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「…………うぬ?」
目を覚ました俺は、目を開くと体を起こした。
隣ではセリアーナが眠っているようで、小さな寝息が聞こえてくる。
今日……もう昨日か?
外から帰って来て割としっかり眠ったからなのか、頭がスッキリとしている。
このままもう一度布団に入ってもいいが……もうすっかり目が覚めてしまったし、流石の俺でもこの状態で二度寝に入れるかどうか。
「ふむ……」
俺は小声で呟くと、チラッとセリアーナに視線を向ける。
彼女も同じくらいの時間眠っていたはずだが、起きる様子はない。
エレナたちほどではないにしてもセリアーナだってそれなり以上に腕は立つし、俺が隣で動いていたら気付けそうなもんだが……熟睡だな。
単純に慣れない相手との会話や、その際にちょっと頭を使ったってだけの俺と、加護を駆使した彼女とでは疲労の度合いが違うのかもしれないし、起きてる俺が隣にいるのはよくないか。
「そー……っと」
音を立てないように気を付けてベッドから抜け出すと、床に転がしてあった【浮き玉】に乗っかった。
◇
完全に目が覚めてしまった俺は、【妖精の瞳】と【影の剣】だけを身に着けると、こっそりとセリアーナの部屋から廊下に出てきた。
廊下は両隣に部屋があるため、窓から外の様子を見ることは出来ない。
廊下に出てくるのは、部屋でじっくり外の様子を窺ってからでもよかったんだが、隣室とはいえ近くをうろついていたらセリアーナを起こしてしまうかもしれないし、その気になれば【隠れ家】の時計で時間を調べることは出来るしな。
……と、余裕を持っていたんだが、俺は基本的に夜中に廊下に出るようなことはないから知らなかったが、思った以上に廊下が暗くて少々ビビっている。
廊下の両隣に部屋があって、そのドアのすぐ横に小さい照明が設置されているんだが、ドアの前だけ薄っすらと照らされていて、中々ホラーな光景だ。
急いで抜けてしまおうと、【浮き玉】の速度を上げていく。
子供部屋やミネアさんの部屋、テレサの部屋の前を通過して、本館との間にある扉の手前までやって来た。
流石に他の部屋のドアと違ってそこは大きく強力な照明が設置されている。
扉の前に立つ警備の女性兵の姿がよく見えていた。
その彼女は一応、扉を背に廊下の様子に目を光らせているが、俺が部屋から出て来たことには気付いていないようだ。
まぁ、廊下の真ん中を飛んでいるし、そこまで照明の光が届いていないから無理もないかな?
と思っていると、彼女は一瞬「なっ!?」と短い悲鳴を上げたかと思うと、慌てて手にした槍をこちらに向けてきた。
だが。
「セラ様っ!? っと……失礼しました。どうされましたか?」
すぐに俺だと気付いたようで、突き出した槍を下ろした。
「ちょっと目が覚めちゃってさ。外を軽く見て回ろうと思って……」
「外をですか……? その恰好で大丈夫なのですか?」
彼女は俺の恰好を見ながらそう言った。
夏とはいえこの雨の中、寝巻一枚で外出しようだなんて言い出したら普通は止めるよな。
この分だと【風の衣】の詳細は知らないっぽいな?
「大丈夫大丈夫。雨も寒さも平気だからね。それよりも、窓から出るから後をお願いしてもいいかな?」
玄関にもしっかり兵は控えているだろうが、こんな時間にわざわざそっちを利用するのは、説明が面倒臭過ぎる。
ココはいつも通り窓から出入りするのがいいだろう。
「ええ……それは問題ありません。向こう側の者に申し付けましょう」
彼女はそう言うと、本館側に合図をするようにノックをしながら扉を開けてくれた。
◇
「よいしょっ!」
窓から中庭に飛び立った俺は、まずは【妖精の瞳】とヘビの目を発動した。
背後から短い悲鳴が聞こえたが……赤く光る目玉に驚いたのかな?
聞かなかったことにしよう。
「それじゃー、ちょっと街を一回りしてくるから。もしテレサが起きてきたら、オレが出かけてることを伝えておいて」
気を取り直して……彼女たちにそう伝えると、俺は【浮き玉】の高度を上げていった。
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北の拠点がそうだったように、この領都にも思わぬ死角になっている場所があるかもしれない。
もちろんここはしっかりと計算して造られている街だし、日頃から警備の兵が街中の見回りをしてもいる。
北の拠点に比べて人の目が届かない場所はずっと少ないし、仮にそんな場所があったとしても、そもそもの人口が違い過ぎるから、視線を掻い潜って……ってのは難しいはずだ。
だが、それでも街の拡張や区画整理の繰り返しで、当初に比べると街の内部の形も結構変わってきている。
昔俺が描いた地図も、その都度描き足してはいるが……アレは基本的に上から見た光景を描いているだけだ。
「今まで移動する際に、地上の様子を探る程度で観察することはあったが、どこが死角になっているのか……なんて考えたことなかったもんね」
これまでそれなりに大きかったり整備された街や村での活動がほとんどで、開拓拠点とかは立ち寄ることはあっても、わざわざ内部を見て回ったりはしなかったからか、死角がどうのとかって視点は抜けていた。
今回の北の拠点の件で学んだことだな。
「まぁ……領都にそんな場所があるかどうかは別だけどね。一番怪しかった教会周辺がもう綺麗になったし、大丈夫だとは思うけれど……いい機会だしね」
今この領都で一番怪しいのは間違いなく俺だろうが、それはこの際おいておこう。
俺が明るい時間に街の隅をウロウロしていると、ちょっと目立ち過ぎるが、真っ暗な今なら人目に付くようなこともないし、じっくりと見て回れる。
仕事なんて大したことではなくて、ちょっとした暇潰しではあるが、普段見て回れない場所を中心にうろついてみよう。
「とりあえず、貴族街から出ないとな……」
貴族街は巡回の兵はもちろん、警備の兵をおいている屋敷も多いし、ここで地上に下りたら目立ち過ぎるからな。
俺は街壁の上の兵たちに気付かれないように気を付けながら、【浮き玉】を街に向かわせた。
◇
さて、街と貴族街との境にある街壁を越えたところで、俺は門付近へ下りると門番たちがいる方へと進んでった。
そして門の周囲を照らす街灯の範囲に入ると……。
「止まれっ!!」
気付いた兵たちは、構えた槍を向けたり異常を報せるための笛に手を伸ばそうとした。
もちろん、すぐに俺だと気づいてその手を下ろしたんだが……【祈り】を発動していないから、普段と違って光っておらず、ちょっとわかりにくかったかもしれないな。
まるっきり不審者を相手にした時の構えをされてしまった。
「オレだよ」
とりあえず警戒を解かないと……とゆっくりと近づいて行きながら声をかけたんだが。
「副長っ!?」
「何か起きましたかっ!?」
普段とは違う俺の様子に却って警戒させてしまったようだ。
武器こそ降ろしたが、緊張感は増している。
「大丈夫大丈夫。何も起きてないよ。昼寝のし過ぎで目が覚めちゃったから、ちょっと散歩がてら街をうろつこうかなって思ったんだ」
その言葉に彼らはホッとしたような表情を浮かべて、ようやく警戒を解いていた。
「普段とは違う様子の副長に何が起きたのかと思いましたよ……。屋敷にはそのことは?」
「うん。ちゃんと南館の警備の兵には伝えてあるよ。もっとも、あんまり詳しくは話していないから、もし屋敷から何か連絡があったら、そのうち戻るとかそんな感じに伝えておいてよ」
「わかりました。不要かと思いますが、暗い上にこの雨です。お気をつけて」
そう言って敬礼をしてくる彼らに、俺は「ありがとー」と返すと、その場を離れるために飛び立った。
◇
貴族街の門から数ブロック離れた中央広場にやって来たところで、再び俺は地上に降りることにした。
いつもなら貴族や商会の馬車が走っていたり、お使いの使用人たちが行き来しているんだが、当たり前だが流石に今は誰の姿も無い。
建物の中はどうかな……と、ジッと中の様子を探ってみるが。
「……警備の兵の気配は無いね。コレはいつもなのかな?」
巡回の兵がいるとはいえ、建物の中も誰もいないとは思わなかったな。
治安の良さの証明かな……?
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