「花火の夜に」

第28話「夜に私服で」

 さて、浮気疑惑も晴れ、めでたくいつもの関係に戻ることの出来た俺と渚ちゃん。

 俺としてはこれで全然ハッピー。エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!(イケボ)なのだが、渚ちゃん的には納得がいかないらしい。

 どうやら不当に俺を疑ったことがしこりになっているらしく、何かしらの手段で埋め合わせをしたいということなのだが……。 


「いやあ、そんなに無理しなくていいんだよ? 考えてみればルーとのことは、俺にも悪い部分があったわけで……」


「いいえ、ダメです」


 ぴしゃりと俺の言葉を遮ると、渚ちゃんは断固たる口調で告げた。


「だいたい、優しい先輩は山田花やまだはなさんのことを突き放すなんて出来ないでしょう?」


「うっ……まあ……たしかに……」


 その見かけと言動のせいで様々な誤解やいじめを受けて来たというルーにとって、俺は初めて出来た理解者であり、得難い友人なのだ。

 その俺に唐突に突き放されたりしたら、ルーの心が壊れてしまいかねない。

 今まで6つの学校を旅して、ようやく得た安寧あんねいの地。

 それを崩してしまうのは、さすがに気が引ける。


「ですので、山田花さんと仲良くすることそれ自体を問題にする気はありません。一線を超えるといいますか、不適切な関係にさえならなければ構いません。もしそうなりそうなのであれば、事前にお知らせください。すぐに別れて差し上げますので」


「ないないないない! ないってば!」


 慌ててその可能性を否定する俺に、渚ちゃんは「冗談です」と無表情のまま言って来た。

 いやいやいや、まったく冗談に聞こえないのが怖いんだけど……っ。


「ともかくですね」


 ゴホンと咳払いしてから、渚ちゃんは続けた。


「このままなあなあで、何ごともなかったかのように済ますのは、わたしたちの今後のことも考えると、非常に良くありません」


「お、おう……そう? そういうもん?」


 俺たちの今後について、渚ちゃん自身が考えてくれるのは非常にありがたくて嬉しいことなんだけど……。

 このコ、勢いがすごいからなあ……今度はいったい何を提案してくるんだろう。

 

「ということで、デートをいたしましょう。それで先輩が満足いくかどうかはわかりませんが、今までとは違う、制服を着用しないデートを」


「え、そ……そんなこと可能なの? だって渚ちゃん、デートの時は制服着用が望ましいみたいなこと言ってたような……」


 そりゃあもちろん俺だって、渚ちゃんと私服デートをしてみたいけど……。

 希望と現実の狭間で思い悩む俺に、渚ちゃんはしかし、断固たる口調で告げてきた。


「ええ、可能です。しかも夜に」


「よ、よ、夜に!? しかも私服で!? 大丈夫なの!? そんなことして怒られない!?」


 校則とは別に、渚ちゃんの家には門限がある。

 午後6時を1秒でも過ぎたらアウトで、ゴリラみたいな体型をしているお父さんに厳しく叱られるというけっこう厳しいものなはずなのだが……。


「ええ、お任せください」


 薄い胸を叩くと、渚ちゃんは言った。


「必ずや、先輩の要望にお答えしてみせます」








 ~~~現在~~~




「夜にデートって割と普通じゃね?」


「だな、特に珍しくもない」


「我もそう思う」


 吉田、安井、ルーが口々に言うが、ダメだなこいつら全然わかってない。


「おまえらは知らないんだよ。校則通りのおつき合いの大変さを。あのな、ただデートするだけでも風紀指導とかいうカモフラージュが必要なんだぞ? それが夜で、しかも私服とか。考えただけで興奮するだろ。天にも昇らん気持ちになるだろ」

 

「わからん」


「わかんね」


「理解不能」


 かーっ、ダメだこいつらは。

 渚ちゃんとのおつき合いの大変さがわかってねえ。


「ようーしっ、聞かせてやろう。その時俺たちがどんなアクロバティックな手を使ったかを」


 わからせてやるべく、俺はビールを飲んで口を湿らせた。

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