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「……いた! 思ったよりも早く合流しそうだし、向こうも結構速度を出してたんだね」
狼煙を見つけてから街道沿いに北に向かって飛んでいると、前方からこちらに向かってくる集団が見えてきた。
複数の腕が立つ者に加えて、一際強いのが一人……調査隊の隊員たちで間違いないだろう。
もう肉眼でも捉えられる距離だし、晴れていたら砂埃なり馬の足音なりで気付けたんだろうが、ちょっと街道の左右の森の方を探ることに、目も耳も気を取られていたな。
いかんいかん……と、周囲を探るために上げていた高度を下げると、街道を無視して一直線に隊員たちの下に向かい始める。
「一緒に領都まで行くかどうかは別として……一先ず合流しようかね。領都までこのペースでいくかどうかも聞きたいしね」
もしこのペースで突き進むのなら、俺の帰還予定の時間にも間に合うだろうし、領都まで一緒に戻ってもいいかな。
それに、馬の疲労や荷物の具合次第では、俺だけ先に戻ってもいいし……。
「うん?」
飛んで行きながらオーギュストに報告することを頭の中で纏めていたんだが、視界の右端に何かが映った気がして、【浮き玉】の速度を緩めた。
「あっち側は魔境だし……魔物かっ!? 向こうの皆はまだ気づいていないみたいだし……」
もしこれが晴れていて、ただ単に街道を移動しているだけ……とかだったら、距離があったとしてもオーギュストなら気付けていたかもしれないが、流石に状況が悪過ぎるかな?
ともかく、この距離でも気付けるくらいの力がある魔物だし、気付けていないのなら急いで知らせないとな。
「ふっ!」
俺は恩恵品を発動すると、【浮き玉】を再度加速させた。
◇
「うん? 気付いたかな?」
前方を移動していたオーギュストたちは、まず高速で突っ込んで来る俺に気付くと、何事かと驚いたのか、手綱を引いて走る馬を止まらせた。
続けて、俺がそんな真似をしたことから、周囲に危険が迫っている……と予想したんだろう。
全員で周囲を見回したかと思うと、すぐに魔物がいる魔境側を警戒するような陣形を取り始めた。
オーギュストを始めとした、騎乗した隊員たちが東側に回って、さらにいつでも離脱出来るようにだろう。
馬車を前に移動させている。
「これなら大丈夫かな……? 団長!!」
俺が彼等の下に到着した時には、既に皆武器を手に、臨戦態勢に入っていた。
「セラ副長! 助かった。アレが何かはわかるか?」
「まだわかんない! でも、結構強いよ!」
チラッと馬車を見るが、荷台に幌が付いていて荷物の状況まではわからない。
ただ、もしあの樽の中身である薬品の内の一つの、魔物避けの方が効果を発揮していたとしても、お構いなしに突っ込んで来るだろう。
俺の言葉を聞いたオーギュストは小さく舌打ちをしたが、気を取り直したのか、すぐに他の隊員たちに指示を出した。
「背後を取られたくない。この場で仕留める。二人出て釣り出してくるんだ。止めは私が刺す!」
「はっ!」
オーギュストの指示に二人の隊員が返事をすると、すぐに馬を魔物がいる方へと走らせた。
「セラ副長、ここから領都までの間に魔物はいたか?」
「森にはいたけど、オレが見つけたのだと大したことは無かったね。それでも一応西側に追っ払ったし、こっちには来ないはずだよ。それと、他にもカエルもどきがいるはずだけど、痕跡はあったけど姿は見当たらなかったね」
「ああ……我々も街道の崩落現場の側で、何かが這い出たような穴を見つけた。……森には姿が見えなかったのか」
オーギュストは小さな声で「厄介な……」と呟くと、残りの隊員たちにも指示を出そうとした。
戦闘になるだろうし、馬車と一緒にこの場を離れさせでもするのかな?
だが、彼が何かを言う前に、俺が大きな声で「待って!!」と、それを遮った。
そして、街道の西を指す。
「カエルもどき! こっちに来てる!!」
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薬品の効果に釣られてなのか、カエルもどき二体が森から出て来て、馬車の方に向かって来ていたんだが……。
「ぐぬぬっ……!? 結構速い!!」
俺がそのことに気付いて皆に注意をした時は、まだ森から出たばかりで距離があったんだが、飛び跳ねながらドンドンと接近してきている。
オーギュストも対応しようと指示を出しているが、この速度だと隊列の変更は間に合わないだろう。
東に向かった二人も、それに気付いて引き返そうとしているが、走り出してすぐだったとはいえ、微妙な距離だ。
俺がこれまで戦ってきたカエルもどきは、確かに飛び跳ねることはあったが、それは全部上にだった。
でも、今回のカエルもどきたちは、ビョンビョンと前に向かって飛び跳ねている。
そりゃ上に飛ぶより、前に飛ぶ方が距離は出るし速度も出るよな。
それに、カエルもどきだけじゃなくて東側の魔物もいるし……そうなると。
「団長! ここはオレが引き受けるから、皆は先に行って!」
簡単な相手じゃないが、それでも俺一人でどうにか出来る程度の相手だ。
むしろ、好きに動ける分一人の方がいいくらいだ。
とりあえず皆にはここを離れてもらおう……と、考えてそう言ったんだが、馬車の向こうのオーギュストが「待て」と返してきた。
「せめて私も残って迎え撃った方がいいのではないか? カエルもどきだけならともかく、東の魔物もいるぞ!」
チラッと見ると、釣りに出た二人には引っかかっていなかったのに、バタバタと慌て始めたことを隙とでも思ったのか、こちらに近づいて来ている。
カエルもどきと違って、歩く速度はゆっくりとではあるが、カエルもどきを倒し切る前に合流してしまいそうだ。
それを考えたら、オーギュストの意見はむしろ正しいくらいなんだが……やはりまだアレクやジグハルトほど俺の戦い方を理解していないな?
相手の魔物にもよるが、基本的に俺は一人で飛び回りながら一撃必殺か、あるいはチクチク傷を負わせていくかのどっちかだ。
どっちを選ぶにせよ、動き回るからな。
足を止めて盾になってくれるか、遠距離から援護してくれるかでもないと、一緒に戦うのは難しいだろう。
「大丈夫! 開けた場所ならオレは一人の方が動きやすいから!」
俺の戦っている姿を思い出しでもしたのか、オーギュストは俺の言葉に「む……」と口を閉ざす。
「それに、穴は四つあったでしょう? あの二体の他に、もう二体いるかもしれないんだ。団長がいないと皆が大変だよ」
さらに俺がそう続けると、オーギュストは小さく息を吐いて先頭に移動した。
「…………ここはセラ副長に任せた。まず我々はこの場を離れる。街道の外の警戒を怠るな。行くぞ!」
そして、立て続けに指示を飛ばすと、馬を走らせた。
◇
「……しまった。カエルもどきが出るかもしれないんなら、向こうにも【祈り】をかけといたら良かったかな?」
もう街道脇の茂みを抜けて、街道に入ろうとしているカエルもどきを見ながら、つい先程走り去っていった調査隊の一行のことを考えた。
積み荷の薬品が効果を発揮するかどうかはわからないが、森の南側には魔物が大分戻ってきているし、街道を突っ切る一行にちょっかいを出そうとするかもしれない。
必要ないかもしれないが……あって困るもんじゃないし、彼らがいる時に使っておけばよかったかな。
「失敗失敗……ほっ!」
先程のうっかりを反省しながら【祈り】を発動すると、戦闘態勢に入った。
カエルもどき二体。
面倒な相手ではあるが、コイツらは正直どうとでもなる相手だ。
それよりも、東側からノソノソとやって来る魔物……問題はこっちだな。
「まだ距離はあるけれど、見た感じただのオークだね。魔境にいるだけあって強さはそれなり以上だけれど……」
俺はそこで口を閉じると、街道の東に視線を向けた。
「森の奥に従えている群れがいくつか隠れているね。やっぱりここはオレが引き受けて正解だったか」
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