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 箱の中に入っていた何かは、白い布で包まれていた。

 平べったいし、服か何かかな?


「お?」


 白い布の包みを解いていくと、中から今度は青い布が現れた。

 箱の内側の赤に、白の包み、そして中身の青……カラフルだ。


 ともあれ、その青い布を持ち上げ、広げてみた。

 生地は薄くてとても軽いが……触れただけで頑丈さがわかる。

 これは、魔物の素材で出来ている高級品だな?


「んー……マント? あ、ココの家紋が刺繍されてるね」


 マントは昔俺が貰った物よりもずっと大きく、大人用とほとんど変わらないサイズだ。

 そして、その背中の中央に、大きくリセリア家の紋章が黒い糸で刺繍されている。


「ミュラー家の物はお父様が用意しているでしょうけれど、ウチの分はね……。春に王都に行った際には、ミュラー家のマントの上から肩にでもかけておきなさい」


 なるほどなー。


 俺はセリアーナと専属契約は結んでいても、身分的にはフリーだ。

 だが、来年からはミュラー家の人間になる。

 そうなってもリアーナに居続けるし、身分……というよりも所属をはっきりさせるためにこういった物が必要なのかもな。

 今では俺はもう家紋付きの服は着ていないが、昔は家紋が刺繍されたメイド服を着ていたし。

 このマントが制服や社員証みたいなものになるのか。


「ぉぉぅ……かっこいい……!」


 端を掴んだ手を少し動かしただけでも、ヒラヒラとなびいていて、青の鮮やかさがよくわかる。

 ミュラー家の赤のマントと合わせると見栄えもいいだろうな。


 試しに纏ってみるが、手で持った時以上に重さを感じないし、全く動きの邪魔にならない。

 こういった本格的なマントはリーゼルのマント以来だが、まるで別物だ。


「手直しをする必要は無さそうね……。服も注文しているけれど、それは直接職人が持って来るからまた後になるわ」


「あ、服もあるんだね」


「儀礼用だけれどね……。今のお前に合わせた物を仕立てたから、楽しみにしておきなさい」


「うん、ありがとうね!」


 王都での儀礼用の服かぁ……。

 以前王都で俺が着た騎士モドキのコスプレ服と違って、もっと本格的なのかもしれないな。

 ファッションにはあまり興味はないが……それでも、ちょっと楽しみだ。


 ◇


 さて……俺の贈り物を運び入れて、ついでに不要となった籠城用の物資の運び出しも完了した。

【隠れ家】を使えば運び出すのは簡単なんだが、一応アレは屋敷に運び込んだ物だから、使用人の手でやってもらう必要があったんだ。

 何かと手を煩わせて申し訳ないね。

 今度何かお礼をしないとな……。


 ともあれ、今はもう使用人たちは部屋から出て、本館の方にいたエレナもこちらにやって来た。

 そして、フィオーラも合流していつものメンバーとなったところで、例によって贈り物のチェックが始まった。

 既に送り主はリストに纏められているが、中身まではやっていないからな。


 しかし……。


「オレ何もしてないけどいいのかな……」


「これが一番早いんだからいいでしょう?」


「うん……」


 テレサとエレナが梱包を解いて、中身を出す。

 それを、セリアーナとフィオーラがリストに記していっているんだ。

 で、俺は窓辺に置かれたソファーに座って、雨音を聞きながら彼女たちの作業を眺めている。


 セリアーナが言うように、人を増やしたからって効率が上がる作業じゃない気もするが、これでいいんだろうか……。


「あら……これは? セラ」


「うん? なにー?」


 梱包を解いていたエレナが、何かに気付いたのか俺を呼んだ。

 何事かなと思いそちらに行くと、エレナは小さな箱を手にしていた。

 そして、俺に見える様に蓋を開けたのだが……。


「……お金? えーと、一枚二枚……」


 中身は、20枚の金貨だった。

 ……賄賂?

 エレナから受け取ったはいいが、これは一体どうしたらいいんだ……と首を傾げてしまった。


「それは街の商会からね。確か取り扱っているのは装飾品の類だったはずよ」


「ほう……?」


 装飾品か……。

 俺には縁がないな。

 何かと身に着けているが、それは皆が用意してくれたもので、その目的はお洒落じゃなくて恩恵品のカモフラージュだ。

 だが、その店がなんで俺にお金を?

 金貨20枚って結構な大金だぞ?


「そのお金を使って自分の店で買い物をして欲しいって事よ。もし興味がないようなら、そのまま自分の懐に入れても構わないでしょうけれど……この街に店を構えている様だし、お前が直接出向く必要は無いけれど、小物でいいから何かを買っておいた方がいいわね。そうしたら、店側もお前が自分の店で買い物をしたと言えるでしょう?」


 なるほど……カタログギフトみたいなものか。

 お金を渡すからウチで買ってくれと。

 額は大きい気もするが、宣伝費も兼ねているわけだな。


「セラ、他にもいくつか同様の物が贈られているよ」


 そう言って、エレナが似たような箱を見せてきた。

 俺に現金を贈ってきた意味は分かったが……。


「今までは無かったよね? こういうのってよくあるのかな?」


 今までも何かと贈り物はあったが、こういうのは無かったはずだ。

 今年からだよな?


「決まりがあるわけじゃ無いけれど、よほど家が困窮しているとかでもない限り、未成年に現金を贈るのはあまり褒められたことでは無いね。現金が贈られたのは、君が成人したからだろうね」


 エレナは俺を見て微笑みながらそう言った。

 セリアーナもだが、エレナとも付き合いが長いからな。

 アレだな……もう親戚気分なのかもしれない。

 俺がドチビの頃を知っているし……そう考えると、感慨深いな。


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 贈り物の梱包を解いたり中身のリストアップをしたりの作業は、何度かの休憩を挟んでも続き、結局完了したのは日が落ちた頃だった。


 贈り物の内容は、一月ほど前に誕生日を迎えたエレナやセリアーナと大差はない。


 他所の領地や国からは、その土地で流行の本や美術品だったり装飾品で、領内からはもはやお馴染みとなったクッションや、最近俺が仕立てた寝間着と似たデザインの服、それとお金だ。

 贈り物のチョイスとしては無難なラインだと思う。

 一般的には、これにその土地の酒なんかも加わるそうだが、俺は酒が飲めないし関係無い。

 基本的に送り主もほとんど一緒だし、目的も一緒だもんな。

 そうそうエキセントリックな代物は選ばないだろう。


 ちなみに、俺が貰ったお金は合計で金貨100枚を超えていた。

 日本円に換算したら1000万円だな。

 相当な額だと思うが、これは成人のご祝儀も兼ねているそうだ。

 商人が、わざわざ自分の店の宣伝に使うような相手は、大抵高位貴族だ。

 高位貴族の子は、成人した場合は王都の貴族学院へ行くし、その際の支度金だったり王都での遊行費だったりでたくさん使うしな。

 その支援をして、その代わり自分の店を推してもらうようになるんだろう。


 ただ、俺は貴族学院にはいかないし、そもそもお金は自分で稼ぐからな……。

 あんまり彼等の期待に沿えられそうもないし、セリアーナ経由で遠回しに断って貰うのも有りかもしれないと思っている。


 まぁ……他者からの贈り物はそんな感じだった。


 んで、身内からももちろん貰っている。

 セリアーナからはマントだったが、エレナたちは膝掛やストールに靴下……と、防寒グッズを贈られた。

 デザインはシンプルな物だが、どれも濃い紺色で統一性があってなかなかグッドだ!


 少し前に【浮き玉】を使用しない期間があったのだが、俺は普段から恩恵品や加護を発動しているから、身近にいる彼女たちも間隔が麻痺していたようだが、普通に歩いている俺を見て、そういえば……と思ったんだとか。

 我ながら自分でも季節感の無い姿に違和感を感じなくなっていたからな……無理も無いだろう。


 実用的なものだし、ありがたく使わせてもらおう。


 ◇


 あの後はそのまま夕食に移り、そして食後は俺の部屋でお茶をすることになった。

 セリアーナの部屋でも良かったんだが、折角ごちゃついていた部屋が片付いたんだしな。

 贈られた物の中で、俺が使わずに使用人たちに渡す分は既に運んでもらっているし、荷物だらけになっていた俺の部屋も久しぶりにすっきりだ。


 そして、今俺は部屋の鏡の前に立ってポーズをとっている。


「ぬふー……」


 ストールを肩に、膝掛を腰に巻き、靴下を履いて、マントを纏う。

 贈り物フル装備だ。

 青系の服の中に、俺の赤毛がよく目立つな。


「あの娘が厚着をするのは少し慣れないわね」


「そうね。今度は手袋も用意しましょうか? 【影の剣】を使わなければ、問題無いんでしょう?」


「帽子もいいかもしれませんね。色は髪の色に合わせますか?」


 セリアーナたちは、俺を見て何やらゴソゴソ話している。

 どうやら服や小物について話している様だが……あまり派手な物じゃないといいな……。


「それでは姫、外しますよ」


「うん」


 向こうに交ざらず、俺の着付けをやっていたテレサが、マントを外し始めた。


 このマントは紐を胸元に回すタイプじゃなくて、もっと複雑に紐や金具で留めるタイプの物で、一人じゃ上手く着けられないんだよな。

 そもそも一人で着替えをするような人じゃなくて、使用人に着付けをしてもらう身分の女性が使う様な物らしいしな……そんなもんなんだろう。

 利便性を考えない、お貴族様用のマントだ。


 テレサは外し終えたマントをトルソーにかけている。

 短い方のマントは、俺のダンジョン探索用の服と一緒のトルソーに回して、単独で使っている。

 青い生地が照明に照らされて、それはそれで悪くないんだが……やっぱりマントだけだと少々地味に見えるし、服と合わせた方がカッコいいな。

 服はもう少ししたら届くらしいし、それと一緒にしよう!


 マントをかけたテレサに、膝掛とストールも渡したのだが、彼女はそれを手に少し考え込んでいる。


「こちらは……奥様の寝室の棚をかりましょう。後で持って行きますね」


「うん。そうだね」


 そっちは日常的に使う物だし、寝起きにすぐ用意できる場所の方がいいだろう。

 靴下も複数足あるが、向こうの部屋に置いといた方が良さそうだな。


 まぁ、それは後にして、俺もお茶を貰おう。


 しかし……意外と俺の部屋でもお茶をする機会があるな……。

 この部屋は廊下と客室をくっつけたもので、セリアーナの部屋の様にキッチンなんてもんは付いていない。

 元々物置の代わりに使うつもりだったし、設備が充実していないのは仕方ないんだが……毎回セリアーナの部屋から持って来るのはちょっと大変だよな。

 気を抜ける場所として、何かとこの部屋は都合が良いようだし、ワゴンでも用意するかね……。

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