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カエルもどきたち相手の戦闘を切り上げた俺は、あの水溜まりがあった場所から街道に出ずに、そのまま森の上空を南に向かって飛んでいた。
お目当ては領都の東にある開拓拠点だ。
「…………見えたっ!」
あの開拓拠点は、領都の東門に繋がる街道から、真っ直ぐ東に進んだ位置に建設されている。
一の森で狩りをする冒険者や、彼等へのサポートをする冒険者ギルド。
その冒険者相手に商売をする商人に、森の警備と監視を行っている騎士団など、色々な人間が集まっている場所だ。
流石にこの時期は人の出入りは普段よりもずっと少なくなっているが、今は先日の北の森の件を警戒して、ジグハルトたちが送り込まれている。
上空から見た感じ、拠点内のそこかしこに人の気配があるし、大分賑やかな雰囲気だな。
北の拠点との違いは、領都との距離かな……?
「まぁ……いいや。とりあえず中に行かないとね」
俺は高度を落としながら、拠点の西門に進路を向けた。
◇
さて、拠点の西門前に降りた俺は、門を守る兵に事情を話すと、すぐに拠点内にある集会所らしき建物に通された。
北の方の拠点で、調査隊のメンバーたちが滞在している宿泊所みたいな場所だな。
中に入ると、いくつものドアが並んでいる廊下があって、突き当りを曲がった一番奥には両開きのドアがある。
「そこ?」
「はい。一番広い部屋になっていて、普段は会議や催し物を開く際に利用されています。皆さんはそちらにいらっしゃいます」
俺がここまで案内してきた兵に訊ねると、彼はそう返してきた。
「そか……ありがとう。もう戻っていいよ」
「はっ。失礼します」
新人なのか領都の本隊の兵じゃないのかはわからないが、随分礼儀正しいな。
一礼し下がって行く彼を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
「……よし」
廊下の角を曲がった彼の背中が見えなくなったところで、俺はドアに手をかけて中に入った。
この部屋は食堂も兼ねているようで、中ではジグハルトを始めとしたウチの兵や冒険者たちが、テーブルについて食事を摂っていた。
見た感じ酒は飲んでいないし、遅めの昼食のようだ。
それじゃー中の皆に挨拶を……と、口を開きかけたが。
「セラか? どうしたんだ?」
挨拶を口にする前に、俺に気付いたジグハルトが声をかけてきた。
ジグハルトだけじゃなくてテーブルについている兵たちの大半も、同じタイミングでこちらを向いていたし、中々の腕利きさんたちだ。
まぁ……ここの場所を考えたら妥当なところかな?
「お疲れ様ー。ちょっとこっちに用事があってね。皆は昼食?」
「ああ。朝から昼にかけて森に出ていたからな。この後は朝まで交代で休憩しながらここの警備だ」
「あぁ……それは大変だね……」
俺の言葉に、ジグハルトは「大したことない」と笑っているが……そんなことは無いだろう。
北の森の調査隊も、森の調査に拠点内の調査に、冒険者たちが雨季でいなくなったことによる、防衛力の低下を補うって仕事を任されているが、北の森と一の森とじゃ魔物の強さも遭遇頻度もまるで違う。
ずっとこっちの方が過酷なはずなんだが……タフなおっさんたちだ。
そう呆れて、初めのジグハルトの問いかけに答えられずにいると、ジグハルトは周りの兵たちと勝手に話し始めた。
「副長は若い連中を連れて北の森の調査に行ってるんだよな?」
「ああ……まあ、コイツは毎日夜に領都に戻っているんだがな。今日は戻ってくるにはまだ少し早いし……何かあったんだろう。大方、昨日戦ったっていう魔物でも出たんだろうな」
俺が言うまでもなく、何のために来たのか予想出来ているらしい。
俺より先に出発している彼等は、カエルもどきはもちろん、調査隊のことも話していなかった気がするんだが……ここは領都と近いし、報告は密に行っているのかもしれないな。
ともあれ、話が早いのはいいことだ。
「そうそうよくわかったね。ちょっとこっち側に伝えておきたいことが出来ちゃってさ」
俺はそう言って彼等の会話に加わると、先程の一の森での戦闘について話を始めた。
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ジグハルトたちもカエルもどきの情報は一応知っていたようだが、改めて俺はそこから話を始めることにした。
打たれ強さに、首を刎ねても動くしぶとさ。
毒液を吐いたり、死体を燃やしたら煙に妙な効果があったり……その面倒臭さについてもだ。
最初は興味深そうに聞いていた彼等も、だんだんうんざりした表情になっていったし、腕利きの彼等にとっても面倒な魔物ってことなんだろう。
一先ずカエルもどきについて話すと、本題である先程の件に話題を進めた。
一の森に入って少し行った所に池のような大きさの、周囲に生物の気配が全く無い水溜まりが出来ていて、そこに件のカエルもどきが複数体潜んでいたこと。
そして、恩恵品を駆使して多分複数体倒しはしたが、視界が霧で遮られている間に、少なくとも1体。
もしかしたら、もっと多くの何かを森の奥に逃がしてしまったかもしれない。
そんなところだな。
◇
俺が話を終えると、隣の椅子に座っているジグハルトも含めて、部屋にいる皆は難しい顔をして黙り込んでしまった。
時折「…………ふむ」と、低い呟きが聞こえるが、何やら考え込んでいるようだ。
しばらく黙っている皆を眺めていると、ジグハルトが顔を上げたかと思うとこちらを向いた。
「……セラ、お前でも倒し切れなかったのか?」
「無理だったね。地上でなら2体くらいまでなら倒せると思うし、場所が悪かったっていったらそれまでだけど、水中に隠れられると今のオレじゃちょっと厳しかったよ」
「なるほどな……。どう思う?」
ジグハルトは大きく頷くと、周りの皆にそう訊ねた。
「今朝の報告で姫さんが妙な魔物と戦ったってのは聞いてはいたが……ここまでとは思わなかったな」
一人がそう言うと、他の者に「なあ?」と話を向ける。
「全くだ。精々森に逃げ込まれたら厄介……って程度の魔物だと思ったんだが、ここまで森の状況が変化するのはな……」
「あら? 皆も雨季の森には詳しくないの?」
「ああ。基本的に雨季の間は狩場に出ることは無いからな。街から近い場所なら警戒も兼ねて見て回っているが、そもそも魔境を本格的に狩場にし始めたのは、ここ数年だろう? この辺に詳しい奴なんていねぇよ」
「……ぉぅ」
どうやら、俺と彼等の間では「詳しい」って言葉の意味合いがズレているようだが……それでも、カエルもどきのことと、あんな風に普段は無い場所にデカい水溜まりが出来ることを知らないってことはわかった。
この感じじゃ森を出歩く際に油断するようなことは無さそうかな?
とは言え……だ。
「ま……まぁ、カエルもどきがいたデカい水溜まりは、【ダンレムの糸】を2度撃ち込んだから大分荒れてたし、流石にあそこにはもういないと思うんだよね。……多分。ただ、それでも俺が仕留めきれなかったせいで、1体は森に逃げちゃったわけだし、一応こっちにそのことを伝えておこうと思って来たんだ」
隣のジグハルトに向かってそう言うと、ジグハルトは「問題無い」と笑いながら答えた。
ジグハルトに倣うように、部屋の皆も同じようなことを口にする。
「……問題無いんだ?」
あの水溜まりを発見した時点で調査をしたことも、調査中に襲って来たカエルもどきと交戦したことも、ついでに逃げた魔物を追わなかったことも、自分ではその判断は間違っていないとは思うんだが、ただでさえ面倒なこの時期の一の森での任務に、さらに面倒な要素を追加してしまったんだ。
もう少し渋い顔をされると思ったんだが……随分楽しそうな様子だ。
その彼等を見て首を傾げていると、一人が笑いながら話しかけてきた。
「姫さん。俺たちは本来この時期は休暇に充てているんだ」
「うん……わざわざありがとうね?」
「気にするな。ここの守りを固めるのも、森の様子を調べるのも必要なことだし納得しているさ。ただ……この数日話し合ってはいたんだがな? いくら雨が降っていたとしても、こんな浅い場所で狩りをするってのもヌル過ぎて調子が狂うんだ」
何言ってんだコイツ……と思い、周りの者たちを見るが、「わかる」と言いたげな表情で頷いていた。
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