第14話 魔王の血を引く者
突然乱入してきた男に、その場にいた全員が注目している。いち早く叶が鑑定の魔法で男の能力値を調べた。そして、あまりにも現実離れした数値にわずかな恐怖を感じる。
【レン】
種族〈魔人〉 性別〈男〉 総合レベル1068 ジョブ〈魔剣士レベル999+〉
空気が重い。レンが発する無限の殺意に押し潰されるような感覚があった。
見た目で言えばまだ若い。二十歳前後と言われても不思議ではない見た目で、整った美形顔の長身イケメン。夜闇に映える艶やかな白銀の髪から覗く深紅の瞳が不気味で恐ろしい。そして、左目には剣のような紋章が一つ走っていた。その見た目でこれほど強い存在というのは、あまりに馬鹿げている。
サラが即座にナイトメアフォールンたちを引き下げようとする。しかし、上手くいかない。
「なっ!? そんな!?」
「どうしたの?」
「ナイトメアフォールンたちの支配権を奪われました……」
サラの指示を聞かなくなったナイトメアフォールンたちだが、サラの思い通りの行動をしてくれる。だが、指示したのはもちろんサラではない。
レンの隣に、執事風の老人が降り立った。周囲を見渡し、イリスを見つけると近くまで歩み寄る。
「お嬢さん。ここは大変危険です。魔人の貴女まで若様の被害に遭うことはありません。お下がりください」
「え? は、はい……」
老人の忠告に従ってイリスが後退する。その動きを横目で確認していたレンは、改めて剣に悍ましい魔力を漲らせる。
相対するイーブルも光の力を高めていく。刀身が眩い金色の光で満ちると、姿勢を低くした。剣を横向きに構え、腕の筋肉をすべて使い一撃を繰り出す。
「あらゆる闇に神の慈悲を! “セイントブレード”!」
闇を切り払い、光の祝福を与えて滅する一撃。聖騎士のジョブはレベル差や実力の差など関係なしに闇の存在を葬る技が多い。セイントブレードはその中でも一際強力な一撃だ。
騎士たちは終わりだとばかりに武器を頭上に振り上げる。が、レンは真っ向から剣を構えた。
「“常闇の剣戟・光明滅殺”」
光を飲み込み、滅ぼす漆黒の斬撃が放たれる。イーブルのセイントブレードの輝きを食い尽くし、なおも突き進むレンの攻撃は騎士たちに襲いかかった。皆、全身を黒く染められて一言も発する暇なく殺される。
すんでの所で回避したイーブルが近接戦を試みる。自身に光を付与してヒットアンドアウェイのやり方で生存率を高めつつ削る作戦のようだ。
素早いイーブルの動きにレンは防戦の構えで迎え撃つ。急所を狙った攻撃だけを的確に防ぎ、それ以外はある程度肉体で受けて無理のない戦いを維持する。
「そんなものか! レベルだけは凄まじいが、その実たいしたことはない!」
「同じセリフをそのまま返そう。英雄とは、全員盲目なのか?」
イーブルの連続攻撃が決まる。イーブルや騎士たちは得意げだが、叶の額には冷や汗が浮かんでいた。
「闇の超回復……どうして私と同じ能力が……?」
受けた傷はたちどころに塞がっている。魔王と同じく、脳や心臓をやられない限りレンは死なない。
思わず後ずさる叶の背後に気配を感じる。すぐに振り返り、右手に闇の刃を纏わせて気配の主と対面した。
「これは申し訳ありません。わたくしとしたことが、驚かせてしまったようです」
そこにいたのは、先ほどイリスを下がらせた執事風の老人。恭しく叶に膝をついて頭を下げる。
「初めまして魔王レングラード様。わたくし、若様……失礼。二代前の魔王様の血筋を受け継ぐレン様にお仕えしています、セバスチャンと申します」
そう名乗った老人に、叶は時と場所を忘れて噴きそうになる。執事風の老人の名前がセバスチャンとは、あまりにもぴったりすぎて面白く感じたのだ。
笑いを堪える叶にサラが首を傾げる。叶は目元を拭うと、セバスチャンに話しかける。
「丁寧な挨拶ありがとうございます。でも、私はその魔王レングラード? ではありませんよ。私は宮野叶です」
「え? ですが、鑑定させていただいたところ、貴女様は確かに大魔王のジョブをお持ちのようですが……」
「先週アルマ様に魔王の力を授けてもらったの。多分、貴方たちが求めている魔王はもう一人のほうだと思うわ」
「さようでございますか……」
納得したように頷くセバスチャン。叶も誤解が解けたと思っていると、セバスチャンが付け加える。
「しかし、質問と訂正をお許しください。カナウ様は、先日召喚された勇者と仲間たちをご存知ですか?」
「……そいつらがどうかした?」
思わず怒りから闇の力を漏らしてしまう叶。サラとセバスチャンが怯え、顔に恐怖を貼り付けるがセバスチャンは質問を続ける。
「気分を害してしまい申し訳ございません。ですがその様子は、何やら深い関係が?」
「ええ。私も元はあいつらの仲間だったもの。でも、裏切られたから私はここにいる。一人を除いて、全員殺してやりたいわ」
話すごとに顔と受けた出来事が思い出されて苛立ちが増していく。少しスッキリしておこうと腕を振って雷を放ち、後方にいた支援を行う魔法使いらしき一団を黒焦げにしてしまった。
叶の凶行にセバスチャンは表情を変えないよう頑張るが、小さな冷や汗が伝っている。
「実は五日ほど前、わたくしどもの故郷がその勇者の仲間たちに滅ぼされました。そこで、わたくしと若様は魔王様に謁見を求めたのです。奴らを殺すために使ってほしいと」
「……つまり、レングラードっていう個人じゃなくて魔王に用があったと?」
「そのとおりです。カナウ様。わたくしと若様を貴女様の軍門に加えてもらえませんか?」
いきなりの申し出に叶が困る。叶個人としてはありがたい申し出なのだが、それをレンに無断で決めていいものか迷う。セバスチャンが代理で全て決めるとしても、本人の意思を確認したいと思った。
「でも……」
「力になるかどうかはその目でご判断を。若様も、自分の力を誇示することで判断してほしいとあの英雄を襲ったので」
どうやら、レンの乱入の理由は自分が戦力になることをアピールするためらしい。正直レベルだけ見ると戦う必要はないと思った叶だが、せっかくなのでレンの戦いを見せてもらうことにした。
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