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さて、上空からの周囲の警戒を切り上げて下に合流した俺は、そこで見た物に驚いた。
シカを3頭ずつ積んだ大きなソリが2台。
この短時間でよく作れるもんだと感心したが、同時に不安も覚えてついつい訊ねてしまう。
「……これ、大丈夫?」
「……どうだろうな?」
どうやら作った彼等もその考えは同じらしい。
ソリに使われた木は、直径10センチほどだろうか?
それが4本切り倒されている。
周りの木を見るともっと太いのもあるし、この辺に生えている中から、比較的若い木を選んだのはわかるんだが、それでもデカいシカ3頭を積んでいるし、重量は相当なものになるだろう。
コレを人力で曳いて行くんだよな?
無理じゃないか?
「俺たちも作っていて途中でヤバイ気はしていたんだ。まだ晴れているなら何とか出来ると思うが、地面がぬかるんでいるからな……」
「あ、ほんとだ」
ソリの下を見ると、既に地面に埋まっている。
このままじゃどれだけ引っ張ったところで、まともに進むのかどうか。
【祈り】で強化したところで、これはちょっと人力じゃ厳しいよな。
どうしたもんか……と皆で悩んでいると、一人が口を開いた。
「放棄って手もあるにはあるが……副長」
「うん?」
「アンタちょいと拠点に戻って、馬を連れてこれないか?」
「拠点に……? まぁ、急げばすぐだけど……」
「俺たちが滞在している間の食糧は、拠点内の備蓄で賄える量ではあるが……それでも唐突に十何人も押し掛けたんだ。大分消費を増やすだろう?」
成人男性。
それも、兵士と冒険者という肉体労働者だ。
滞在中はずっと動き続けるだろうし、体を維持するためにも、しっかり食事はとって欲しいから、量を控えるってのは無しだよな。
だから、こちらその消費量は正しく予測出来ても、拠点の者にとったら想像以上の量かもしれないし、何かの拍子に揉めたりもするかもしれない。
ご機嫌取りってわけじゃ無いけど、しっかりと食料を納めて、予め不安を解消しておくのも大事だ。
俺は「そうだね」と頷くと、先程までの上から見ていた周囲の光景を思い出す。
この周囲に生物がいることはいるが、こちらに仕掛けてくるようなのはいなかった。
もちろん時間が経てばどうなるかはわからないが、今すぐどうにかなるってことはないだろう。
……いけるな。
「わかったよ。ここから北西の方にいくつかの魔物の群れがあるけど、こっちに来る気配は無かったね。んで、この周囲にも何ヵ所か魔物が屯ってるけど、多分今は眠っていて動く様子はないから」
俺が上で見てきた情報を、皆に伝えていく。
彼等は地面に簡単な図を描いたりしてしっかりと把握しているし、大丈夫そうだな。
「魔道具はいる?」
そう訊ねると兵の一人が首を横に振って、さらに冒険者に視線を向けた。
「いや、手持ちで大丈夫だ。それに……」
「ああ。いざとなりゃ魔法もある。森に被害を出すようなへまはしねぇよ」
「それもそうだね。それじゃー……急いで行って来るから、ちょっと待っててね!」
そう伝えると、俺は返事を待たずに【浮き玉】を拠点目がけて、一気に加速させた。
◇
「……オレだけだと本当にすぐだな」
調査隊のメンバーと別れて僅か数分で、俺は拠点に戻ってきた。
調査が目的だし、真っ直ぐ行かずにウロウロしながらだったからとはいえ、我ながらその差に言葉が出ない。
……が、今はそんなことはどうでもいい。
俺は警備の者に「お疲れ!」と一言だけ告げると、返事を待たずに塀を越えた。
「えー……と、どこかな?」
そして、中に入るとすぐに、こちらで聞き込み調査を行っている1番隊の兵を捉えることが出来た。
何かの建物の中にいるんだろうが、やはり住民とは一目で違いがわかるな。
そちらに向かうと、丁度聞き込みを終えたのか中から出てくるところだった。
「副長っ!?」
「お一人……森で何かありましたか!?」
隊を引き連れて森に入った俺が一人で姿を見せたことに驚いているようだ。
俺は、「ごめんごめん」と驚かせたことを謝ると、彼等が必要になった事情を説明することにした。
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拠点で住民に聞き取り調査を行っていた1番隊のメンバーから、二人に馬に乗って同行してもらい、森で待っている他のメンバーたちと合流を果たした。
そして、すぐに馬の鞍にロープを結びつけると、その端をソリと繋ぎ始めた。
ついでに、ソリを作った木の余りを使って、各所の補強も行っている。
拠点を出発する前に、1番隊の二人にはこっちの状況を説明していたから、協力し合ってスムーズに進めていた。
この分なら、すぐに仕上がるんじゃないかな?
ちなみに、俺が手伝えることはない。
ただただここで浮きながら彼等の作業を見守るってのもなんだし、作業には参加せずに、周囲の警戒に当たっている者たちに、俺がいなかった間のことでも聞いておくことにしよう。
「オレがいない間、魔物との戦闘は起きなかったみたいだね」
辺りを見回すが、戦闘が起きたような痕跡はない。
兵を連れてこっちに飛んできた時に、奥の方に魔物の気配があったが、こっちに手を出してくるようなことはなかったらしい。
俺の視線の向きから考えがわかったようで、一人が肩を竦めながら口を開いた。
「ああ。魔物か獣かはわからないが、向こうの方に何かがいる気配はあったが、姿が見える前にどっか行っちまった」
「俺たちの方が数が多いし、戦えば勝つのも俺たちだしな。それくらいわかっているんだろう。取り出した内臓はしっかりと灰にしておいたし、近寄って来る理由は無いだろうな」
「それはよかった。ご苦労様だね」
魔物の内臓とかは、ちゃんと処理をしたら薬の素材とかになるんだが、この拠点みたいに魔導士たちの工房が無いような場所だと、加工は無理だし、捨てるしかない代物だ。
駄目な冒険者とかだと狩場で適当に捨てていったりするもんだが、流石は騎士団に入れる者やベテラン冒険者だけあって、その辺は抜かりない。
俺が感心しながらそう言っていると、彼等は「大したことない」と笑っている。
そして、笑いが収まると、別の兵が森の奥を警戒したまま別の話題に変えてきた。
「しかし……早かったな」
「うん? アッチの二人を連れて戻ってきたのが?」
「ああ。副長が一人で移動する速さは知っているつもりなんだが……アイツらは拠点内で任務中だったろう? ソレを切り上げさせて、すぐに出発させたんじゃないか? よく引っ張って来れたな」
彼の言葉に他の者たちも「そうだよな」と、同意して頷いている。
「別に大したことないよ。荷運びを頼みたいから、馬に乗って二人来てって言ったら、ちゃんと来てくれたし」
彼等はリックたちに俺の指示に従うようにって言われているだろうし、そんなに驚かれるようなことじゃないはずなんだが……違うのかな?
「俺たちも向こうと仲が悪いわけじゃないが、それでも、俺たちは外で向こうは中って、隊で活動する場所がわかれているからな。コッチは俺たちの場所だろう? 自分たちの任務だってあるのに、それを打ち切ってまで外に手伝いに来るってのが意外なんだ」
「言われてみたらそうかも知れないけど……まぁ、あんま変なことなら無視されるかもしれないけど、ちゃんと意味のあることだしね。それなら従ってくれるよ」
「それもそうか……お? 完了したみたいだな」
「うん? あ、本当だね」
振り向いてソリの方を見ると、ロープを繋ぎ終えて馬で軽く引っ張っている。
ちゃんと補強とかが出来ているかを試しているんだろう。
その様子を見ていると、ソリの側にいる兵がこちらに気付いたようで、「問題無い」と伝えてきた。
「上手くいったみたいだな。それじゃー……俺たちはアレと一緒にこのまま拠点に戻るんだよな?」
時刻を考えたら、調査を終えるにはまだちょっと早いかもしれないが、調査は急いで行うようなことではない。
加えて、アレを拠点に無事運び届けることも大事だし、拠点についてからも、解体処理とか彼等がやることは色々あるしな。
今日はこのまま終了でいいだろう。
だが。
「皆はね。オレはこのまま、まだ採取出来ていない場所を見てこようと思うよ」
俺はもうちょっと森を見て回ろうかな。
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