよ? つまりこれは芸術作品! 美術館に寄贈したいくらいだよ」

「これはすでに斬首してますよね? カナウ様の世界って案外怖いところなんですね」


 呆れたように笑うしかないレン。

 叶も軽快に笑うと、生首セットをイリスに預ける。


「じゃあ、これ運んでくれるかな?」

「いいですけど……どこまで?」

「ランドゲルツの城門まで。場所、分かる?」

「分かりました~。では、行ってきまーす!」

「よろしくね。私たちは……そうね」


 叶が一花の荷物を漁る。

 中から一枚の紙を取りだした。広げると、それは人類の活動圏をおおまかな地形を描いた地図だった。

 自分たちが今いる町を探し、そして、一緒に着けられていた付箋から他のクラスメートの居場所を割り出してほくそ笑む。


「ここ。石の町ロッカにいるから、配達が終わったら合流してね」

「はーい!」

「イリス。地図を持っていけ。こいつら全員が持っているらしい」


 京也の荷物から地図を引っ張り出したレンがイリスに地図を渡した。

 地図を受け取ったイリスが巨大なコウモリに姿を変える。そして窓を突き破ると、月夜の果てへと消えていった。

 イリスを見送った叶とレンが部屋を出る。

 これで、この町での目的は達成だ。後はイリスが届けた首で連中に次はお前だというメッセージを突きつけてやればいい。

 上機嫌で建物から出て行く。そして、そこに広がっていた光景に引きつった笑いを浮かべた。


「レン……これ……」

「……つい」


 細切れにされた人体が至る所に散らばっている。この惨状は、レンとイリスが作り上げた虐殺の跡地。

 辺り一帯に漂う濃密な血の臭いに叶が鼻を覆う。慣れたとはいえ、やはり好き好んで嗅ぎたい臭いではない。それは、クラスメートという例外は除くが。

 再びどうしようかと考える。

 これを放置すると、間違いなく町には伝染病が流行ることになるだろう。叶としては、無関係な一般人まで積極的に殺したくはない。

 考えた末に再び閃いた。ただし、それもとびきり恐ろしくて外道な案だったが。


「そうだ! 火をつけて遺体も何もかも焼き払っちゃいましょう! そうすれば伝染病問題は解決ね!」

「息をするように恐ろしいことを……。さすがは大魔王様ですね」

「ありがと。じゃあ、燃やしちゃいますか」


 右手に魔力を集中させる。

 大魔王のジョブを手に入れて魔法が使えるようになったとはいえ、まだまだ制御が怪しい術もある。その練習も兼ねての特大花火だ。


「“マキシマム・インフェルノ”」


 天を焦がす業火が貴族街を一瞬にして炎で包む。

 遺体も、建物も。何もかもを炎が燃やし、溶かし、灰に変えていく。

 当然、町は大混乱だ。夜中の誰もが眠っている時間に貴族街では普通ではありえない炎が立ち上ったのだから。

 慌てて逃げ惑う人々と、魔法でどうにか一般街への延焼を防ごうとする魔法使いたちが入り乱れる。

 その混乱の隙に叶とレンは城壁を飛び越え町から抜け出した。暗い夜空が緋色に染め変えられていく光景を背中で眺める。


「これぞ夏の風物詩、花火大会~」

「……ほんと、カナウ様の世界ってどうなっているんですか?」


 完全に調子に乗って遊ぶ叶にレンが首を傾げる。

 指摘された叶は、疑問に答えることなく小さく舌を出して「ごめんね」と軽く謝罪する。そうして、次の目的地であるロッカに向けて歩き始めた。

 ロッカに誰がいるのかはまだ分からない。しかし、この際誰かなんてどうでもいい。

 今回、四人を殺したときに感じたあの言葉で言い表すことができない快感。再びあの感触を得るために今からどのように苦しめて殺してしまうか考える。


「待ってなさい。次はもっと上手く、そして無惨な最期をプレゼントしてあげるから……」


 暗い殺意が渦を巻き、闇はさらに強く、濃くなっていく……。

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