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冒険者ギルドの1階奥にある支部長の部屋を目指して、廊下を進む俺。
誰でも通されるわけじゃ無いが、俺はもう何度も訪れているし慣れたもので、特に目新しい物なんて無いんだが……。
「皆忙しそうだね……。なんかあったの?」
案内役の窓口のねーちゃんに、何があったのかを尋ねた。
今日はセリアーナのお使いで支部長の下に向かっているのだが、妙に人がバタついているんだ。
表のホールは特に何事も変わりなくいつも通りだったが、裏に入ると……。
「昨日、アレクシオ隊長たちが、ダンジョンの魔物を沢山運んできたでしょう? そのことを聞きつけた商業ギルドの方たちが、昨夜から引っ切り無しに商談を持ち掛けて来るのよ」
「あらま……」
窓口のねーちゃんが振り向きそう言った。
やっぱりダンジョン産の魔物を、纏まった量調達できるのなら欲しいんだろうな。
ってことは、商業ギルドお抱えの錬金術師たちも今頃召集をかけられたりと、大わらわなんだろう。
今回の件は、通常の冒険者が持ち込むのと違ってアレク……騎士団側の持ち込みだから、大店へ優先させたりとかは出来ない。
冒険者ギルドは平等に差配するために、昨夜から働きづめと……。
皆にチャンスがあるのは何よりだが、そのしわ寄せがこっちに来ちゃってるんだな。
彼女は表側の業務しか関わらないから、商業ギルド関係者の商談申請が多い程度で、そこまで普段と変わりは無いようだが、裏方はそうじゃ無い様で、とにかく大変なんだとか。
そんなことを話しながら進むことしばし、支部長の部屋に到着した。
◇
「支部長、失礼します。セラ副長をお連れしました」
ドアが開き中に入ると、支部長を始めごついおっさんたちが机に積まれた書類に囲まれていた。
この部屋入るといつも似たような光景を目にするな。
「おう……どうした?」
書類の合間から、目の下にクマを作った支部長が顔を見せた。
……これは徹夜したのかな?
見れば他の面々も似たような有様だ。
後で【祈り】でもかけてやるかな。
「うん。セリア様からの手紙を預かってきたんだ」
そう言って手紙を手渡すと、受け取った支部長は一瞬顔を歪めた。
ただでさえ仕事が詰まっているのに、新たな難題か……?
とでも思ったんだろう。
「……返事は急ぎか?」
「あんまり遅くなったら駄目だろうけれど、別にそんなことは無いよ。詳しいことはソレに書いているけど、領内の女性冒険者の情報を纏めて欲しいんだって」
昨日の女性冒険者の件で、セリアーナは領内で活動する、女性冒険者のセカンドキャリア的なものについて考えていた。
結局なんも思いつかなかったんだが。
男性冒険者の場合は、歳をとって引退したり、別の職種に鞍替えしたりってのもよくあることだし、上手くいくかどうかは別にしても選択肢はたくさんある。
ただ、女性冒険者の場合は、冒険者の経験を活かせる選択肢ってのがほぼ無い。
腕っぷしを期待される職業なら、普通に男性冒険者を雇えばいいわけだしな。
一応、今は領都出身の者だけしか採用していないが、女性兵って進路はある。
ただ、それもそんなにたくさん枠があるわけじゃ無い。
単純にダンジョン探索や魔物の討伐を……ってだけなら男性冒険者に任せてしまえばいいんだが、やはり女性冒険者が必要になる場面もある。
だから、領内に一定数の女性冒険者は確保しておきたいそうだ。
それこそ女性兵を増やしたらいいんじゃないかって気もするが、何でもかんでも兵を動かすのはよくないしな。
なかなか難しい問題だ。
まぁ、1年2年でどうにかする気も無く、もっと長いスパンで取り組む気らしい。
で、そのためにもまずは、領内の現役や引退した女性冒険者情報を集める事から始めるそうだ。
「そうか……わかった。まあ、数日以内には報告を上げられるだろうから、そう伝えておいてくれ」
余裕があるとわかって安心したのか、支部長は小さく息を吐くと、手紙を開き読み始めた。
面倒な作業だけれど、書類関係は充実しているし不可能では無いと思っていた。
ただ、それでも数日で終わらせられるのか……思っていたよりずっと速いな。
「それじゃ、オレの用はこれで終わりだから、失礼するね。……ほっ!」
部屋の中に向かって【祈り】を発動した。
気休め程度の回復にはなるだろう。
「悪いな。……そういやその恰好、今日は潜るのか?」
それに気付き、手元の手紙から顔を上げた支部長は、ようやく今日の俺の恰好に気づいたようだ。
「うん。10日以上あそこで給仕をやってたからね。流石にもう顔は覚えられただろうって、許可が出たんだ」
今日の俺の恰好は、厚手のワンピースに、魔王種製のジャケットと帯。
そして、腰には各種アイテムを詰めたポーチ。
ソロでの探索とはいえ、ちょっと間が空いていたからな……風と盾があるからそうそう問題無いとはいえ、念の為の本気装備だ。
「そうか……。そろそろ上層を狩場にする連中も増えてきたし、行くんなら中層にしておけ」
中層……引き狩りが出来るな!
「冒険者たちも元気だね……。りょーかい。受付で手続きしとくよ」
お使いはこれで完了だ。
久々のダンジョン……やるぞー!
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1階でダンジョンの探索手続きを済ませた後、ダンジョンに向かうために地下へと降りて行ったのだが、少々いつもと雰囲気が違っている。
ここ最近はいつもロビーは冒険者達で溢れていたが……。
「今日は少ないね。昨日の影響かな?」
「ああ。利用する冒険者もいる事はいるんだが、長居はしないな。すぐに出発しているよ」
カウンターで、やや手持ち無沙汰にしていた職員にどうしたのかと聞いてみたが、どうやら皆さん昨日の気合が未だ持続しているらしい。
単純……と言いたくもなるが、昨日のアレは一般開放されて以来、最大の収穫だったそうだし、中てられるのも無理はないだろう。
冒険者たちに活気があるのは良いことだしな。
「浅瀬は混雑しているはずだ。誤射の不安は無いとは思うが、一応気を付けておいてくれ」
「大丈夫大丈夫。んじゃ、行ってくるよ」
冒険者ギルドで働いているが、彼は2番隊の隊員でダンジョンが実際に開通した時期の事も知っている。
もちろん俺がそこを出入りしていた事もだ。
注意の言葉をかけてきたが、実際はそこまで心配はしていないんだろう。
俺の様子を見て、苦笑している。
ともあれ、手続きも済んでいるんだし、さっさとダンジョンへ行こ。
彼や他の職員たちに手を振り、そのまま通路へ向かった。
◇
「ぉぅ……。また随分と広範囲で……」
通路を通り抜けてすぐに高度を天井まで上げた。
そして、ヘビたちの目や【妖精の瞳】を発動して、浅瀬全体を眺めたのだが……そこかしこで魔物との戦闘が繰り広げられている。
というか、浅瀬全体だ。
人数だけなら、一般開放前の騎士団と冒険者が先行利用していた時の方が多いと思う。
だが、今は少人数パーティーだったりあるいはソロだったりと、組数ならずっと多い。
その彼等が、階層全体に満遍なくバラけて戦闘を行っている。
見れば、昨日凹んでいた女性冒険者のパーティーも元気に狩りをしているし、なんとも盛況な事だ。
ここの魔物は単体ってよりも小さな群れを作っているから、こちらも4人か5人くらいのパーティーを組むのがバランスの良い戦い方だと思っていたが……。
少数だったりソロの冒険者が、互いに連携を取って対処している。
普通だと揉めそうなものだが、そんな様子は一切見せないどころか、むしろ積極的に行っているくらいだ。
他所のダンジョンじゃ、ピンチになった時くらいしか見られない光景だ。
「……カフェモドキの効果かなぁ?」
あそこは既存のパーティー以外ともコミュニケーションが取れるからな。
だから、狩りをする冒険者たちの仲間意識というか連帯感が高まって、こうなっているとか……?
元々ここは予定の場所じゃないが、もうこの浅瀬で俺が狩りをするのは難しそうだな。
場所がねぇ……。
さっさと通過するか。
◇
さて、浅瀬をスーっと通過して上層にやって来た。
支部長の話していた通り、上層でも狩りをしている者たちがいる。
ここに現れる魔物自体は、浅瀬で狩りをしていた連中でも問題無く倒せるんだろうが、やっぱあそこを突破するとなると、ひと手間どころの話じゃないからな。
その段階である程度の選別がされちゃうんだろう。
とはいえ、まだまだこの階層での狩り方がこなれているとはいいがたく、一つの広間に複数のパーティーが拠点を定めて狩りをしている。
この階層は広間とそこを繋ぐ通路間に魔物が現れて、広間の魔物を倒したら通路を移動して次の広間に……。
そんな風に、ウロウロしながら狩りをする方が効率がいいと思うんだ。
まぁ、複数の魔物を纏めてドカンとやれるからってのもあるかもしれないが、今この広間で戦っている彼等も、随分余裕があるように見える。
……慎重なのかな?
「……ん? よう、セラ副長!」
しばし上層の入口側で漂いながら、下で繰り広げられている戦いを眺めていたのだが、程なくして魔物を倒し終えた。
そして、魔物の処理をしながら周囲を警戒していた冒険者が俺に気付き、声をかけてきた。
「お疲れー。余裕だったね」
折角だし挨拶くらいするかと高度を下げて、先程の戦闘の上から見た感想を彼等に伝えた。
いつの間にやら他で戦っていたパーティー連中も集まって来ている。
そして、上から見た感想なんてそうそう聞ける物じゃ無いからか、俺の拙い説明を真剣に頷きながら聞いていた。
ついでに、彼等からも話を聞いたのだが、妙に慎重に戦っていると感じたのは気のせいでは無かったようだ。
上層の情報も冒険者ギルドから入手できるが、それでも自分達の目で確かめようとしていたらしい。
そして、冒険者同士でその情報をシェアするんだとか。
「ギルドを信用していないってわけじゃ無いんだが……ギルドの情報ってのは騎士団の情報だろう? 冒険者とは違うからな。やはり自分達の目で確かめた物じゃ無いと、あてには出来ないな」
「……なるほどー」
確かにバックアップ体制も違うもんな。
彼等は冒険者同士の中での先遣隊みたいなものか。
だからこそ、稼ぐ事よりも調査に重点を置いた狩り方をしているらしい。
色々考えているもんだ……。
その後もいくつか言葉を交わしたが、彼等は今の分で狩りを終えるらしく、これで帰還するようだ。
狩場が空くことになるが……今日の気分はもう中層になっているし、彼等に別れを告げて先を目指す事にした。
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