第16話 復讐の始まり
鈍い痛みが走り、思わず倒れながら頬を押さえる。
容赦のない平手打ちが叶を襲い、直後に髪を引っ張られて無理やり立たされた。
移動し、便器に顔を押し込まれて後頭部を踏みつけられる。水に沈められて息ができない。
水面から耳が出ると、後ろからシャッターが切られる音が鳴る。
「いえーい。私トイレのお水大好物~。なんちゃって」
「きゃははは! 梓ひっど」
「なんて言いながらお前も笑ってるじゃん」
複数人に女子トイレに連れ込まれ、ひどい暴行を受ける叶。ただ、こんなのはほぼ毎日のことで珍しいことではない。
呼吸ができず、窒息寸前になったところで引き上げられる。体が酸素を求めて激しく息を吸い込んだ。
苦しむ叶には目もくれず、梓たちは叶の鞄を物色する。
財布を取り出すと、慣れたように開いて中身を抜き取った。
「うーわしけてんな。千円しか入ってねぇ」
「ほーんと。これじゃ私たちのタピオカ代じゃん」
「つーか、臭いな。掃除くらいしとけよな」
梓が叶の財布を便器に投げ入れた。
そして、最後に叶の腹部に強い蹴りをいれてトイレから出て行く。叶はお腹を蹴られ、その衝撃に吐瀉して前のめりに倒れてしまう。
自分の吐瀉物に顔を押しつける形になりながら、弱々しく拳を握り固める――。
◆◆◆◆◆
「――様。カナウ様。カナウ様?」
「う、ん……。レン?」
「酷くうなされていました。どうしました?」
「ちょっと、ね。夢を見ていたみたい……」
うっすらと開く目を擦り、意識を覚醒させる。
叶は今、魔王城の玉座に腰掛けていた。近くにはイリスたちがちゃんと控えている。
うたた寝で、嫌な夢を見てしまった。だが、同時にこの夢を見たのは好機だとも捉える。
「サラ。トランシルバニアの状況は?」
「カナウ様のおかげで復興することができました。この城も完成したので、留守はお任せいただいて問題ありません。カナウ様のやりたいように」
「そう。私がやりたいことも分かっているみたいね」
本当にいろいろあった。
レンとセバスチャンを仲間に引き入れ、町の復興やら城の完成を待ってもう二ヶ月。この日々はとてももどかしく、そして意外にも悪くないと思い始めていた。
だが、それももう終わり。長くなってしまったが、遂に叶はクラスメートたちへの復讐を始める決意をする。
「じゃあ、私は少し城を空けるわね。イリスとレンは一緒に来て」
「「はい」」
「一部は除くけど、片端から殺し尽くしてやる。ふふっ、ようやくこの時が……!」
玉座から立ち上がった。
その動きに合わせてイリスとレンも立ち、歩き出す叶に付いていく。
玉座の間から出る前、叶がふと立ち止まった。思い出したように手招きでサラを呼ぶ。
「なんでしょう?」
「忘れてた。私たちに鑑定妨害の魔法をお願い。連中は全員鑑定が使えるんだった」
「分かりました。“ジャミングスキャン”」
サラに魔法をかけてもらい、今度こそ出撃の用意を整える。
各自部屋に戻り、少し長旅の準備を終わらせた。いち早く用意を終わらせた叶が自分の顔に手を向ける。
「“現世と隔世の境界線”」
暗殺者の技の一つ。自分が意識した相手に自らを初対面だと錯覚させ、別れると会話した記憶も消去する情報削除魔法。
本来は暗殺に失敗してもいいように使う魔法だが、叶が殺しに行くのは顔見知りのためにこの技は使える。
技がしっかり付与される頃に二人が準備を終えた。叶たちは、人間たちの領域へ向けて進んでいく。
その道中、叶なりにこの二ヶ月で調べたことを尋ねてみる。
「そういえばレン。レンの故郷を滅ぼした奴の特徴は分かったの? 少しずつ調べてたみたいだけど」
「ええ。モンクのジョブを持つ男で、仲間が二人いたとか」
「モンク……あぁ、きっと蓮ね」
「は?」
「レンじゃなくて蓮。そういう名前の奴がいるのよ。同じ読み方ね」
斉藤蓮。異世界に召喚されるときに冷静に状況を理解しようとしていた生徒だ。
叶の記憶が正しければ、クラスメートで武闘家関係のジョブを手にしたのは四人。そのうちモンクのジョブは蓮だけだったはずだ。
ボクシング漫画に影響を受けたらしいが、柔道やボクシングなど様々な格闘技に手を出した変わり者。
そして、蓮は叶に実害を与えてきたいじめメンバーだ。一度教室で寝技をかけられ、肩を脱臼させられたことがある。
恨みはあるが、やられたのは一回だ。それならレンに殺しを譲っても別に構わない。
そうこうしているうちに、空の色が変わっている。遠くに渓谷を利用して作られた町が見えてきた。
「見えましたね。あれが、魔族の領域から一番近い町です」
「じゃあ、あそこで情報を集めましょう。近いところにいる連中から殺してやる」
憎悪に燃える焔を胸に、叶たちは町への侵入を狙う。
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