第176話

上層手前に出現する魔物のリポップ時間の調査を始めて数日。

今日も今日とて、魔物を倒し、【隠れ家】内から観察を行っていた。


とりあえずこのエリアは粗方調べ切ったと思う。

ここから先のエリアも、俺だけで調査は可能だと思うが、オーガと魔獣の混成パーティーが相手だからという理由で、単独での狩りは許可が出なかったため、ここでストップだ。

まぁ、倒すだけなら十分可能だが、多分大分テンポが悪くなるし、聖貨を集めるって事だけを考えるなら、俺の場合は弱い魔物を倒す方がよっぽど効率が良い。

ここから先のエリアの調査もやっていくのかはわからないが、俺の仕事じゃなさそうだ。


「お?」


先程通路の魔物達が湧いたのを確認した。


この通路の魔物のリポップ間隔は、大体40分弱で、ホールの方は1時間強と、それぞれ時間が違う。

俺が【ダンレムの糸】を使える状態なら、通路の魔物を全滅させるのは10分もかからない。

テンポ良く倒せば、次のホールの魔物が湧く前に通過できる。

倒しても良いんだが、そのホールの先の通路も既に魔物が湧いているだろうしな……待っている間に何というか……テンションが落ち着いてしまった。

朝一ならともかく、もう昼を過ぎて大分経つ。

目につく魔物全て倒す! ってノリにはなかなかなれない。


そろそろ切り上げるか。


【隠れ家】の中を見渡し、諸々の消し忘れが無いかをチェックした。

水道……電気……モニター……全部OK!


「よし……行こう!」


各種恩恵品を発動し、アカメ達も外に出して、【隠れ家】を後にした。



「おや……?」


無事浅瀬へ辿り着き、ダンジョンの出入り口を目指して上空をふよふよと進んでいると、浅瀬の中央付近に陣取って戦闘をしている4人グループが目に入った。

冒険者ギルドから選抜された冒険者達で、上からだと木が邪魔で少々見辛いが、中々手際が良い。


槍を装備した者が遠間から牽制し、斧を装備した者が止めを刺していく。

さらに弓を装備した者が、離れた所にいる魔物の群れに矢を打ち込んで釣り出している。

そして、その魔物を一手に引き受けているのが盾を持った男……アレクだ。


アレクは、上層の調査をいったん終えて、最近は2番隊の隊員達と浅瀬の奥で狩りをしている事が多かった。

浅瀬の手前は領主側の冒険者が、奥は騎士団が狩場として使われる予定になっている。

その位置で、狩りをしながら浅瀬の監視をし、何か起こった時は救援に向かう……そのための訓練だ。


「うーん……?」


奥の隅を見ると、いつも通り2番隊の隊員が狩りをしているのが微かに見えた。

アレクだけ今日はオフなのかな?

休みの日なのにダンジョンに潜るとか、仕事熱心なやっちゃ。


「お、終わった……。アレーク」


戦闘が終わり、彼等が死体の処理に移るのを確認して、下に降りて彼等の元に向かった。

俺に気付いたアレクは手を止め、こちらを見た。


「セラか。今日はもう帰りか?」


「うん。アレクはどうしたの? 騎士団の仕事みたいだけど……?」


上からだとわからなかったが、近付くと鎧の下に騎士団の制服を着ているのがわかる。

オフと思ったが、この服装をしているって事は仕事中か?


「ああ……あいつらは領都の冒険者だ」


死体の処理を行っている彼等に視線を向けてそう言った。

その視線を追って、俺も彼等を見ていると、「よう」と手を上げ挨拶をしてきたので、手を振り返した。

俺は彼等の事は知らないが、向こうは知っている様だ。


……そりゃそうか?


「上から見ていたなら気付いたかもしれないが、3人とも違う武器を使っているだろう?」


「うん。斧と槍と弓だったね」


全員が同じ武器を使う事も無いが、何だかんだその場で使いやすい武器、適した武器ってのはある。

この階層なら、取り回しの良い剣がそうだと思う。


それを考えると、全員が違う武器、それもおよそ適しているとは思えない武器を使っているのは少々疑問だ。

これがド素人とかならともかく、見た感じ腕は良かった。

そもそも冒険者ギルドから選ばれているんだし、きっと経験豊富な冒険者なんだと思う。


この武器のチョイスには何か思惑でもあるのかな?


あまり効率が良いとは思えないが……と、首を傾げる俺を見て、アレクは笑っている。


「階層の魔物や環境に適した武器を調べているんだ。面白いだろう?」


「面白いっていうか……なんでそんな事を?」


その情報が必要無いとは思わないけれど、そこら辺は冒険者の好みとかじゃないんだろうか……?

冒険者ギルドってそこまでやるの?


「俺達じゃなくて、騎士団用の情報なんだと……。領主様直々の依頼だ」


と、そこに魔物の処理を終えた槍を使っていた冒険者がやって来て、そう言った。


「騎士団用?」


「ああ、ダンジョン内で何かが起きた時は冒険者ギルドから、そのダンジョンに慣れた冒険者に依頼が出たりするもんだが、リアーナはまだ出来たばかりだろう? その場合は騎士団……特に俺達2番隊にその役目が回って来るんだ」


「ほうほう」


アレクの言葉に頷く。

冒険者にランクとかは無いが、その街の顔役の様な存在はいたりする。

リアーナにも居はするが、領地自体がまだまだ若いからな。

彼等はまだ、リアーナというよりも他所の街の有力冒険者って扱いだ。

だからこその騎士団か。


「騎士団なら装備を上からの指示で選べるだろう? だからこんな妙な依頼があるんだろうな」


「領主様直々だけあって、支払いはいいし、腕の良い盾役もついているからな」


さらに残りの2人の冒険者も苦笑いを浮かべながらやって来た。

槍はともかく、この2人の斧や弓はあまり向いていないだろうに、あまり不満は無いようだ。

依頼料だけじゃなくて、アレクも一緒だからか。

さっきもパーティーをしっかり守っていたもんな……アレク本人は肩を竦めているが、中々頼られているじゃないか。


ジグハルトも名前が通っているが、パーティーを組むならアレクの方が人気ありそうだな。


424


 アレク達と別れた後はそのまま真っすぐダンジョンの外を目指した。


 一応その際は、下で戦っている連中の様子を気にしながらなのだが……当たり前といえば当たり前だが、皆腕がいい。

 アレクと一緒にいた3人もそうだったし、わざわざ冒険者ギルドが選りすぐった連中だもんな。


 そして、その彼等もここでの戦闘は余裕な様で、なにやら様々な武器、編成を試しているように見える。

 多分彼等も騎士団と同じ様な事をやっているんだろう。

 狩場に余裕があるからこそ出来る事だ。


 ……聖貨にガッツいてるのって俺だけなのかな?


 そんな事を考えながら通路を通り、ダンジョンの外……冒険者ギルドの地下ホールへと出た。


 まだ上の冒険者ギルドに繋がる階段は作られていないし、ここも外に繋がっていないし、あまり空気が良いわけじゃ無いが、ダンジョンのあの湿度の高い空気に比べるといく分爽やかな気がする。

 天井にファンがついているし、それがあるからかな?

 この場はいずれ、ダンジョンに突入する直前やあるいは帰還直後の冒険者たちといった、血の気の多い連中で一杯になるだろうし、多少は雰囲気を和らげる効果を持つかもしれない。

 ……アロマとかもいいかもな。


「……ふぅ」


 アホな事を考えながら一息つくと、ホールを見渡した。


 まだまだ途中だが、少しずつここの内装も仕上がって来ている。

 ダンジョンが出現した以上、職人たちが使えないので何故か1番隊が作業を行っている。

 まぁ、彼等は領内の巡回や警備もだが、街道や橋なんかのインフラ整備も行っているからな……椅子やテーブル、棚といった細かい家具は流石に後で職人が用意するが、床や壁に貼られた板は、彼等の手によるものだ。

 今は天井の舗装をするための足場を組んでいる。

 こういう事こそ俺が手伝えるといいんだが、隊が違うとか関係無しに、力仕事だからな……。


 アレクのやっている調査といい、彼等といい、騎士団も忙しい。

 テレサも今はアレクがダンジョンに籠っているから、その分の仕事を彼女が片付けている。

 ジグハルト達はボスらしき存在の調査だし、中々ダンジョン探索を進められないなー……。

 俺がせっかちなのかな?


 ◇


 ダンジョンの探索が中々進められない。

 そんな事をぼやいていたその夜、南館の談話室に皆が集められた。


 珍しい事に今夜はセリアーナも一緒にいる。

 リーゼルやオーギュスト、さらに冒険者ギルドの支部長もいるのだから、ダンジョン絡みの話題だろうし、本館側でいいのにと思うが……俺達がセリアーナ側の人間だから、彼女も同席させる為なのかな?


「それでは、始めよう。オーギュスト団長」


「はっ」


 皆が集まったところで、リーゼルの合図でオーギュストが話を始めた。


 内容はいくつかに分かれていて、まずは現在のダンジョンの入り口前の整備具合からだ。


 あそこを整備するための資材は、騎士団本部から運び込まれていたそうだが、最近、建設中のオーギュストやアレク達の屋敷からも運んでいるらしい。

 そのためペースが上がって来ているんだとか。

 職人だけじゃなく、騎士団の隊員もダンジョンの事を知らない者が多いし、色々面倒な手順を踏んでいる様だ。

 彼等も街の住民も、足元に既にダンジョンが出来ているとは夢にも思うまい……。


 お次は、ダンジョン浅瀬の探索、調査の進捗具合だ。

 こちらはアレクが報告を行った。


 浅瀬に出現する魔物は、ゴブリン、コボルト、オークといった妖魔種が中心だが、俺は出くわしていないが、ハチやアリの魔虫も出て来るようで、戦闘自体は問題無いが、休息する際は、壁側に移動した方がいいそうだ。

 魔虫か……。


「ムカデはいた?」


 ムカデがいるかどうかは重要だ。

 今まで話を聞くだけで口を挟まずにいたが、これは確認しなければ。


「ん? ……ああ、今のところ見かけたってやつはいないな……。どうだ?」


「いや、俺も報告を受けていないな……。セラ嬢はムカデが苦手なのか?」


 アレクにムカデの有無を聞くが、確信は無いようだ。

 俺がムカデがダメなのを知っているからか、支部長に確認した。


「うん。虫自体あまり好きじゃ無いけど、ムカデは特に駄目なんだよね」


「……そうか。アレは岩や壁の隙間なんかに潜んでいるから、浅瀬に出るかどうかは別としても、近寄らなければ出くわすことは無いはずだ。お前さんなら問題無いだろう?」


「ふむ……なら大丈夫か。中断してごめんね、アレク続けていいよ」


 頭を下げると、アレクは気にするなと言い、話を続けた。


「といっても、現状は問題らしい問題は起きていないな。魔物の強さも他所と大差は無いし、一の森で戦えるのなら十分やっていけるだろう。それと、何度か試したが浅瀬の中央から笛を吹いたら四隅に届いたし、万が一の際の立て直しには、それで十分間に合うはずだ」


「なるほど……。浅瀬でオークが現れるからと警戒しすぎても良くないか」


「そうだな……ああ、だが火は使わないようにするべきだな。枯れ木は無いが、その分煙が出る。広いし森と言ってはいるが、煙が充満してしまう……魔物にどう作用するかはわからないが、少なくとも人間には危険だ」


 ダンジョンは、言ってしまえば、馬鹿っ広い洞窟だもんな。

 アレクが言ったように、枯れ木は無いし簡単に森林火災には発展しないだろうが、火は駄目か。


 ジグハルトの方を見ると、笑って肩を竦めている。

 ジグハルトのアレは、確か威力があり過ぎて炭化するんだったっけ……?

 なら大丈夫か。

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