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伸びてきた舌は【風の衣】で弾くことが出来た。
直接の攻撃ではあるが、【風の衣】を突破出来るほどの威力はないようだ。
もちろん、攻撃手段がこれだけってわけじゃないんだろうが、攻撃方法の一つが無効化出来るってことがわかったのは大きいだろう。
ついつい驚いて距離をとってしまったが、もう少し攻め気でいってもよさそうだな。
「ふぅ……それにしても」
俺は大きく息を吐くと、ジッと前を見た。
「なんなんだろうな……コイツ。カエル?」
初めの一撃の際は、後方に飛び退りながら茂みに身を潜めていたが、今度は違う。
辺りの茂みを尻尾で薙ぎ払っていたし、俺の蹴りは地面に当たっていないから、辺りに霧が立ち込めたりせずに視界はクリアなままで、しっかりと、その姿を捉えている。
捉えて……いるんだが、コイツは何なんだろう?
パッと見た感じ、黒っぽい巨大で細長いカエルだが……尻尾が生えているよな?
見たことないが、サンショウウオも近いかもしれない。
まぁ……2メートルくらいの両生類っぽい魔物だな。
「両生類ね……大して背丈が高くない茂みなのに、さっきまでああも上手く身を隠せていたのは、水たまりに体を沈めていたからなのかな? でも、そっち側は水たまりは無いみたいだね。これからどうするのかな?」
しばらくノタノタ折れた茂みの上を動いていたが、諦めたのか今はジッとしているソイツを見る。
全然わからん。
目は顔の両端についているが、白目が無いからこっちを見ているのか見ていないのかがまるでわからない。
あの舌の攻撃は効かないが、いざこうやって微動だにしない姿を見てしまうと、仕掛けるタイミングが掴めないな。
「…………とりあえず、蹴ってみるか?」
何も考えずに仕掛けるのは危険かもしれないが、このまま見合っていても仕方がない。
とりあえず、効きそうな【緋蜂の針】で攻撃するのが、妥当な選択かな?
そう決めると、俺はゆっくりと近付き始めた。
先の二回は、姿が見えていなかったってのもあるが、どちらも勢い良く突っ込んでいたから、このカエルもどきの急な動きに対応することが出来なかったんだよな。
だが、こうやってゆっくり近づいて行ったらどうかな?
「…………む?」
ジリジリと前進して、残り2メートルも無い距離まで近付いた時、カエルもどきがグッと身を沈めたのがわかった。
また跳ねるつもりなのかな?
俺は一旦その場で停止して、観察することにした。
前後の足4本とも沈めて、いつでも飛び跳ねられるような態勢をしているのはわかるが、俺の姿を目で見ている感じはしない。
試しに少し後退してみると、カエルもどきの体に入っていた力が抜けたのがわかった。
この距離が反応する距離なのかもしれないが、何か理由があるのかな……と考えていると、ふと一つ頭に考えが浮かんだ。
「もしかして、【風の衣】に反応しているのかな? さっきはもう少し接近した気はするけど、あれはただ単に足を伸ばしていただけか?」
2メートル前後って距離は、俺が戦闘中にいつも広げている【風の衣】の範囲だ。
【風の衣】の風か魔力かのどちらかに反応しているのだとしたら、動きは前もって読むことが出来るし……上手いことやれるかもしれないな!
一旦距離をとった俺は、再びゆっくりとカエルもどきに接近し始めた。
「もうちょい……もうちょい……」
カエルもどきの動きを見逃さないように、気を付けながらゆっくりと近付いて行き……そして、距離が2メートルを切って、【風の衣】の範囲に入った。
「今だっ!!」
カエルもどきは俺から離れようと後方に飛び跳ねたが、それは予想通り。
俺は【浮き玉】を加速させて、カエルもどきが飛び退る速度よりも速く距離を詰めた。
カエルもどきは先程同様に、伸ばした舌で攻撃を仕掛けて来るが、これは【風の衣】が弾き返す。
「せー……のっ!!」
俺は舌の一撃を無視してカエルもどきの頭上に抜けると、縦に回転しながら頭部目がけて踵落としを放った。
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【緋蜂の針】を発動した左足での一撃だ。
魔境に生息する大型種並みの強さをもっているし、一撃で倒すのは無理だろうが、頭部へ直撃させたんだ。
相当なダメージになるは……ず?
「……なっ!?」
俺は足に伝わるブヨンとした感触に、思わず声を上げてしまう。
そのままカエルもどきの上を通り越して反対側に回り込むと、一旦空中で静止して、魔物の様子を確認することにした。
視線を下ろすと、地面に潰れたように倒れ伏していたカエルもどきが、モソモソと動き出している。
「効いていない……のか?」
一見倒れていたように見えたのは、ただ単に飛んでいるコイツを俺が叩き落しただけだからだったらしく、あの頭部への一撃は大したダメージにならなかったらしい。
「確かに体がデカい魔物や魔獣だと、【緋蜂の針】の一撃も耐えたりするけど……頭に当たれば大抵死ぬか気を失うかしてたんだよな」
反転して、俺に顔を向けたカエルもどきを見ながら、今まで戦ってきた魔物を思い出してみた。
小型の妖魔種は、そこら辺だろうがダンジョンだろうが魔境だろうが、どこに生息している個体でも、頭部や胴体に当たればほぼ一撃で死んでいた。
魔物の防御力よりも、こちらの攻撃力の方がずっと上だってことだな。
んで、オークやオーガのような大型の妖魔種だったり、オオイノシシとかの大型の魔獣は、ダメージこそ入りはするが一撃で倒すことは難しい。
この場合は、防御力はもちろんだが魔物の体力の問題もある。
多少動きに影響は出ても、致命傷にならないんだろう。
じゃー……こいつはなんなんだろう。
頭部を蹴った時のあの柔らかい感触は皮膚か脂肪の感触だよな?
ソレであの一撃に耐えるだなんて……ちと想定外だ。
そうなると、コイツを倒すには【影の剣】を使うしかないが、どうやって間合いに入るかだよな。
「迂闊に近づいたら【風の衣】に反応するから、また繰り返しだよね。かと言って解除するわけにもいかないし……」
【琥珀の盾】も発動しているが、アレは一度発動したら、再度張りなおすのに若干のタイムラグが生まれてしまう。
あの舌の攻撃以外、何をしてくるのかわからない魔物相手に、【風の衣】を解除して接近戦を仕掛けるのは危険すぎる。
「とりあえず、もう少し動きを見てみるかな?」
倒し方を決めるには、まだまだコイツの情報が少なすぎるな。
とりえず、【緋蜂の針】が決め手にならないってのはわかったし、あまり時間をかけたくはないが、もう少し他の情報も探ってみようかね。
◇
「ふっ!」
カエルもどきが【風の衣】の範囲に入り、その場から離脱するために跳び上がったところへ、一気に加速して真横に回り込みながら蹴りを放つ。
今回の蹴りを当てたのは背中だが、感触はどこも似たようなものだ。
結果もこれまで同様で、大したダメージにはなっていないんだろうし、すぐに動き出すだろう。
だが。
「ふぅん……何となくわかってきたな」
何度かこの一連の流れを繰り返したことで、このカエルもどきの生態というか癖を見つけることが出来た。
跳躍の際に、前後の両足だけじゃなくて尻尾も使っているようだ。
足だけじゃ、長い胴体まで持ち上げることが出来ないんだろうな。
そして、宙にいる時は尻尾は下を向いたままだ。
狙うとしたらそこからだな。
「もう10分近く経つし……次で決めようか。向こうもそろそろこっちに来ようか迷ってるみたいだしね」
馬車の方を見ると、俺が離れた当初は馬車を守るような陣形を敷いていたが、中の兵や冒険者たちも外に出ていて、いつでも突撃出来るようにしている。
俺が呼べばすぐに来るだろうな。
ありがたいんだが……それは必要ない。
「ふっ!」
カエルもどきに再度突っ込むと、これまで同様に後方に向かって飛び跳ねた。
今までなら、さらに加速させて蹴りをお見舞いするんだが……。
「ほっ!」
今度は俺はその飛び跳ねた体に潜り込むように、【浮き玉】を地面スレスレの高度で突っ込んで。
「たぁっ!」
無防備に下がったままの尻尾に【影の剣】で斬りつけた。
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