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「アレは、我々への攻撃ではなく、不意の襲撃にどのように対処するか……こちらの出方を見るためのものだと思う。セラ殿、君への狙撃もその一環だろう」
「ほぅ……」
俺を含むリアーナの兵たちの情報は、賊連中も少しは持っているだろう。
なんといっても襲撃するくらいだしな。
領地の情報だけじゃなくて、リーゼルたちが王都にいる間になにかしら情報を仕入れていたりもするだろう。
リーゼルたちは4ヶ月近く滞在していたし、その中には戦場での情報何かも含まれていてもおかしくない。
最新情報だ。
だが、それはあくまでただの知識……それも伝聞だ。
賊連中もしっかりと自分の目で確認しておきたいんだろうな。
だからこそ、アレコレ小細工を仕掛けてきたわけだ……。
そりゃー、御目当てはセリアーナではあるが、公爵様を襲撃するんだ。
さっさと降伏した者ならともかく、本格的に襲ってきた者は失敗したらまずただじゃ済まないし、成功率を上げるためには、打てる手はなんでも打つのは当然か。
まぁ……そもそも襲ってくんなよ……って話はしちゃいけないのかもしれないけれど。
「それで? ここから先は巡回の兵の数も増えるし、何かするにしても魔物は使えないわ。賊共は何をしてくるのかしら?」
まだるっこしい小細工が不快だったのか、どこかムッとした様子でセリアーナも話に加わってきた。
彼女はこういう話題は基本的にリーゼルたちに任せているんだが、半端なちょっかいのかけられ方が気に入らなかったんだろうな。
正面に座るリーゼルも、セリアーナが話に加わってきたことに一瞬驚いた様子を見せたが、彼女の表情を見て苦笑すると、オーギュストに続きを促した。
「一先ず、間接的にとはいえ、我々に対して手を出してきたことは事実となりました。これで、今日の襲撃は確実に起きるでしょう。そして、昨晩のあの状況で、背後につけていた連中は動く様子がありませんでした。恐らく、あの連中は腕は間違い無く立ちますが、襲撃そのものに対してはさほど乗り気では無いのでしょう」
「それは朗報だね」
オーギュストの話を聞いて、明るく答えるリーゼル。
何だかんだで、未だに襲撃の有無自体確実とは言えなかったんだ。
有りもしないことに警戒を続けるよりは、兵たちの気は楽になるかもしれないな。
そして、それだけじゃ無い。
後ろからつけていたのは、王都の問屋街で俺が発見した連中だ。
間違いなく実力はあるし、弓を得意としたりと、中々油断できない相手ってのがリーゼルたちの評価だったんだが、油断しなければって条件は有っても、大分楽になるんじゃないかな?
「はい。もちろん、こちらが隙を見せなければ……という条件は付きますが……」
オーギュストはそこで一つ咳払いをすると、再び話を始めた。
「話を戻しますが、襲撃は街道の正面と北からの二面になるはずですが……。他の拠点の代官たちの協力もあって、既に交代した巡回の兵が出発していますので、先行する彼等が異常があればすぐに報せに戻るようになっています」
「それなら、正面からでは無くて側面を突いてくるのかな?」
「恐らく。隊列の正面からでは無くて横からになるので、的が大きくなり狙われやすくはなりますが、その分魔法などの大技の一撃で抜かれる可能性は減るでしょう」
正面からだと一直線になっているし、纏めてドーンってのにも気を付ける必要があったけれど、横からならな。
矢だってそうだ。
的を集中する事は難しくなるだろうし、特に俺たちが乗る馬車は隊列の中心に入っていて、周囲を他の馬車から守られている。
そう簡単には狙えないだろう。
「賊共も街道での待ち伏せは避けるでしょう。そうなると、身を潜めることが可能な場所は限られていますし、仕掛けてくる場所も予測できています。既に、その周囲を固めるように手配済みです」
「なるほどぉ……」
襲撃そのものは完全に防ぐ事は出来ないが、この分なら不意打ちを受ける心配は無さそうかな?
最終的に接近戦になりそうだけれど、それならそれでウチの兵たちが力を発揮出来るし、大分やりやすくなるはずだ。
「いやはや……流石はリセリア家。移動一つとってもしっかりと備えているのですな……」
今まで黙って話を聞いていた代官だったが、オーギュストの話に感心しきりだ。
まぁ……俺だって、地元ならともかく、よくもまぁ他の土地でここまでアレコレ出来るよなって思っている。
セリアーナとリーゼル、そしてオーギュスト。
3人とも何ともないような顔をしているが、やっぱ普通に凄いことだよな?
俺も一応リセリア家の人間ではあるけれど、感心する側に回っとこうかな?
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「……準備が出来たようですね」
貴賓室で休憩ついでに代官を交えて談笑をしていたが、外の準備が完了したらしく、俺たちを呼びにやって来た。
それじゃー、出発しようか……と、皆で席を立ったのだが、その際にリーゼルが代官へと声をかけた。
これは、俺たちや兵が休憩するための用意をしてくれたし、その事への礼なのだが……。
「では、行こうか。世話になったね。またウチの領地の人間がこの村を訪れた時は、ぜひ良くしてやって欲しい」
「はっ!? ははっ。もちろんでございます」
代官はやや上ずったような声で、慌ててリーゼルに返事をしている。
彼は今までこちらの話を一緒に聞いていたんだが、ここら辺は平和な土地だ。
街道沿いの裕福な村とはいえ、治安が良く荒れるような事は無いし、魔物だって早々出てこない。
荒事よりも、他所から王都を目指す者たちを如才なく捌く器量の方が重要なんだろうな。
マイルズもそうだが……王都圏って感じだ。
そんな事を考えつつチラっと代官を見れば、声だけじゃなくて顔も若干青ざめているし、この話題はちょっと刺激が強すぎたのかもしれないな。
まぁ、今回のウチがイレギュラー過ぎるだけで、安定している王都圏じゃこんな事はそうそう起きないだろうし、今日の事は気にせず頑張ってもらおう。
◇
さてさて。
若干青ざめつつもパニックにはなっていない代官たちを引き連れて、屋敷の外に出た。
もう十分話をしたし、挨拶に時間を使うようなことはせずにすぐに馬車へと乗り込むことになったんだが……。
「……お? 何か新しい人たちもいるね」
馬車の周りには、護衛の兵たちが一緒にいるんだが、グラードの街から一緒に出発してきた兵たちとは違う顔ぶれだ。
既にウチの兵や、冒険者たちとは挨拶を済ませているようで、護衛一行の中に混乱なく交ざっている。
「私も聞いていなかったけれど、入れ替えをしたんでしょうね。相変わらず細かい事まで手を抜かない男ね……」
「入れ替え……。あぁ、なるほど」
要人の護衛なんて、昨日今日ですぐに決まるわけじゃ無いし、事前に知らされているもんだ。
んで、その情報が洩れて、よからぬことを考えている者に接触されたり……なんてことを避けるために、ある程度護衛の期間を決めていたりする……事もあるらしい。
セリアーナの場合、そこら辺は彼女の加護で事前にわかっちゃうらしいし、そもそも彼女の護衛に就く者が、俺を始めとした一部の者だからな。
行きがそうだった様に、こういった手法を使う事は無いんだが、今回はリーゼルたちの仕切りだし、いつもとはちょっと勝手が違っている。
「どう?」
行動する際に、あまり自分の側に人を置きたがらない彼女的に彼等はどうかな?
「問題無いわ。行きましょう」
合格らしい。
【妖精の瞳】を預けているから彼等の実力は分からないが、なんかビシッとしているし、しっかり鍛えていそうな雰囲気はあるな。
まぁ、悪いようにはならないだろう。
「ふむ……それじゃ、お先に」
俺は一つ頷いてからセリアーナに答えると、馬車に乗り込むことにした。
わかってはいたが、ここまでの道のりと同様に馬車の窓にカーテンの様な物は付いていない。
余程の切羽詰まった事情でもない限りは、【隠れ家】を使う訳にはいかないな。
「どーぞー」
先に乗り込んだ俺が反対側の窓まで行くと、次いで剣を受け取ったセリアーナが乗り込んでくる。
そして、外からドアがバタンと。
「それって使うことになるのかな?」
例によって前の座席に置かれた剣を見て、セリアーナに彼女が戦うことになりそうかどうかを訊ねた。
襲撃が起きることはまず間違いないんだろうけれど、護衛の手配の徹底ぶりだったり、賊連中への牽制だったり。
賊連中も、昨晩の魔物を使ったり、何かと用意は周到ではあるものの、こちらの方が上手っぽいんだけどな……。
「なるでしょうね」
「断言しちゃうんだね……」
「ヘビだけでいいわ。向こうを見なさい」
セリアーナはそう言うと、窓の外を指した。
方角は村の中心らへんかな。
宿屋や商店なんかが立ち並んでいる場所だが……一体何が?
セリアーナを見るが、何も言わずにそちらを指したままで、説明する気は無さそうだ。
まぁ、見た方が早いか。
俺はヘビたちの目を発動して、ついでに服の襟から三体とも表に出させることにした。
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