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リーダーがドアを閉めて、馬車から離れて行くのを待って、俺はセリアーナに話しかけた。
別に聞かれたところで不味いような内容ではないが……ちょっと聞かれたら困るような隠し技とかも色々持っているし、まぁ……念のためだ。
「建て直したりは無理そうだったし、壊すのはわかってたけど……今日のうちに完全に壊しちゃうんだね」
アレだけダイナミックに壊したし、あそこから修復するのは不可能だろうから丸ごと撤去するのはわかるんだが、今やっちゃうのか。
普通に考えると割と大きな仕事だし、てっきり街の人間を使ってやるんだと思ったが……いいのかな?
「住民にお金を回す事にも繋がるし、代官に任せてもいいのだけれど。ついさっき、彼女が言っていたでしょう? 事故でも起きると困るって。あそこまで壊してしまうと……」
「まぁ……壊したのも、そもそものきっかけもウチだしね」
今やっている作業も倉庫の残骸の撤去も、本当なら必要のなかった作業だ。
支払う側は余計な支出だし、それで怪我人でも出てしまったら、ウチの評判が……。
新しく建築する方は任せるとして、撤去作業くらいはウチが引き受けておいた方が、今後もこの港を利用する事を考えたら、印象が良くなるかもしれないな。
普通に撤去作業を行うなら少々手間がかかってしまうが、ウチには今ちょうど……。
「……ぉぉっ!?」
外から聞こえる、腹に響く轟音に考えを中断すると、カーテンが引かれたままの窓に目を向けた。
オーギュストが2発目を撃ったんだろう。
ウチには今ちょうど【ダンレムの糸】で細かい狙いが付けることが出来る、オーギュストがいる。
彼の協力があれば、とりあえず解体と撤去の両方の作業を大幅に短縮出来るはずだ。
俺が窓の外を気にしていることがわかったのか、セリアーナが口を開いた。
「倉庫の建築にとりかかるのはもう少し後になるでしょうけれど、瓦礫の撤去に手間取らないのなら、更地にする手間も大分省けるし、ちょうどいいんじゃないかしら? 雨期が近いし、早く済ます事が出来るのならそれが一番よ」
「そっか……雨期があったね」
「ええ。王都に近いし、そこまで強くは降らないはずだけれど、それでも雨は降り続けるでしょう? それまでに代官の屋敷の修理を済ませなければいけないし、街の建物の調査もしなければいけないし……職人が足りないはずよ」
この街がどれくらい雨が降り続けるのかわからないけれど、雨に備えての事前準備があるし、その間は新規の建築はほとんど出来ないだろう。
リアーナもそうだったよな。
「うむうむ」と頷いていると、舞い上がった塵か土砂かはわからないが、パラパラと細かい物が降り注ぐ音がしてきた。
そういえば……この音もだが、オーギュストが矢を放った際に、あそこまでデカい音がしたっけ?
「なんか音が近い気がするけど、大丈夫なのかな? さっきはここまで大きな音はしなかったよね?」
倉庫の右側を撃っていた時は「ドーン!」って感じだったのに、さっきのもそうだが左側を撃つときは「ドゴーン!」って感じの音が響いている。
何か撃ち方を変えているのかもしれないが、これは何か倉庫の瓦礫以外の物も吹き飛ばしたりしていないか……?
「右側の処理をしていた時は、屋根の消火が目的でもあったでしょう? だから、角度をつけて空に抜けるように撃っていたけれど、今は倒れてきた壁の瓦礫を巻き込むように、真っ直ぐに撃っているんじゃないかしら?」
「あぁ……なるほどね。瓦礫を貫くついでに、裏にある何かにも当たってるのか……。何に当たってるんだろう?」
……建物じゃないよな?
それなら流石に撃ったりはしないか。
「さあ? 周りには街の兵もいるし、彼等が許可を出しているのでしょう? それなら大したものは無いはずよ」
「ほぅ……」
港は街より低い位置にあるし、地面にでも当たったのかな?
セリアーナが言うように当たったらマズいものがあるようなら、いくらリーゼルたちが相手でも、街の兵たちが止めに入るよな。
それなら、音が凄いだけで大した事は無いんだろう。
俺は体を支えていた両手を放して、仰向けに寝転んだ。
そして、目を塞ぐように乗せられるセリアーナの手。
「とりあえず、この場ではもう何も無いはずだから、お前は今のうちに休んでおきなさい」
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馬車の中でダラーっとすることしばし。
その間も定期的にドカンドカンと破壊音が起きていたが、それもついに聞こえなくなっている。
周囲の警戒に専念するために、ヘビたちの視界を共有するために閉じていた目を開いた。
「もう壊し終えたのかな?」
聞こえてきた音の回数と、反対側を壊した際の回数を考えたら、そろそろ綺麗に片づけられているはずだ。
残っていた部分は、今やっていた方が広いと思うが……壁が内側に倒れてきたうえに、それら諸共真っ直ぐ撃ち抜いていたらしいし、一発当たりの巻き込む量は、こちら側の方が多いだろうしな。
セリアーナも「ええ」と返してきた。
「そうでしょうね。倉庫から避難していた者たちも動き始めているわ。外に出していた荷物の搬入を行っているし、次の作業に移ったようね」
「ほぅほぅ……ってことは、そろそろ俺たちも移動するのかな?」
倉庫への搬入が終われば、俺たちがここに残る必要は無いはずだ。
そろそろ出港の準備に入った方がいいのかな?
「まだのはずよ。先に兵を船に送るでしょうからね。私たちが乗るのは、中を調べて安全を確保したその後よ」
「……ほぅ。慎重だね」
行きでは、船に荷物を積み込むための時間は取ったけれど、それでも、兵に中を調べさせたりはしなかったよな。
「仕方ないでしょう……」
と、セリアーナはため息交じりに口を開く。
「港には警備がいるとはいえ、船は一月近く私たちの目から離れた場所にあったわけだし、オーギュストが何もしないわけ無いわ。もちろん、私がいる以上賊が潜むような真似は不可能だけれど……」
「まぁ、ここに来るまで何度も襲われたしねぇ。団長たちが気を付けるのは当然だよ」
それも街の外だけじゃなくて、警備がしっかりと付いている代官の屋敷に港でもだ。
俺もリーゼルもオーギュストも、セリアーナの加護の効果を疑ったりはしないが、それでも警備の責任者として、自分の能力ではないものをあてにするってことはしたくないんだろう。
時間はかかるだろうが、彼っぽいし仕方ないか。
「そういうことよ」
俺の言葉に、セリアーナは今度は苦笑しながら肩を竦めている。
「それじゃー……もう少しこのままでいるんだね」
「ええ」
「りょーかい」
セリアーナの言葉に頷くと、俺は目を閉じて周囲の警戒を再開した。
◇
荷物の搬入作業が開始されたのか、外が少々賑やかになってきた頃、倉庫近くにいる者の中から一人が馬車に向かって近づいて来るのが見えた。
「おや?」
馬車の周囲を守る護衛たちに動きは見られないし、他所の連中ってことは無いだろう。
一応今もヘビたち3体を表に出して、周囲の警戒をしていたんだが……あくまでヘビたちの視界を見ているだけで、セリアーナの加護のようにはいかず、見える範囲が限られている。
だから、離れた場所にいる者は見えなかったり、誰かを識別したりは出来ないんだ。
【妖精の瞳】があれば別だが、今はセリアーナに貸しているしな……。
まぁ、その分セリアーナがより細かく識別出来ているし、問題無いな。
ってことでだ。
「誰かこっち来るね。ウチの兵かな?」
セリアーナなら把握しているだろうし、誰が来ているのかを訊ねることにした。
「オーギュストね」
「団長? 旦那様から離れて一人だけってのは、何かあったのかな?」
「街の兵から何か報告を受けていたし、私たちにも伝えるためじゃないかしら?」
「へー……全然気づかんかった」
等と話をしていると、ドアを叩く音がした。
そして、外から声がかかる前にセリアーナが口を開く。
「オーギュストね。開けなさい」
「はっ、失礼します」
「ご苦労様。何か報告かしら?」
「はい。つい今しがた、港の周囲の捜索を任せていたこの街の兵たちが戻って来ました。不審人物や船は見当たらなかったようです。それと、街から港へ通じる道は一時的に封鎖させています。我々が出港するまでは民間人が近づくことはありません。恐らく、出港まではもう戦闘が起きる事は無いでしょう」
「それは結構ね」
「リアーナの兵たちに今船の内部を調べさせています。完了次第そちらに移ってもらいますが、よろしいでしょうか?」
「ええ。任せるわ」
ふむふむ……どうやらもうこの辺で問題が起きる事は無さそうだな。
邪魔にならないように黙って話を聞きながら、俺はそんな事を考えていた。
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