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「……今まで東部で仕事をした経験がなかったので、口添えしていただけるのなら助かります。仲間と後で話し合ってから決めますが、しばらくの間はこちらで活動させて貰います」
セリアーナの話に加わることはしないが、それとなく話を聞いていると、どうやら護衛の彼女たちはしばらくの間こちらで活動することになるらしい。
まぁ……通常ルートで王都圏に帰還するなら一月はかかるし、丁度雨季にぶつかるからな。
もともとしばらくはリアーナに滞在する予定だったが、そのついでに冒険者としての活動もしっかりするってことだろう。
彼女たちの腕ならここら辺でも十分通用するはずだ。
船で話していた、雨季前の魔物の討伐の人手が足りないかもしれない件へのセリアーナの考えは、彼女たちに仕事を振ることだったらしく、リーダーからそのことを聞いて、セリアーナは「話が早い」と笑っている。
心配と言えば、西部と違って東部の荒っぽい冒険者たちと馴染むことが出来るかどうかだが、自分たちだけで4人もいるわけだし、無理に組んだりする必要もないもんな。
それに、俺かセリアーナが冒険者ギルドに一言伝えておけば、そうそうおかしなことにはならないはずだ。
それくらいじゃ特別扱いって思われることも無いだろうし、活躍が期待出来るかな?
◇
「あら?」
「先頭の馬車が止まったようですね。戦闘の気配はありませんが……」
領都へ直通の道を順調にガタゴト進んでいたのだが、中間の休憩所がそろそろ見えて来るって位置で、馬車の速度が落ちたかと思うと止まってしまった。
「セリア様?」
横に座るセリアーナに視線を向けると、俺が言わずとも索敵を行っている。
「待ちなさい……ああ、まだ先だけれど、魔物との戦闘が行われているわ。戦っているのは、商人とその護衛の冒険者かしら? 少なくとも騎士団の者たちではないわね。今ウチの兵が向かったからすぐに終わるでしょう」
「魔物の強さは……わからないか」
【妖精の瞳】は今俺が身に着けているし、わかることと言ったら、あくまで戦闘が行われているってことくらいかな?
ウチの兵に加えて、護衛たち。
ついでに、ルバンまでいるんだし、川の向こうならともかく、この辺の魔物なら余程のことがあっても圧倒出来る戦力だ。
俺たちは問題無いはずだが……。
「……む。失礼します」
何かに気付いたのか、リーダーはそう言うと馬車のドアを開けて外に出て行った。
「どんな感じなの?」
「まだ始まっていないけれど、近くに他の群れはいないわ。半端に戦闘を経験した魔物を逃がすわけにはいかないから、確実に仕留めるためにも時間は少しかかるかもしれないけれど……結果は一緒よね」
「ふぬ……怪我さえなければ俺も行くんだけどねぇ」
逃げる魔物の始末なら俺が得意なんだが、今は俺は参加出来ないし……実に歯痒い。
「我慢しなさい……話は終わったようね」
「うん? 外?」
と言っていると、ノックの音と共に、外からリーダーの声がする。
そして、許可を出すとすぐにドアが開いた。
ただ、リーダーはドアを開けただけで、中に入ってこない。
「戻りました。リアーナの兵からの指示を受けました。自分たちは列を離れるためその間の周囲の警戒を頼む……とのことです。私も前が片付くまで外に出ます」
「ご苦労様。任せるわ」
「はっ」
リーダーは返事をすると、すぐにドアを閉めると前へ走っていくのがわかった。
「……ちょっと手間取りそうなのかな?」
「どうかしら? 周辺で狩りをしている者もいるし、その彼等を使えば大分時間を短縮出来るはずよ」
「死体の処理もあるしね。回収して街に運ぶにしても、俺たちの馬車には積めないし、人手はあった方がいいよね。それよりも……この辺の街道で魔物と戦闘かぁ……ちょっと珍しい気がするな」
街道脇の森なら魔物は多数生息しているが、街道を移動している、ちゃんと護衛を付けた商人を襲うか。
やっぱり、魔物の討伐が追い付いていなくて、半端に魔物の数が増えてしまっているのかもしれないな。
それから程なくして、前方の上空から破裂するような音が聞こえてきた。
周辺の冒険者を呼ぶための魔法だろう。
戦闘は終わったみたいだな。
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中間地点付近での戦闘は無事終わり、魔物の死体処理も、一先ず領都に持ち運んでそちらで済ませることになった。
ちなみに戦っていたのは、ゴブリンとオオカミの混成の群れだったらしい。
強さはともかく、一つ当たりの群れの数が多い種だけに、あの場で死体の処理をしていたら何時になったら終わるのか……ってことで、協力した冒険者共々、俺たちの後ろにゾロゾロついて来ている状況だ。
ちょっとした大名行列のようになっていて、そのお陰かどうかはわからないが、それ以降は魔物に襲われることはなく、順調に領都への道を進んでいた。
窓の外を眺めていると、徐々に道が広くなり、街道の外も森から草原に変わってきている。
普段からこの辺の見回りは俺も行っていたが、このルートを馬車で移動することは滅多に無いし、中々こういうのも新鮮だな。
「そろそろ着きそうかな?」
振り向いてセリアーナを見ると、彼女は閉じていた目を開いてこちらを見た。
「ええ。迎えの兵が来ているようだし、もうじき接触するわ」
「あら? オレたちが帰って来てるのは伝わってるの?」
「船で待っている間に出していたんでしょう。この動きだと……1番隊かしら?」
「まぁ……迎えに来るならそっちだよね。2番隊は……忙しいかな?」
セリアーナに答えつつ、チラっとリーダーを見ると、リアーナの騎士団事情とかは知らないだろうに、何だかんだで話を理解出来ているようだ。
他所の領地も同じような編成なのかもしれないな。
等と考えていると、俺の視線に気付いたのか、リーダーもこちらを向いた。
「こちらは、その2番隊が魔物の討伐を引き受けているのですか?」
彼女たちは滞在中は魔物の討伐を引き受けてもらいたいし、いい機会だ。
詳しいことは後で冒険者ギルドなりなんなりで聞いてもらうとして、今のうちに簡単に説明するのも悪くないな。
俺は彼女に向かって頷くと、説明を始めた。
「絶対そうってわけじゃないんだけれど、1番隊が領内の治安維持のための巡回していて、2番隊が狩場の巡回を引き受けているんだ。2番隊は元冒険者が多くて、街の冒険者と連携をとることが多いんだよね。んで、オレは2番隊の副長をしてるよ」
「なるほど……セラ様は領地を空けていましたし、その分部隊の活動規模が下がっているのですね」
と、真面目な表情で「指揮官は重要ですからね……」と頷いている。
確かに間違ってはいないんだが……何となく誤解をされているような気がする。
俺はむしろ現場仕事専門なんだ。
頭を使う仕事は、テレサを始めとしたインテリチームに任せているからな……。
とりあえず他に話す事もあるし、この場では訂正しないが、後で誰かにしっかりその辺のことも説明してもらっておこう。
そう思ったのだが。
「フッ……セラ、領都に着くまでまだもう少しかかるから、話を進めなさいな」
「ぐっ……わかったよ」
話には参加せずにただ聞いていただけだったセリアーナが、小馬鹿にするような表情でそう言ってきた。
リーダーは「?」といった感じだが……まぁいい。
到着まで時間はあるようだし、その辺のことも説明しておくか。
俺の足が治った際には、現場で一緒になったりするかもしれないしな。
俺は「はぁ……」と一つ息を吐くと、再び口を開いた。
◇
さらに街道を進むことしばし。
ようやく領都の南門へと到着した。
俺たちは街への入場はフリーパスだし、そう待つことなく入場出来るだろう。
戦闘やその処理で少々時間は食われたが、結局日没までには間に合ったし、概ね予定通りだったかな?
「……ようやく到着ね」
馬車が門を通過すると、セリアーナが誰に向かってという訳でもなく呟いた。
「本当だねぇ……。王都圏の陸地ではともかく、まさか海上で人に襲われるとは思わなかったよね……」
「全くね。こちらに到着してからも襲撃があったし……。予想はしていても、ここまで面倒事になるとは思わなかったわ」
セリアーナは苦笑しながらそう言うと、リーダーに視線を向けた。
そういや、聞いていなかったが、彼女たちの滞在中の宿泊先はどこになるんだろう?
お屋敷かな?
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