第13話 襲撃者
イリスとサラを味方に引き入れてから一週間が経った。その間、叶もイリスたちもレベル上げや技の研鑽に努め、三人とも魔王とその仲間に相応しいまでのレベルに上がっていた。また、ナイトメアフォールンたちも何体かレベルアップでヴァンパイアに進化し、まだ小規模ではあるが叶は魔王軍を率いるほどになっていた。
地下数階層に広がる魔王城もある程度完成し、いよいよ勇たちへの攻撃を考えていたときにそれは起きた。
トランシルバニアで一番高い建物の上に叶とサラがいる。二人が見ているのは、トランシルバニアを包囲するように現れた軍隊だ。所々に掲げられた旗には、聖林教会のシンボルが描かれている。
「来ましたね」
「そうね。多分、先週殺した騎士が所属していた教会でしょう」
いつか報復に来るとは予想していた。それが今この時だったというわけだ。
叶が肩を鳴らして戦闘態勢を取る。闇を周囲に展開し、体の奥底から魔力を引き出して戦えるように準備した。
サラが目を閉じてナイトメアフォールンと感覚を共有する。騎士たちと交戦しようとしている者の状況を確認した。
「戦闘始まります。イリスが突出して攻撃するものと」
「イリス、強くなったからね。レベルだけならサラよりも強かったよね?」
「ええ。あの子は戦闘向きですから。私はどちらかというと支援や妨害が得意なので」
サラの言葉を聞いた叶は、ぶつかる騎士たちとナイトメアフォールンを眺める。ちょうどイリスが騎士たちを惨殺する場面が見えたので、改めて鑑定でイリスとサラの強さを見てみることにした。
【イリス=ヴァンピール】
種族〈魔人〉 性別〈女〉 総合レベル472 ジョブ〈吸血姫レベル420〉
【サラ=ヴァンピール】
種族〈魔人〉 性別〈女〉 総合レベル350 ジョブ〈吸血姫レベル236〉
騎士たちの平均レベルは30ほど。そんな有象無象など、今のイリスの相手になるはずもなかった。
一週間あれば勇たちも多少は強くなっていることだろう。それでも、敵にすらならない一方的な蹂躙になることは確実だ。
拠点も確保し、仲間もできた。そろそろ本格的に計画を立てて攻撃しようかと企む。
不気味な笑みを浮かべる叶。彼女の意識を引き戻したのは、となりにいたサラの小さい悲鳴だった。
「うきゃっ!?」
「ん? どうしたの?」
「ナイトメアフォールンたちが倒されて……その影響で」
サラが言うと同時に眩い光が戦場に広がる。その光に当てられたナイトメアフォールンたちが消滅する様子が見える。ヴァンパイアになると一撃で消滅こそしなかったものの、弱ったところを金色の鎧を着た騎士にトドメを刺される。
ナイトメアフォールンたちを大量に仕留めた騎士に、叶が怪訝な目を向ける。一歩前に踏み出すと、頭上を影が横切った。イリスが叶の元に帰ってくる。
「いたた……。なんなのあの光……」
「大丈夫?」
「全身が焼け付くように痛いです……。あれ、危険だ……」
「聖騎士の技……
その光はイリスにまでダメージを与えた。油断ならない攻撃だ。
騎士が大声を張り上げて名乗りを上げている。しかし、殺す相手に興味などないので聞く耳など持たずに鑑定の魔法で情報を覗き見る。
【イーブル=ウッズウェルト】
種族〈人間〉 性別〈男〉 総合レベル94 ジョブ〈聖騎士レベル89〉
「イーブルねぇ」
「……面倒ですね。英雄の一人ですか」
「英雄?」
「私たち魔人を多く討伐している天敵です。格上を次々倒す秘密はあの技か……!」
サラが憎々しげにイーブルを睨む。ここは自分が出て始末しようと叶が飛び出そうとするが、先にイリスが飛び出す。
「お姉ちゃんたちは待ってて! あんなの私が倒してくるから!」
「待ちなさいイリス!」
サラの制止を無視してイリスがイーブルに襲いかかる。上空からの攻撃に感づいたイーブルが上方向に防御を行う。
「死んでよ! “ファントムメテオ”!」
「させるか。“聖絶”」
光の防壁がイリスの攻撃を防ぐ。墜ちてくる恐怖の骸骨と障壁が激しく削りあい、骸骨の呪いが広範囲に拡散して周囲の騎士を呪殺していく。やがて、骸骨は光の防壁も破壊した。
靴底で地面を削って後退するイーブル。イリスは華麗な着地を決め、互いに向かい合った。
「……なんだ貴様……!? “鑑定”……妨害だと!?」
一人で勝手に話しているイーブルに戸惑うイリス。もちろん、鑑定されないように遠くからサラが妨害系の魔法を使っていた。
イリスの情報の入手に失敗したイーブルが剣を向ける。高まる戦意にイリスも攻撃態勢を取った。
両者に緊張が走る。その時、別方向から悍ましい魔力が放たれた。
「――“常闇の剣戟・牙狼暗澹ノ刃”」
狼の牙のような斬撃がイーブルとイリスに襲いかかる。
五本ずつの刃がイリスの体を刻み、回避を試みたイーブルの左腕を根元から切り落とした。イーブルが苦悶の表情を浮かべ、イリスは即座に再生を開始する。
突然の出来事に叶もサラも困惑する。青白い月を背景に人影が浮かぶ。
その人物はイリスとイーブルの間に降り立った。鋭い真っ赤な眼光に殺意を宿し、イーブルを睨んでいる。
「人類の英雄、聖騎士イーブル。貴様ぐらい殺せなくては俺の目的は果たせない。特に恨みはないが、ここで殺してやる」
見ているだけで息苦しくなるような赤黒い細身の剣を構え、特濃の闇を纏わせてイーブルへと突きつける。
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