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 流石に何体も仲間が倒されていったことで、魔物たちも最初の混乱も解けたようだが、既にその頃にはこちらの方が数が多くなっている。


 包囲を突破しようとした個体もいたが、俺が手を出すまでもなく、数をこなすことで討伐のペースが上がっていった兵たちに、ドンドンと仕留められていく。


 そして。


「ふっ! ……これで最後だな」


 南側に集まっていた魔物の最後の一体が、振り下ろされた兵の剣に首を刎ねられて地面に崩れ落ちていた。


 中央にいた魔物たちもこちらに流れて来ていたし、結構な数だったと思うんだが……思ったよりもあっさりと倒せたな。


 俺が援護に入ったのも最初の一体の他には数体だけだったし、実力を考えたら当然なのかもしれないが、切っ掛けさえあれば余裕だったか。


 皆も歓声を上げるようなことはないし、冷静なままだ。


「副長、生き残りは?」


 兵の一人の言葉に「ちょっと待って」と答えると、俺は数メートルほど上昇して中央と北側の様子を調べてみた。


「この辺はもう全部倒したね。向こうの真ん中ら辺と反対側にはまだいるけど……戦況は安定しているかな?」


 膠着状態をどうにかするために、正面を受け持っていた兵たちは中に突っ込んで行ったってことを考えると、安定してしまっている状況はいいのか悪いのか。


 とりあえずこちら側を片付けることが出来たし、悪い状況だとは思わないが……。


 俺は向こうの様子を地上の兵たちに伝えながら、どうしたもんかと悩んでいると、下ではいくつかの意見が出ていた。


「とりあえず向こうでの戦闘が続いているのなら、俺たちも援軍に向かわないか?」


「そうだな。こちら側から押していけば、ジグさんが見ている魔物も含めて囲えるはずだ」


 等々、こちらで待たずに積極的に打って出ようって意見が多いな。


 まぁ……落ち着いてはいるが、圧勝したばかりだし士気が高いのも当然か。


 俺が地上に降りていくと、「どうする?」と訊ねてきた。


「包囲のこっち側は全部倒したし、外に魔物が潜んでいるってこともないから、皆がココを離れて向こうに移動するのはいいと思うよ。ただ、森の奥にまだジグさんが対峙しているのと同じくらいの強さの魔物がいるはずだし、刺激しないように静かに移動した方がいいかもね」


「ああ……まだジグさんの方は戦闘が起きていないしな……。わかった。それなら纏まらずにバラけて移動するか。向こうまで魔物はいないし別に問題無いだろう。副長は……また森に入るか?」


「そうだね……」


 彼らなら特別強力な魔力や恩恵品を持っているわけじゃないし、バラバラに移動したのなら警戒されるようなことは無いだろうが、俺の場合はちょっと違う。


 そして、俺が彼らと一緒に行動することで、彼らまで目立ってしまうかもしれない。


 ここは俺は先程と同じく姿を隠しながら単独行動するのがベストなんだろうが……。


「オレは一の森に向かうよ。森にまだ潜んでいる魔物がいるし、ソイツの裏側に回り込んでおくから、ジグさんにそれを伝えてもらえるかな?」


「む……確かにアンタが裏から抑えてくれたらジグさんも動きやすいだろうが……大丈夫か?」


 彼の「大丈夫か?」は魔物のことかジグハルトの魔法のことかはわからないが、俺ならとりあえず一発は耐えることが出来るし、魔物が相手ならどんな変な相手でも逃げることは可能だ。


 集まってきた兵たちに自信たっぷりに頷いた。


「うん、オレなら大丈夫だよ。それに、裏を抑えておかないと結局繰り返しになりかねないでしょう?」


 ◇


 この群れの規模がどれくらいのもので、率いるオオカミたちがどれくらいの力を持っているのかはわからないが、森の奥からさらに魔物を呼び寄せたりされたらいい加減面倒だし、その対処に時間がかかってしまい、自分たちの方の調査を終えたアレクたちが救援に来ようものなら、流石に逃げられてしまうだろう。


 何だかんだ手間をかけさせられたのに、ここで取り逃すなんてことはしたくないし、しっかりと俺が援軍と退路を断っておかないとな。


1613


 このまま隊の他のメンバーとの合流を目指す兵たちと別れて、一の森に入った俺は、森に潜んでいるオオカミたちの下に真っ直ぐ向かうのではなくて、まずは南東方向に進んでいた。


 包囲の南側に向かった際に、魔物に動きを悟られないように北の森を移動したのと同じ理由だ。


 北の森を移動した時よりは大分移動距離も増えてしまうが……森の上空を移動しているし、速度も森の中に比べるとずっと出せるから、裏に回り込むまでそう時間はかからないだろう。


「……っと? アレかな?」


 今いる位置から北側に二つの強い魔物の気配を見つけた。


 一つが森の浅瀬から少し奥に入った位置で、もう一つがそこから数十メートルほど後ろに離れた位置に控えている。


 さらに、ここからだとどれくらいズレているかはわからないが、前後で真っ直ぐ並んでいるわけじゃないし、ジグハルトの魔法で一撃で纏めて倒す……ってのは無理な配置だ。


 ジグハルトが随分と森の奥からコイツらを引っ張り出すことにこだわっていたが、その気になればいつでも魔法で纏めて仕留めることが出来る。


 やらないのは、森を破壊し過ぎないような配慮……とか思ってたんだけど、違ったみたいだな。


「とは言え……本気でなりふり構わずやろうと思えば出来るはずだし、それも間違いってわけじゃないだろうけど、そこまでする程かどうかで迷って……我慢比べを選択したってことかな? まぁ……近くに魔物もいるし、そんな派手なことをやったらその二体だけを倒せば終わりってわけにはいかないしね」


 俺は森の様子を眺めながら「はぁ……」と、溜め息を吐いた。


 見た感じ同じ群れってわけじゃないだろうが、少しずつ森の外に向かっていっているし、何かきっかけがあればこの魔物たちも暴れそうだ。


「追い払うのが目的じゃないとはいえ、あれだけの魔力を浴びせられてるのに逃げないんだよね……。北の森の方はすっかりいなくなってたんだけど……オレが間に入るだけでどうにかなるかな?」


 並の魔物が相手なら、俺が前に立ちふさがったら多少の足止めくらいにはなるんだが、ちょっとコイツら相手だとどうだろうな。


「まぁ……オレが優先することはボス格を逃がさないことだし、周りの魔物たちも抑えられるんならそれが一番だけど、無理なら無理でもなんとかなるか」


 数が多いから厄介なことには違いないけれど、俺がこっち側からボスが逃げないように抑え込んでいるのなら、ジグハルトが戦闘に参加出来るしどうにでもなるだろう。


 俺は「よし!」と気合いを入れ直すと、奥にいる方のボスの背後に回り込むように【浮き玉】を飛ばした。


 ◇


 裏に回り込んだところで、俺は一旦【浮き玉】を停止させた。


 一応遠回りをしてはいるものの、これだけ用心深い魔物だし俺の動きにも気づくんじゃないか……と不安だったんだが、ジグハルトの魔力はこの辺りにもしっかりと届いていて、その魔力に上手く紛れることが出来ているのか、全く気付いた様子は無かった。


「合図は……必要ないか」


 この高度なら木に遮られることもないし、ジグハルトに向けて魔法で合図をしてもよかったんだが、折角魔物に気付かれることなく背後を取れたんだ。


 ここは余計なことはせずに、コソコソと動こう。


 俺がこっちに移動するってのは兵たちに聞いているだろうし、魔力でも動きを捉えられているはずだしな。


 念のため恩恵品と加護は必要な物だけを残して解除してから地上に降りていく。


「……ん? これなら足止めだけじゃなくて、上手く行けば仕留められるんじゃないかな?」


 辺りの様子を窺いながら降下をしていたが、俺と後ろのボスとの間には何もいないらしいことに気付いた。


 そして、ボスたちも周りにいる魔物たちも、ジグハルトの魔力にしか意識が向いておらず俺は全くのフリーだった。


 このまま音を立てずに静かに近づいて行けば……やれるんじゃないか?

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