723
1518
背を向けていたため、ジグハルトの魔法がどこに着弾したのかはわからない。
だが。
「……おぉぉ」
振り向くと、地面に大穴が空いていた。
あの地下空間があった周辺の地面が広範囲に渡って崩落しているが、今も穴の縁が崩れていっているし、まだまだ広がりそうだ。
このままだと一部だけじゃなくて、地下の天井全体が崩れてしまうだろうな。
「うーん? ここからだと……見当たらないね。ちょっと場所を変えてみるか」
状況を確認するために、俺は穴の上空に移動した。
崩れた土砂が舞い上がって底は見えないが、地上の水路よりさらに深い位置にある。
広さは、俺が一の森で発見した水場と同じくらいはありそうかな。
「これだけ派手にやったんなら、流石に死んだりは……?」
視界の悪い中で、この広い場所から見つけるのはちょっと難しいんじゃないか……と不安になっていたが……そんな心配は全く必要なかった。
「土砂の中なのか水の中なのかはわからないけど……全く弱ってないね」
姿は見えないしどんな状態なのかはわからないが、それでも【妖精の瞳】に映るコイツは全く弱っていないのは確かだ。
とりあえず、ここからもう一戦あるわけだし、三人のところに戻って見たことを伝えようかね。
念のため穴の底から目を離さずに、俺はススス……と【浮き玉】を後退させていった。
◇
「どうだった?」
戻ってきた俺に、まずはジグハルトがそう訊ねてきた。
表情は……アレだけ派手に破壊した割には微妙だな。
仕留めきれていないのはわかっているんだろう。
「向こうにも穴は空いてて、その下に広い空間があったよ。ジグさんの魔法はしっかりそこを崩してたね。でも、穴の底はどんな状態なのかは見えなかったけど、ほとんど弱ってないみたいだったね」
俺の言葉に、アレクとオーギュストが「そうか……」と呟くと、揃ってジグハルトを見て、言葉を待っている。
ジグハルトは、数秒ほど目を閉じていたかと思うと俺を見た。
「む? 何か聞きたいことある?」
「ああ。お前がヤツを見つけた時、どんな様子だった?」
「どんな様子だったか……? そうだね、真っ暗だったからはっきり見たわけじゃないんだけど、天井にへばりついて、こっちを見てたよ」
「こっちをか。俺の魔力に反応していたってところか? それなら、魔力に反応して魔法を避けるのも難しくないな」
俺が穴を調べていた時の様子を話すと、ジグハルトは「やれやれ」と首を振った。
「穴の底は水なんだろう? 落下して水中に身を隠せば、魔法の余波も崩れ落ちた土砂からも身を守れるな。知恵か本能かはわからないが、厄介なことだ」
「だが、それならますます放置は出来ないし、ここで何としても仕留める必要があるな。ジグさん、魔力の余裕は?」
「問題無い。だが、デカさも考えると加減は出来ねぇな。流石に火災にはならないと思うが……大分森を荒らしてしまうぞ?」
「今更じゃない? もう大穴が空いちゃってるよ?」
三人の会話の邪魔をするつもりは無かったんだが、ジグハルトの言葉についつい突っ込みを入れると、アレクが同意するように笑いながら続けた。
「確かにな。森が荒れすぎるのも困るが……アレを逃がす方が問題だ。そうだろう?」
「ああ。しかしどう戦うかだな。穴の底にいるのならそこから釣り出すか、我々も下りる必要がある」
「ジグさんやアンタはともかく、俺は普段の戦い方は出来ないな。……セラ、弓を貸してもらえるか?」
「お? いいよー」
俺は髪から【ダンレムの糸】を外した。
穴の中に下りるにせよ地上で戦うにせよ、足場が大分悪いからな。
盾で受ける普段のアレクの戦い方は向いていない環境だ。
【ダンレムの糸】は連発することは出来ないが、それでもコレをメインにする方がいいんだろう。
「よし……行くか!」
さて、【ダンレムの糸】を受け取ったアレクが手早く準備を済ませると、それを待っていたオーギュストが合図を出して、足早に穴の方へと歩き始めた。
1519
穴の手前まで到着すると、俺が先行して穴の上空へ向かうことになった。
先程は崩落直後で、土煙や蒸発した水が邪魔で穴の様子がハッキリとは見えなかったが、そろそろ落ち着いているだろうし、まずは偵察だな。
ちなみに三人は、穴の縁でお留守番だ。
思ったよりも穴が深かったようで、下に下りるとしたらどうやるかの相談をしている。
この中から引っ張り上げるのは無理だと判断したんだろうな。
俺もそう思う。
まぁ……彼等がどうやってこの断崖を下りていくのかわからないが、俺がどうにか出来るもんじゃないし、彼等で頑張ってもらおう。
「そんなことよりも……いるね」
穴の中をキョロキョロとしていると、壁際に大きい岩を見つけた。
その岩は、天井が崩れた際に地上から落っこちて来たんだろう。
水の中に埋まっていて、先端が少しだけ覗いている。
んで、その岩の影に体を半分水に沈めながら、こちらを窺っている魔物の姿があった。
上手く岩や壁に擬態しているし、軽く見るだけだと見逃してしまいそうだが、それは俺には通じない。
相変わらず全身を見ることは出来ないが、それでも初めて明るい場所でコイツを見ることが出来たな。
……なんかカエルとトカゲとヘビが合わさったような顔をしているな。
タフそうだ。
相変わらず俺のことは無視して、穴の縁にいるジグハルトたちの方ばかり見ているが、呑気に浮いていて何かの拍子に見つかっても嫌だしな。
もう少し観察したいが、一旦戻って報告だ。
俺は穴の上空から離れると、三人が待つ場所へ移動した。
◇
偵察の結果を報告すると、三人は「少し待て」と言って、再び話し込んだ。
その間、俺もこの位置から穴の中を覗いてみるが、ここからだとあの魔物は岩にスッポリ隠れてしまっている。
あの岩の他にもデカい岩や大木が落下しているが、丁度死角になるからあの岩を選んでいるんだろう。
やっぱり警戒相手はこの三人か。
俺は無警戒のまま……。
「ねぇ」
「どうした?」
「アレって今もあの岩の陰に隠れて動いていないんだよね。ここから毒を撒いたら効いたりするかな?」
【紫の羽】はどうしてもその性質上使う場所を選ぶため、屋外で滅多に使うことはないんだが……広さはあるとはいえ、この深い穴の上空から発動したら、上手いこと穴の中に収まるはずだ。
「毒……ああ、お前の羽か? そうだな……地形は悪くないが……」
俺の提案を聞いた三人は、ゆっくり縁に近づくと穴の中を覗き込んだが、すぐに下がると「止めておいた方がいい」と、揃って似たようなことを口にした。
カエルもどきには効きがいまいちだった感じはあるが、コイツも一緒なのかな?
「効きそうにないかな?」
俺も一緒に下がるとそう訊ねたが、皆首を横に振っているし、どうやら違う理由らしい。
「いくら広くても、要はただのデカい穴だ。毒を撒くにはおあつらえの地形だとは思うんだが……水中がどうなっているかはここからじゃわからないだろう?」
「あぁ……逃げられたら困るもんね」
俺が先程照明の魔法を使うのを控えたのと一緒だな。
折角場所を特定出来ているのに逃げられたら困るし、多少手間が増えたとしても、逃がさず確実に仕留めたいんだろう。
「そういうことだ。ジグハルト殿、行けるか?」
「ああ、問題無い。セラ、悪いが【祈り】を頼めるか?」
「む、了解」
ジグハルトに頼まれ、俺は【祈り】を発動する。
今日二回目だが……まぁ、必要なことだよな?
俺を含めた四人全員にしっかり効果が発動すると、ジグハルトは「下がってろ」と言って、自分も一歩下がった。
そして、魔力を溜め始めた。
「ねね、ここから撃つの?」
すぐ側にいるアレクに声をかけると、もう少し下がった方がいいようで、肩を引かれた。
これは、また派手な魔法を使うのかもな。
「魔物を狙うわけじゃない。まずは俺たちが下りるための道作りだ」
「道作り?」
「俺たちを警戒している魔物がすぐ側にいるのに、この高さを悠長に下りていくのは危険すぎるだろう? だから、斜めに魔法を撃って地面を撃ち抜くんだ」
俺たちがそう話している間にジグハルトは魔力を溜め終えたらしく、強い閃光が辺りに走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます