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巡回用の通路を20分ほどふらふらしていただろうか?
最初に遭った巡回の隊の他にも、二組の隊と遭遇したが、最初の隊と同じく軽く目的を訊ねられただけで、特に咎められたりもせずに済んでいた。
街の散策時に、目立たないようにと着ていた黒の上着は、念のために脱いで腰に巻いている。
こんな時間に出歩く、宙を浮く少女って事は置いておくとして、怪しまれない見た目をしているしな。
これはもう、騎士団から好きに動いても構わないっていうお墨付きを得たと判断して、通路から貴族街の内側に再び戻ると、あちらこちら見て回ることにした。
「ふーぬ……。やっぱりリセリア家の屋敷は特別豪華なのかな?」
何軒か見て回ったが、どの屋敷も正門周りには照明がしっかり設置されている。
屋敷によって警備の兵の数や技量に差はあるものの、防犯対策はばっちりだ。
ただ、リセリア家の様に、屋敷の外壁全周を照明がカバーしている屋敷は多くないようだ。
少なくとも、今見てきた貴族街の手前半分には一軒も無かった。
だが、その代わりってわけじゃ無いんだろうが……。
「警備兵よりも強そうなのが屋敷の中にいるんだよね……。東部の家なのかな……?」
いくつかの屋敷では、位置的に恐らくその屋敷の主人であろう者が、明らかに警備の兵よりも強かったりするんだよな。
主人だけじゃなくて、他にも何人も滞在していたりもする。
門にはその家の紋章が彫られているが、表札とかは出ていないんだよな。
もっとも、リアーナの俺はご近所さんくらいしか知らないから、結局はどこの家の屋敷かとかはわからない。
ただ、このレベルの貴族となると……じーさんたちのように、荒事に慣れている東部の家かもしれない。
マイルズの様に、王都圏の人間だと、騎士以外はそこまで鍛える機会も場所もなかなかないだろうしな。
しかし、そういう風な目で見ると、東部の屋敷は少ない気がする。
まぁ、まだまだ東部自体が発展途上だしな。
もちろん、今後はドンドン発展していくだろうし、この状況も色々変化していくはずだ。
そのためにも、セリアーナやリーゼルたちには頑張ってもらわないといけないな。
「ふんっ!」と、通りをフラフラ彷徨いながら気合いを新たにした。
「お? アレはミュラー家か。あの辺なら知ってるから……反対に行ってみようかな」
気合いを入れつつも周囲の景色はしっかり覚えていて、自分の今いる位置をしっかりと把握出来ている。
ここら辺は馴染みの場所だし、今度は通りの反対側を目指すことにした。
向こうは確か南部の屋敷が建っているんだよなー……。
◇
さらに貴族街のあちらこちらを見て回り、流石にもう十分だと判断した俺は、リセリア家の屋敷を目指すことにした。
「あぁ……。やっぱりこの辺は王都の人間が多いんだね」
城に近付くにつれて、建っている屋敷の家格は上がっていくが、それにつれて屋敷の主らしき者の力は下がっていっていた。
流石に一般市民よりは上だろうけれど、街の警備兵よりも弱いこと弱いこと。
とはいえ、ここら辺の屋敷を守る警備兵は、流石によく鍛えられているだけあって、中々の強さだ。
それだけじゃ無い。
屋内に待機している者の中には、冒険者ギルド前で会った冒険者たちにも引けを取らないようなレベルの者がいる。
内も外も守りは万全だ。
主が殴り合ったりするわけじゃ無いし、腕の立つ人間を側に置けば事足りるんだろうな。
「しかし、この見分け方でいいのかな? まぁ、俺が見分ける必要はないだろうけれど……」
毎度毎度ヘビたちや【妖精の瞳】を発動するわけにもいかないし、ご近所さんの紋章くらいは覚えていた方がいいかもしれないな。
リアーナへの帰路で勉強しようかね。
さて、そんな事を考えている間に屋敷が見える場所までやって来た。
ついでに、正門を守る二人の警備の兵の姿も目に入ったが、流石の強さといったところだろうか。
この辺の屋敷の警備兵と比べても、上位に入りそうな強さだ。
しっかり実力者を揃えている。
「ただいまー」
その腕の立つ兵に帰宅の挨拶をしたが、色々発動して、出発時とは少々見た目が変わっている俺にも、さほど驚いた素振りを見せずに、落ち着いた様子で言葉を返してきた。
「お帰りなさいませ、セラ様」
うむ。
礼儀正しいな。
「うん。……あぁ、そのままでいいよ。勝手に入るから」
俺の帰宅を中に知らせようとした彼等を制すると、門だけ開けてもらって、敷地の中へと入っていった。
このまま玄関から入ってもいいんだが……2階の窓は開いているかなー?
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敷地に入った俺は、まずは裏庭に回り込むことにした。
普通に玄関から入ればいいんだが……窓から出入りする方がしっくりくるんだよ。
人としてそれはどうなんよって気がしなくもないが、俺は普段から空を飛んでいるしな。
細かいことは気にしないでおこう。
ともあれ、裏庭に回り込んだ俺は、裏庭の警備を行っている兵士に声をかけた。
屋敷の壁沿いに回って来ていたが、丁度回り込んだ先にいたのが彼だ。
ただ……。
「こんばんわー」
「うおっ!? ……あっ、これはセラ様でしたか。視察からお帰りですか?」
警備の兵は他にも何人かいるが、この屋敷は裏庭も広いし、真ん中に建設中のホールによって分断されている。
照明はそこかしこに設置されているが、死角があちらこちらに出来てしまっている状況だ。
んで、暗がりから急に俺が姿を現して声をかけたもんだから、彼は随分と驚いていた。
俺は足音が無いし、そういう意味では気配を察知するのは大変なんだろうが……先の冒険者たちと比べると、少々その技量というか実力に不安を覚えてしまう。
一瞬で槍を構えて、さらに俺だと判明してからは、即穂先を俺から外したりと腕自体は悪くないんだろうが……。
冒険者と貴族の私兵とでは、必要とされる能力が違うのかもしれないな。
「そうそう。窓が開いてないか見に来てね。もし閉まってるようなら裏口から入るけど……」
そう言って頭を上に向けるが、2階の窓はどれも閉じたままだった。
防犯もあるんだろうが、そもそもあそこの廊下の窓を開けっぱなしにしておく意味が無いもんな。
これは裏口から入ることになるかな?
と、思ったのだが……。
「そうですね。こちらの窓は昼間は空けたりする事もありますが、基本的に夜は閉まっておりますし、先程セラ様が出てこられた際も、すぐに閉めておりました。屋敷の中に戻られるのでしたら……おや?」
何かに気付いたのか、彼は話を途中で止めてしまった。
何やら上を向いているし、俺もその視線を追ってみると、先程までは全部閉まっていたが、2階の窓の一つが開けられている。
これはそこから入れってことなんだろうけれど……俺に気付いたセリアーナが開けさせたかな?
「開いたようですね」
「そうだね。それじゃー、オレはこれで失礼して……」
「ええ。お疲れ様です」
今日のお出かけは、屋敷の人間には夜の街の視察って説明されているのか、終始彼は俺が仕事を終えてきたと思っていたっぽい。
ちょいと気まずかったが……まぁ、いいか。
さっさと退散だ。
開いた窓に向かって、【浮き玉】を移動させた。
◇
「お疲れさまです。セリアーナ様がお部屋でお待ちです」
「ほいほい。ありがとねー」
2階に上がり中に入ると、俺が出発した時に窓を開けてくれた使用人が待っていた。
彼女はよくセリアーナの部屋の前に控えているし、流石にずっとここで待っていたって事は無いだろうが……わざわざご苦労様だ。
「後は何か頼まれてるのかな? 無ければもうオレだけで大丈夫だよ」
もう後は寝るだけだろうし、何か必要な物があっても【隠れ家】の中の物で十分なはずだ。
俺だけでも問題無いだろう。
「はい。それでは、私はここで失礼させていただきます」
彼女はそう言って頭を下げると、本館の方へと歩いて行った。
それを見送って、俺も部屋へと向かうことにした。
「セリア様ー。入るよー?」
部屋の前まで来た俺は、ドアをドンドンノックしながら中に向かって声をかけていると、「入りなさい」とセリアーナから返事があった。
「ただいまー」
ドアを開けて中に入ると、セリアーナは俺が出発した時と変わらぬ恰好で、相変わらず机の上の書類やらなにやらと格闘していた。
いや、むしろ机の上の山は高くなってないか?
ずっと仕事してたのかな?
「さっきの人はもう下がって貰ったけど、よかったかな?」
「ええ。構わないわ」
セリアーナはペンを置くと、顔を上げてこちらを向いた。
「あと少しで片付くから、終わったら街の様子を聞かせて頂戴。時間がかかったし、何か見つけてきたんでしょう?」
「……ぉぅ。あんま大したもんじゃないかもしれないけど、まぁ、話すよ」
夜の王都のお散歩は、俺はそれなりに満足できたけれど、果たしてセリアーナに話すほどの事なのか。
ちょっと疑問があるが……そこそこ見て回れたし情報も仕入れもしたから、上手い事使い道を考えてくれるだろう。
冒険者の事とかもあるしな!
とりあえず、仕事が終わるまでの間は【祈り】と【ミラの祝福】でもかけてあげとこうかね!
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