第125話

308


【前書き】

今まで主人公はアイテム、スキルと呼んでいましたが、今回から恩恵品と加護と呼ぶようにします。


【本文】

アレクが聖像に聖貨を捧げると体が薄っすら光り始めた。


人がガチャを引いているのを見るのは久しぶりだな……王都でのジグハルト以来かな?

あれはちょっと悲惨だった……。


「……む?」


アレクが何やら一言呟いたかと思うと、立ち上がった。

ガチャを引いたようだ。

そして間を置かず、彼を包んでいた光が消え、代わりに目の前に何やら細いベルトの様な物が現れたが……恩恵品かな?


「ふむ……」


宙に浮いたそれを手で取ると、アレクは再び一言呟きまたも沈黙し固まっている。

「む」や「ふむ」と文章はおろか単語ですらなく、反応が読めない。

素材では無さそうだけれど、変な物なんだろうか?


「それは何なの?外れでは無さそうだけれど……」


「ベルトの様ですね……?」


「ん?ああ……【蛇の尾】……恩恵品だ」


手にしたまま動かないアレクが気になったのだろう。

それまで見守っていたセリアーナとエレナが、それは何か?と訊ねると、ちゃんと聞こえていたようで、それに答えた。


「へび?」


【蛇の尾】……ちょっと気になる名前じゃないか……近くで見せてもらうか。

いつまでも凹んでいるわけにもいかないし、いいきっかけだ。


「【蛇の尾】ね……聞いた事無いわね。貴方達は?」


アレクはもちろんエレナとテレサも首を振る。

フィオーラもだし、メジャーな物じゃ無いのかな?


「聞いた事はありませんが……、ある程度予測は付きますね。俺が冒険者になったばかりの頃に【猿の腕】という恩恵品を使う者がいました。恐らくそれと近い物でしょう。どうぞ」


開放する為にソレをセリアーナに手渡した。

見た感じ茶色い布のベルトで、蛇柄だったりするわけじゃ無いし、蛇要素は見当たらない。

【猿の腕】ってのも気になるけれど、こっちも何なのか気になるな。


「ああ……ただ、これは恐らく俺向きじゃ無いでしょうね。セラ、お前が使うか?エレナ、構わないよな?」


「!?」


アレクが中々衝撃な事を、随分事も無げに言ってきた。


「貴方が良いのなら構いません」


「2人がそれでいいのなら、私が言う事は無いわ。セラ、来なさい」


折角の恩恵品を使いもせずに譲るという、唐突な申し出に驚き固まる俺をよそに、3人は話を進めてしまった。


「う……うん。でも、いいの?どんなのか知らないけれど、魔王種との戦いに備えての物だったんでしょう?」


アレクは何となくどんな物か想像がついている様だし、もしかしたら戦闘向きじゃないのかもしれない。

それでも使いもせずに決めていいんだろうか?


「アレク、貴方はそれがどのような物だと思っているの?」


「そうですね。どのような物かわからないのに、いきなり決められて姫も困っていますよ?」


だが、俺の困惑っぷりを見て取ったのか、フィオーラとテレサが助け舟を出してくれた。


セリアーナにしたら結局自分の配下が持つことに変わりは無いし、エレナは自分が使う事は無さそうだし、アレクが決めたのならそれでいいってスタンスだ。

だが、割と気安く人に使わせている俺が言う事じゃないかもしれないが、恩恵品ってのはそんな簡単に人に使わせるような物じゃない。


いくら引いた本人がいいと言っても、はいそうですか、と受け取るにはちょっと高価すぎる。

もう少し理由が欲しい。


「む……それもそうか。【猿の腕】ってのは肩当だったんだ。発動すると肩から腕が一本生えて、ある程度自由に扱えていた。それの主は盾と剣を使っていたが、それとは別に短槍も背負っていて、ここぞという時に【猿の腕】でそれを扱っていたんだ」


「ほー」


自由自在に動く第3の腕か……ビジュアルはともかく便利そうだな。


「名前から【蛇の尾】も似た様な代物だろう。だが、ベルトって事は腰に巻くんだろう?そしてそこから生える……。俺は馬に乗る事が多いし、下馬している時は先頭に立つ事が多い。俺が使うには向いていないさ」


想像してみるが、確かにその通りだ。

乗馬中はもちろん、普通に降りて戦う時も、先頭に立つ事が多いし、尻尾を生やされても他のメンバーとの連携の妨げになりそうだ。


「セラなら【浮き玉】で終始浮いた状態だ。周りの人間の立ち位置なんて関係無いだろう?」


ごもっとも。


309


【本文】

「……確かにオレ向きかもしれないね」


どんな形状の物かはかわからないが、少なくとも俺が使って、誰かの邪魔になるって事は無いだろう。


「お前にはコレを譲ってもらっているしな。気にするな」


そう言うと右手を上げ、そこに付けてある【猛き角笛】を見せてきた。

以前、俺向きじゃ無いからと彼に譲った恩恵品だ。

それの効果を感じたのはクマの時くらいだったし、すっかり忘れていたが、そう言えばそれがあったな。


「そか……んじゃ、ありがたく」


「おう」


胸のつっかえも取れたし、いざチャレンジ!とセリアーナの方を向くと、待ちくたびれたのか腕を組みこちらを見ている……というか、睨んでいる。

このねーちゃんには、心の葛藤とかそういうデリケートなものは存在しないのかもな……。

まぁいい。


「おまたせ!」


「ええ、待ったわ。さあ、手を出しなさい」


「ほい」


言われた通りに、【蛇の尾】を持ったセリアーナの手に俺の手を重ねると、そのまま一息に開放、下賜を済ませた。


「……おお?」


【蛇の尾】は最初は布のベルトだったが、開放した事で布からチェーンに形状を変えた。

開放しても何も変わらない物もあるが、これは変わるタイプか……。

前世でバイカーが付けていた様な、ゴツイものでは無くて、両端が輪と錘状の飾りがついた銀色の細く華奢なチェーンだ。

色こそ違うが【緋蜂の針】とちょっと雰囲気は似ている。


セリアーナに渡すと、女性陣が集まりアレコレ批評をしている。

飾り気の無い所が今一らしい。

セリアーナは、自分ではあまり派手な物は身に付けたがらないが、アクセサリーが嫌いってわけじゃ無いからな……。

俺はこのシンプルな所が割と好みだけれど。


「結局これは……ベルトでいいのかしら?腰に巻くのよね?セラ、付けてみなさい」


「ほい」


受け取りそれを腰に巻く。


【蛇の尾】は1メートル位の長さだが、俺は細いし問題無いけれど、太っている人とかだったらどうするんだろう……?

太っているとかそんな理由で諦めることになるんだろうか……?

ファンタジーアイテムだし、調節されたりするのかな?


端の輪に反対側を通すと、先端に付いている錘状の飾りが重しになって、腰の位置に上手く収まってくれている。

ただ、巻いて余った分が40センチ程あるが、それが少し邪魔になりそうで気になる。

この余った分を入れるポケットでも新しく作って貰おうかな。


「アレク、【猿の腕】ってのは、腕が生えるだけで、危険な物じゃ無いんだよね?」


「ん?そうだな……それなりに力はあったが、使うだけで周りの物を壊したりするような事は無かったぞ。使うのか?」


「使いたい!いいかな?」


【猿の腕】が腕を生やすんなら、これは尻尾が生えるんだろう。

少なくとも発動するだけなら危険は無いはずだが、念の為セリアーナに確認を取る。

訓練所で使ってもいいんだが、使い道を考察するには俺以外にも人がいた方がいい。

流石に皆にあそこまで歩いてくれって頼むのも申し訳ないしな……ここで済むならそれが一番だ。


「端なら何も無いし、使うのならそこにしなさい」


「ほい」


言われた通りに部屋の端に移動した。

6畳ほどの何も置いていないスペースで、ここなら生えた尻尾の操作を失敗しても、何か壊れる様な事も無い。


「では……ふん!」


腰からお尻にかけてのラインを意識して、気合を入れる。

流石にこれだけ恩恵品を使ってくると、発動の仕方も何となくわかって来る。


「おや?」


発動し、お尻に生えているであろう尻尾を見ようと、体を捻り後ろを見るが……何も無い。

手で触れてみても、やはり何も無い。

何となく腰やお尻に熱を感じるから、発動しているはずなんだが……。


「どうかしたの?」


「うん……何か発動に失敗したのかも?」


……おかしいな?


「あら」


離れて様子を見ていたエレナが、何かに気付いたのかこちらを見ているが、その視線は俺のお腹辺りに向いている。

釣られて俺も自分のお腹を見ると、先程まで巻かれていた細い銀色のチェーンが無くなっていた。


310


【本文】

「無いわね……。体に異常は?」


両手を広げている俺を見て、セリアーナが聞いて来た。


「無いよ」


テレサとエレナに額や手首に手を当てられ、脈や熱を測られながらセリアーナに、異常は無いと答えた。

【蛇の尾】の発動に成功したのか失敗したのかはわからないが、とりあえず意見を仰ごうと皆の下に行くと、こんな事になった。

そして、一歩離れて俺達の周りをアレクとフィオーラがグルグルと回っている。


今のところ何も変化は見つかっていない様だが……。


「……ああ。ここね」


「?」


今まで俺の周りを回っていたフィオーラが、何かを見つけたのか足を止め、一言呟き……。


「わぁっ!?」


後ろからスカートを思い切り捲り上げた。

次いでパンツを引っ張られた。


いつだったかセリアーナにも同じ事をされた気がするな……その時と違って今回はパンツも下ろされているが。

他の3人も後ろに回り覗き込んでいるが、アレクは正面に立ち肩を竦めている。

……紳士じゃないか。


「何かあったの?」


自分じゃ見れないし、何があったのか教えて欲しい。


「刺青の様に模様が刻まれているわね。魔力の流れを感じたし【竜の肺】に近いのかもしれないわね」


なるほど……俺の周りをグルグルと回っていたのは、魔力の流れを調べるためだったのか。


「ここからよ。わかる?」


「む」


腰から尾てい骨あたりにかけて、セリアーナは何かをなぞる様に指を動かした。

とりあえず、その辺に何かがあるってのはわかった。

【竜の肺】……あれの要領か。

発動しなかったのは、意識を向ける場所が違っていたからだったのかな。


「ちょっと離れて」


やれそうな気がする。

ベルトを巻いた腰ではなく、セリアーナがなぞった辺りに意識を集中して……。


「ふん!」


気合を一つ入れた。


「!?」


前に立つアレクに変わりは無いが、後ろの4人が驚いている気配がする。

成功したかな?


「生えたわね」


生えたのか。


「ええ……少し離れましょう。姫、動かせますか?」


「はいよ」


後ろが空いた事を確認し、軽く左右に振るようなイメージで、先程の発動と同じ要領でやってみたところ、その通りに動いているのが何となくわかる。

尻尾を動かすってこんな感じなんだろうか?

体を捻って後ろを見ると、何か黒い物体がユラユラ揺れているのが見える。


俺の尻尾は黒いのか……!


「ちゃんと動くわね」


「ええ。服の裾も揺れていますし、物に触れる事も出来るようですね」


「そうなると……普段使いするのは難しいかもしれませんね。あの位置に穴を空けるわけにも行きませんし……」


俺が尻尾を楽しんでいる一方、女性陣は冷静に分析をしている。

そうか……これ楽しいけれど、外で尻を出すわけにもいかないよな。


……どうしよう?



今俺は1の森の浅瀬で、見習冒険者達が薬草採集をしているのを、尻尾を木の枝に巻き付ける事で【浮き玉】に乗った体を固定し、見守っている。


恩恵品【蛇の尾】。

ベルト状だが、発動すると体に直接刻み込まれるタイプだ。

長さは3メートル弱、太さは根本が直径10センチ程で徐々に細くなっている。

そこそこ力が強く、同じくそこそこだが器用さもあり、今の様に巻き付けたりする事で物を掴んだりも出来る。

非力な俺にとっては、丁度いいサポートアイテムだ。


そして、身に付けている物は装備者の一部とみなしている様で、肌からだけではなく、服からも生やせる事がわかった。

【猿の腕】の持ち主が肩当から腕を生やしていたのも、その効果のお陰だろう。


アレクや報告を聞いたオーギュスト達は、恩恵品の警戒を目に見えない部分にも広げる必要があると、少々慌てていた。

セリアーナの命令で【蛇の尾】には一つ二つフェイクを入れるが……懸念だった服の問題が解決し、俺は満足している。


「隊長ー終わったぜー!」


採集を終えた様で、下から声が飛んで来た。


「副長だ!ふーくーちょーうー!」


先週と同じメンバーだが、緊張で破裂寸前の風船みたいだった前回とは違い、大分余裕を持てている。

やっぱ、1回目……それも自分達が最初って事であんな感じになっていたんだろう。

こっちが素の彼等か。

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