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 ぶっ放した矢は狙い通りの軌道で海中に突き刺さり、同時に巻き上がる大量の海水。

 着弾した場所を中心に、霧が立ち込めたようになっている。

 まるで前世のテレビや映画での海戦シーンの様だ。


「おおっ!? やったのか!?」


【ダンレムの糸】の威力を目の当たりにして、側に立っている船長は興奮して、大きな声を上げている。

 甲板に出ていた船員や兵たちも似たような感じだ。

 やっぱ発射時のエフェクトも含めて、派手だもんなぁ……。

 初見さんにはインパクトが大きいだろう。


 さて、それよりもだ……。


「どうかなー……」


 多少横にぶれはしたものの、狙い通りに撃つ事は出来たし手ごたえは感じている。

 ただ、俺からしたら未知の魔物だし、そもそも水中に向かって撃ったのも初めてなんだよな。

 威力はいつも通りだが、魔物相手にどれだけのダメージを与えられたのかはわからない。


 ちょっと調べてみるかな。


「……生きてるね」


 波や水しぶきで見えにくいが、目に力を入れて着弾先を睨んでいると、微かに赤い光が見えた。

【妖精の瞳】の効果で、魔力は赤い光で見えるが……それだな。


 直撃はしたはずだけれど……生きてたかー。


「今のでか!?」


 と、驚いたような声を出す船長。


 まぁ、俺も驚いているよ。

 今まで、ダンジョンを含む地上の魔物で、直撃を受けて死ななかったのって、ボス格を除いたらオオザルくらいだったからな。

 少なくとも、あの魔物はそこまでの強さは無かったはずだ。

 それでも生き残るか……。


「うん。どれくらいダメージがあったかはわからないけど……。あっ、でも死にかけかも」


 ぬぅ……と唸りながら睨み続けていたのだが、体力を始めとしたフィジカル面を表す緑の光は、大分薄く小さくなっていた。

 やはり、相応のダメージはあったんだろう。


「ちょっと見てくるから。その間、他の魔物に気を付けといて」


 アレの対処をしている間に、他にも何体か入って来ていた。

 強さこそ大差ないが、数が増えると面倒さはさらに増すだろう。


「あっ……ああ。気を付けてくれよ」


「ほいほい」


 それだけ言うと、俺は船から飛び立った。

 少々言葉が足りない気もするが、次に撃てるのは10分後。

 それまでに、状況を把握しておかないといけないしな。


 ◇


 船から飛び立った俺は、赤い光を目当てに近付くと、海面近くで、波にあおられて沈んだり浮き上がったりを繰り返している、デッカい物体が目に入った。

 着弾した場所から大分離れてしまっているあたり、波で流されてしまったんだろうか。

 結構ダメージがあったのかな?


「……ぉぉぅ」


 さらに近付いてソレを見てみた。


 やはり、形は魚というよりもトカゲとかワニに近いかもしれない。

 海だが水中だし、ワニでいいかな?


 そのワニだが、中々にデカい体をしている。

 尻尾まで入れると10メートルは超えているだろう。

 太さも胴体らしき部位は2メートル近くあるし、水中戦は挑みたくないスタイルだな……。


 そのワニだが、矢が着弾したのは胴体の上部だったらしい。

 前足が1本と首付近まで大きく抉れていて、すぐ波で流れてしまうが、血もドバドバと出ている。

 潜ろうとしているのかなんなのかはわからないが、残った手足や尻尾を動かしているが、随分と鈍い。

 なんとも痛々しい姿だし、出来れば止めを刺してやりたいが……近付くのは危ないよな。


「放置でいいかな」


 魔物と言えど、流石にここから復活するような事は無いだろう。

 俺が止めを刺すのは難しそうだが、放置していても死ぬだろうし、船の兵たちに任せてもいい。

 他の魔物も強さは大差なかったし、この分なら十分仕留められるな。


「よし……。それじゃー、船に戻って……。んん?」


 海中の魔物にも【ダンレムの糸】が通用する事は分かったし、残りの魔物も俺がやるって事を早く伝えるために、船に戻ろうとしたのだが、振り返った際に船室の窓が目に入り、そこに【小玉】に乗ったセリアーナの姿が見えた。


 ただ立っているだけじゃなくて、こちらに向かって何やら手を動かしている。

 距離があるからはっきりとは分からないが、手招きをしているのかな?


 行ってみるか。


 そう決めて、船の方へ飛んで行くと、船の反対側で魔法が海水に着弾する音が聞こえる。

 魔物は今は向こう側か……。

 そろそろ10分経つし、またさっきの要領で仕留めないとな。


 と、そんな事を考えている間に、窓の前までやって来た。

 それと同時に、セリアーナが窓を開けている。


「まだ生きてはいるけれど……1匹は倒したようね。他のもやれそうなの?」


「うん。海中の魔物にも矢が効いたからね。内側に入り込んだのは、コレで全部倒せそうだよ」


 船室にいながらも、外の様子を加護で見ていたらしく、今の状況は把握できているようだ。

 俺は問題無く倒せそうだと伝えた。


「結構。新たに入ってきたのは2匹よ。他にこちら側に入ってきている魔物はいないから、さっさと片付けてしまいなさい」


「【ダンレムの糸】は連発出来ないけどね……。まぁ、倒してくるよ。もうちょい待っててね」


 そう伝えると、【祈り】を再び発動して甲板に向かった。


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 船長の元に戻った俺は、【ダンレムの糸】のクールタイムが明けるのを待つと、再び先程と同じ様に魔物に一発ぶっ放した。

 そして、それをもう一度繰り返して、船上での戦いは被害ゼロでの勝利となった。


 結局俺の一撃だけじゃ、魔物を倒す事は出来なかったし、同乗していた兵たちも止めを刺す事は出来なかった。

 だが、瀕死に追い込む事は出来たし、死ぬのは時間の問題だ。

 力尽きて沖に流されるか崖に打ち付けられるか……どうなるかは潮次第だが、処理すること無くそのまま海に捨てておくことにした。


 地上の魔物や獣の場合は、死体を放置するとアンデッド化の恐れがあって、ちゃんと処理をしなければいけないが、海の場合はそうじゃないらしい。

 ある程度の期間、同じ場所にとどまり続ける必要があるが、海だと流されちゃうしな。

 陸地近くの岩場なんかに打ち上げられることもあるが、基本的に海の魔物がアンデッド化する事はまず無いらしい。


 回収も大変だし、そもそも狩りのために戦っているわけじゃ無いし、よほど余裕がない限りは倒した魔物は、その場に捨てていくそうだ。

 俺たちだけじゃなくて、船団の外周を担当している連中もそうしていたし、海では一般的なんだろうな。

 だからこそ、海の魔物の素材は貴重だったりするそうだ。


 そんな事を、狩りを終えて船長室に集まった際に教えてもらった。

 地上での狩りになれている俺にとっては、中々に驚きの情報だったな。


 しばしの間そのまま話を続けていたが、他の船から準備が整ったと報告が届き出発となった。


 船団全体が足を止めてしまっていたし、戦闘が長引いていたら、このまま夜は停泊したまま過ごして、朝に出発するつもりだったらしい。

 暗い中での作業は危ないしな。

 そうなると、到着予定も少し延びてしまうが、その心配は杞憂に終わったし……よかったよかった。


 ってことで、船長室での話も終わり、俺は部屋へと戻ることにした。


「ただいまー」


「お帰りなさい。船が動き始めたけれど、もう終わったのかしら?」


「うん。片付いたよ」


 部屋に戻ると、セリアーナは【小玉】に乗って傾きながら、相変わらず窓の外を眺めている。

 こちらを振り向かずにそう言ってきた。


「何か見える? ん? 目閉じてんの?」


 彼女の横まで行って顔を見てみると、目を閉じていた。

 どうやら外を眺めていたのではなくて、加護を使って外の様子を窺っていたようだ。


 目を閉じた状態で加護を使っているのは、たまに見るな。

 広範囲を調べるために集中しているんだろう。


「外を見ていたのよ。まあ、いいわ。お前は奥で汚れを落としてきなさい」


「ぬ」


 何となく服の袖を嗅いでみるが、そこはかとなく海っぽい臭いがする気がした。

【風の衣】を発動していたとはいえ、1時間以上も潮風を浴び続けていたからな。

 今着ているのは、リアーナでの何時もの服装よりもう少しお上品な服だし、繊細な生地を使っている。

 早めに洗っておいた方がいいかな?


「そうだね……それじゃあ、風呂入って来るよ。……ん?」


「貸しなさい」


 セリアーナは、俺の顔に手を当てたかと思うと、左耳に着けていた【妖精の瞳】を取り外して、自分の耳に着けた。

 そして、発動する。


【妖精の瞳】は彼女の加護と併用出来るが……何か外に気になる事でもあるのかな?

 この場で俺に聞かないって事は、大したことじゃないんだろうけれど……。


 まぁ、気にはなるが、さっさと風呂に入るか。


 窓から離れて部屋の奥に行くと、【隠れ家】を発動した。


 ◇


「そう……予定は変わらないのね」


「うんうん。結局1時間くらいしか止まらなかったしね。もう少し長引いてたら、また違ったらしいけど……」


「ああ……そうよね。船だと馬車の様にすぐに動けるわけじゃ無いものね」


「そうそう。アンデッドにもなりにくいみたいだしね」


 風呂から出た俺は、【隠れ家】から出ると、セリアーナに髪を乾かして貰いながら、船長たちと話していた内容をセリアーナに伝えることにした。


 セリアーナが引っ掛かっていたのは、先程の場所にまだまだ魔物が存在したことだった。

 彼女の加護だけだと、魔物がいる事は分かってもどんな状態かって事までは分からないからな。

 だから、【妖精の瞳】を使ったんだろう。

 で、使った事で、その魔物たちは死にかけって事が分かった。


 彼女もずっと陸の人だからな。

 海の魔物の扱いがよくわからなかったらしい。

 そこら辺の事を話すと、少し驚いていた。


 まぁ……ゼルキスもリアーナも、直接海とは縁のない土地だもんな。


「まだ息のある魔物を放置するのはいい気はしないけれど……、環境が変わればまた対応の仕方も変わるものね」


 納得出来たのか、どこか声がスッキリしている。

 そして、髪を乾かし終えたのか、俺の頭を軽くはたくと、再び窓際のソファーへと移動していった。

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