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「はぁっ!」


 混戦になりかねないし、オークと森に控えている魔物たちが来る前にさっさと片付けてしまおうと、カエルもどきの片割れの頭部を狙って、突っ込みながら蹴りを放ったが。


「あっ!? 逃げたっ!!」


 俺の蹴りが当たる直前に、カエルもどきは横に大きく飛んで蹴りを回避した。


 それに、ただ単に回避しただけなら、空中の無防備な体に、追撃の【影の剣】が決まるんだが……コイツは俺の間合いよりも遠くに飛んでいる。


 狙ってなのか偶々なのかはわからないが……これはちょっと、今までのカエルもどきとは勝手が違うかもしれないな。


「まぁ……ただ単に、森の中だと飛び跳ねるだけのスペースが無かっただけかもしれないけどねっ!」


 俺はカエルもどきたちと、こちらに近づいてくるオーク。


 そして、魔境側の森に控えている魔物の群れを順に見ていきながら、【紫の羽】を発動した。


「カエルもどきやオークには大して効果は無いかもしれないけど、向こうの魔物たちなら……」


 カエルもどきたちへの威嚇はヘビたちに任せて、俺は森の方をジッと見る。


 何体潜んでいるのかはわからないが、数体を除いたら、どれも小型の妖魔種のはずだ。


 このレベルの魔物になら羽の毒は効果があるし、一斉に無力化出来るだろう。


「……ちょっと距離があるから、効果が出るかはわからないけど、どうせ通行人なんていないんだし、使ったところで周りに被害は出ないし、無駄にもならないよね」


 俺は、毒をより広範囲に撒けるように高度を上げていく。


 下手に高度を上げることで魔物たちが俺を狙うのを止めたら……と思いもしたが。


「うん……カエルもどきたちも、向こうのオークもオレを意識したままだね。……我ながら面倒くさそうな相手だと思うんだけど、何かあるのかな?」


 先日の森で相対した群れは、立ち塞がる俺よりも馬車の方を追おうとしていたし、今回も俺を無視して馬車の後を追ったら……と危惧していたんだが、その心配は不要だったな。


「馬車に積んだだけなのと、ちゃんと処理した違いかな?」


 まぁ……何にせよ、これで戦闘に集中出来るな。


「ふぅ……。よしっ! とりあえずオークがこっちに来る前に、せめて一体くらいは仕留めておかないとな……行くぞ!」


 魔物たちを視界に収めるように体を下に傾けた俺は、気合いを入れると、突撃の構えをとった。


 ◇


「ほっ! ……はっ!!」


 上からの蹴りを躱すために、大きく後ろに飛び下がるカエルもどき。

 追撃に【影の剣】を振るうが、それも届かない距離まで飛ぶと、着地してこちらに頭を向ける。


「ふむ……」


 何度かこのパターンの攻撃を仕掛けたが、毎度同じだ。


 カエルもどきは、どちらも反撃よりも回避を優先している。


 かと言って、攻撃ではなくて接近しようとしても、後方に飛び跳ねて俺から距離をとるだけで、今の位置関係を崩すだけになるから、それは使えない。


「ヤル気はあるみたいだけど、急いではいないか。まともにやったんじゃ、ちょっと倒すのは難しそうだね」


 やれやれと、溜め息を吐きながら視線を奥に向けると、もうハッキリと肉眼で確認出来る距離までオークが接近していた。


 ダンジョンで見かけるオークよりも心なしかマッチョ体形に見えるし、ずっと手ごわそうだ。


 さっさと片付けたいし……。


「ちょっと無理をしようかね」


 このままだとただ追いかけっこをするだけになりそうだし、そろそろ決めにかからないとな。


 俺なら一発二発攻撃をくらっても耐えられるし、やってみるか。


「……せーのっ!」


 先程までと同様に、上から接近した俺はカエルもどきに蹴りを放つ。


 カエルもどきは、これまた同様に大きく後ろに飛んでその蹴りを躱す。


 宙に浮いて動きが取れなくなったカエルもどきに追撃を仕掛けるが、今回は【影の剣】じゃなくて、【蛇の尾】だ。


「はっ!」


 カエルもどきの側面に伸ばした尻尾で、後ろ足の一本を巻き取ると、そこを支えに【浮き玉】を一気に加速させた。


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「おっと!?」


 突っ込んで来る俺を叩き落すために、カエルもどきは舌を伸ばしてくる。


 ジャンプ中なのに器用な真似をするが……舌程度では俺の風を破ることは出来ずに、大きく弾くだけに終わった。


「ちょっとびっくりしたけど……今のは失敗だね!!」


 舌の攻撃そのものは大した威力じゃないが、それでも体当たりだったり毒液だったり……他の攻撃の合間に使われたら厄介なことには違いない。


 だから、後ろ足一本を抑えている状況で舌まで封じられたのは、一気に仕掛けるチャンスだ!


 カエルもどきの足に巻き付けている尻尾に、振りほどかれたりしないように力を籠めると、俺は足ではなくて、右手を前に突き出したまま突っ込んでいく。


 そして、刃がカエルもどきの体に触れたタイミングで。


「ほっ!!」


 クルっと体ごと回転させて、カエルもどきの体を大きく切り裂いた。


 さらに。


「はっ!」


 今度は逆回転で、その切り口のすぐ側を反対から同じように斬りつけたところで、地面に落下して転がっていった。


 どちらも切断まではいかないが、背骨を断った感触はあったし、少なくともこの戦闘の間はまともに動くことは出来ないだろう。


 やたらタフなこいつらは簡単には仕留められないし、複数を相手にするなら、頭部を切り離して遠くに蹴り飛ばすってのが俺の中でのパターンだったんだが、今回は一先ず行動不能に追いやれただけで十分だ。


「この流れで……!」


 俺は地面に転がった一体から残りのもう一体に視線を向けると、今度はいつも通り足を前に突き出して突っ込んた。


「よいしょっ!」


 まずはカエルもどきに蹴りを!


 その蹴りを躱すために、大きく飛んで下がった空中のカエルもどきに斬撃を……。


「くっ!?」


 カエルもどきに斬りつけようとしたが、飛んできた何かに【風の衣】が破られた。


【琥珀の盾】は残っているから、飛んできた何かは風で相殺出来たんだろうが……勢いを削がれてしまったし、仕切り直しだ。


【風の衣】を張りなおすと、俺もカエルもどきから距離をとった。


 そのついでに、【風の衣】を破った何かが飛んで来た元の方に視線を向けると、ノソノソ歩いていたはずのオークが、何かを振りかぶっている姿が目に入った。


「まぁ……だろうね」


【風の衣】を破るような物が、風なんかで飛んでくるわけないし、この場でそんなことが出来そうなのは、能力的にも種族的にもあのオークだけだ。


「オーガならともかく、オークが物を投げてくるってイメージは無かったね。まぁ……魔境の魔物はゴブリンとかだって色々工夫しているし、物くらい投げるようにはなるのかな?」


 俺は「やれやれ……」と首を振ると、溜め息を吐いた。


 ◇


 まずは手近にいて尚且つ厄介なカエルもどき二体を、オークが合流する前に始末して、それからオークと森の奥にいる魔物を片付ける。


 そう考えていたんだが、それは遠距離攻撃をしてくる魔物がここにはいないってことが前提にあった。


「それが崩れちゃったな。しかも、森の奥にいる魔物だけじゃなくて、カエルもどきとも動きを合わせてくるか……」


 連携なんて大したもんじゃないし、一方的にオークがカエルもどきの動きを利用しただけなのかもしれないが、それでも遠距離攻撃の援護付きとなると、俺も下手に突っ込んだりは出来なくなる。


 やっぱり距離があるうちに仕留めておくべきだったかな……。


 ポンポン飛んでくるゴブリンの頭ほどの大きさの石を躱しながら、時間をかけすぎたことを反省して頭を落としていたが、すぐに気を取り直して頭を前に向けた。


「いや、それなら順番を変えれば済むことか。先に向こうを片付けないと、状況は良くならないか」


 攻撃をしてきたりはしないものの、隙を窺っているのか俺の後ろに回り込んでいるカエルもどきから注意を外すのはちょっと怖いが、もっと近づいて来て接近戦で本格的に連携を取られでもしたら、俺でもちょっと手が足りなくなるかもしれないし、ここは覚悟を決めないとな。

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