第125話
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【前書き】
今まで主人公はアイテム、スキルと呼んでいましたが、今回から恩恵品と加護と呼ぶようにします。
【本文】
アレクが聖像に聖貨を捧げると体が薄っすら光り始めた。
人がガチャを引いているのを見るのは久しぶりだな……王都でのジグハルト以来かな?
あれはちょっと悲惨だった……。
「……む?」
アレクが何やら一言呟いたかと思うと、立ち上がった。
ガチャを引いたようだ。
そして間を置かず、彼を包んでいた光が消え、代わりに目の前に何やら細いベルトの様な物が現れたが……恩恵品かな?
「ふむ……」
宙に浮いたそれを手で取ると、アレクは再び一言呟きまたも沈黙し固まっている。
「む」や「ふむ」と文章はおろか単語ですらなく、反応が読めない。
素材では無さそうだけれど、変な物なんだろうか?
「それは何なの?外れでは無さそうだけれど……」
「ベルトの様ですね……?」
「ん?ああ……【蛇の尾】……恩恵品だ」
手にしたまま動かないアレクが気になったのだろう。
それまで見守っていたセリアーナとエレナが、それは何か?と訊ねると、ちゃんと聞こえていたようで、それに答えた。
「へび?」
【蛇の尾】……ちょっと気になる名前じゃないか……近くで見せてもらうか。
いつまでも凹んでいるわけにもいかないし、いいきっかけだ。
「【蛇の尾】ね……聞いた事無いわね。貴方達は?」
アレクはもちろんエレナとテレサも首を振る。
フィオーラもだし、メジャーな物じゃ無いのかな?
「聞いた事はありませんが……、ある程度予測は付きますね。俺が冒険者になったばかりの頃に【猿の腕】という恩恵品を使う者がいました。恐らくそれと近い物でしょう。どうぞ」
開放する為にソレをセリアーナに手渡した。
見た感じ茶色い布のベルトで、蛇柄だったりするわけじゃ無いし、蛇要素は見当たらない。
【猿の腕】ってのも気になるけれど、こっちも何なのか気になるな。
「ああ……ただ、これは恐らく俺向きじゃ無いでしょうね。セラ、お前が使うか?エレナ、構わないよな?」
「!?」
アレクが中々衝撃な事を、随分事も無げに言ってきた。
「貴方が良いのなら構いません」
「2人がそれでいいのなら、私が言う事は無いわ。セラ、来なさい」
折角の恩恵品を使いもせずに譲るという、唐突な申し出に驚き固まる俺をよそに、3人は話を進めてしまった。
「う……うん。でも、いいの?どんなのか知らないけれど、魔王種との戦いに備えての物だったんでしょう?」
アレクは何となくどんな物か想像がついている様だし、もしかしたら戦闘向きじゃないのかもしれない。
それでも使いもせずに決めていいんだろうか?
「アレク、貴方はそれがどのような物だと思っているの?」
「そうですね。どのような物かわからないのに、いきなり決められて姫も困っていますよ?」
だが、俺の困惑っぷりを見て取ったのか、フィオーラとテレサが助け舟を出してくれた。
セリアーナにしたら結局自分の配下が持つことに変わりは無いし、エレナは自分が使う事は無さそうだし、アレクが決めたのならそれでいいってスタンスだ。
だが、割と気安く人に使わせている俺が言う事じゃないかもしれないが、恩恵品ってのはそんな簡単に人に使わせるような物じゃない。
いくら引いた本人がいいと言っても、はいそうですか、と受け取るにはちょっと高価すぎる。
もう少し理由が欲しい。
「む……それもそうか。【猿の腕】ってのは肩当だったんだ。発動すると肩から腕が一本生えて、ある程度自由に扱えていた。それの主は盾と剣を使っていたが、それとは別に短槍も背負っていて、ここぞという時に【猿の腕】でそれを扱っていたんだ」
「ほー」
自由自在に動く第3の腕か……ビジュアルはともかく便利そうだな。
「名前から【蛇の尾】も似た様な代物だろう。だが、ベルトって事は腰に巻くんだろう?そしてそこから生える……。俺は馬に乗る事が多いし、下馬している時は先頭に立つ事が多い。俺が使うには向いていないさ」
想像してみるが、確かにその通りだ。
乗馬中はもちろん、普通に降りて戦う時も、先頭に立つ事が多いし、尻尾を生やされても他のメンバーとの連携の妨げになりそうだ。
「セラなら【浮き玉】で終始浮いた状態だ。周りの人間の立ち位置なんて関係無いだろう?」
ごもっとも。
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【本文】
「……確かにオレ向きかもしれないね」
どんな形状の物かはかわからないが、少なくとも俺が使って、誰かの邪魔になるって事は無いだろう。
「お前にはコレを譲ってもらっているしな。気にするな」
そう言うと右手を上げ、そこに付けてある【猛き角笛】を見せてきた。
以前、俺向きじゃ無いからと彼に譲った恩恵品だ。
それの効果を感じたのはクマの時くらいだったし、すっかり忘れていたが、そう言えばそれがあったな。
「そか……んじゃ、ありがたく」
「おう」
胸のつっかえも取れたし、いざチャレンジ!とセリアーナの方を向くと、待ちくたびれたのか腕を組みこちらを見ている……というか、睨んでいる。
このねーちゃんには、心の葛藤とかそういうデリケートなものは存在しないのかもな……。
まぁいい。
「おまたせ!」
「ええ、待ったわ。さあ、手を出しなさい」
「ほい」
言われた通りに、【蛇の尾】を持ったセリアーナの手に俺の手を重ねると、そのまま一息に開放、下賜を済ませた。
「……おお?」
【蛇の尾】は最初は布のベルトだったが、開放した事で布からチェーンに形状を変えた。
開放しても何も変わらない物もあるが、これは変わるタイプか……。
前世でバイカーが付けていた様な、ゴツイものでは無くて、両端が輪と錘状の飾りがついた銀色の細く華奢なチェーンだ。
色こそ違うが【緋蜂の針】とちょっと雰囲気は似ている。
セリアーナに渡すと、女性陣が集まりアレコレ批評をしている。
飾り気の無い所が今一らしい。
セリアーナは、自分ではあまり派手な物は身に付けたがらないが、アクセサリーが嫌いってわけじゃ無いからな……。
俺はこのシンプルな所が割と好みだけれど。
「結局これは……ベルトでいいのかしら?腰に巻くのよね?セラ、付けてみなさい」
「ほい」
受け取りそれを腰に巻く。
【蛇の尾】は1メートル位の長さだが、俺は細いし問題無いけれど、太っている人とかだったらどうするんだろう……?
太っているとかそんな理由で諦めることになるんだろうか……?
ファンタジーアイテムだし、調節されたりするのかな?
端の輪に反対側を通すと、先端に付いている錘状の飾りが重しになって、腰の位置に上手く収まってくれている。
ただ、巻いて余った分が40センチ程あるが、それが少し邪魔になりそうで気になる。
この余った分を入れるポケットでも新しく作って貰おうかな。
「アレク、【猿の腕】ってのは、腕が生えるだけで、危険な物じゃ無いんだよね?」
「ん?そうだな……それなりに力はあったが、使うだけで周りの物を壊したりするような事は無かったぞ。使うのか?」
「使いたい!いいかな?」
【猿の腕】が腕を生やすんなら、これは尻尾が生えるんだろう。
少なくとも発動するだけなら危険は無いはずだが、念の為セリアーナに確認を取る。
訓練所で使ってもいいんだが、使い道を考察するには俺以外にも人がいた方がいい。
流石に皆にあそこまで歩いてくれって頼むのも申し訳ないしな……ここで済むならそれが一番だ。
「端なら何も無いし、使うのならそこにしなさい」
「ほい」
言われた通りに部屋の端に移動した。
6畳ほどの何も置いていないスペースで、ここなら生えた尻尾の操作を失敗しても、何か壊れる様な事も無い。
「では……ふん!」
腰からお尻にかけてのラインを意識して、気合を入れる。
流石にこれだけ恩恵品を使ってくると、発動の仕方も何となくわかって来る。
「おや?」
発動し、お尻に生えているであろう尻尾を見ようと、体を捻り後ろを見るが……何も無い。
手で触れてみても、やはり何も無い。
何となく腰やお尻に熱を感じるから、発動しているはずなんだが……。
「どうかしたの?」
「うん……何か発動に失敗したのかも?」
……おかしいな?
「あら」
離れて様子を見ていたエレナが、何かに気付いたのかこちらを見ているが、その視線は俺のお腹辺りに向いている。
釣られて俺も自分のお腹を見ると、先程まで巻かれていた細い銀色のチェーンが無くなっていた。
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【本文】
「無いわね……。体に異常は?」
両手を広げている俺を見て、セリアーナが聞いて来た。
「無いよ」
テレサとエレナに額や手首に手を当てられ、脈や熱を測られながらセリアーナに、異常は無いと答えた。
【蛇の尾】の発動に成功したのか失敗したのかはわからないが、とりあえず意見を仰ごうと皆の下に行くと、こんな事になった。
そして、一歩離れて俺達の周りをアレクとフィオーラがグルグルと回っている。
今のところ何も変化は見つかっていない様だが……。
「……ああ。ここね」
「?」
今まで俺の周りを回っていたフィオーラが、何かを見つけたのか足を止め、一言呟き……。
「わぁっ!?」
後ろからスカートを思い切り捲り上げた。
次いでパンツを引っ張られた。
いつだったかセリアーナにも同じ事をされた気がするな……その時と違って今回はパンツも下ろされているが。
他の3人も後ろに回り覗き込んでいるが、アレクは正面に立ち肩を竦めている。
……紳士じゃないか。
「何かあったの?」
自分じゃ見れないし、何があったのか教えて欲しい。
「刺青の様に模様が刻まれているわね。魔力の流れを感じたし【竜の肺】に近いのかもしれないわね」
なるほど……俺の周りをグルグルと回っていたのは、魔力の流れを調べるためだったのか。
「ここからよ。わかる?」
「む」
腰から尾てい骨あたりにかけて、セリアーナは何かをなぞる様に指を動かした。
とりあえず、その辺に何かがあるってのはわかった。
【竜の肺】……あれの要領か。
発動しなかったのは、意識を向ける場所が違っていたからだったのかな。
「ちょっと離れて」
やれそうな気がする。
ベルトを巻いた腰ではなく、セリアーナがなぞった辺りに意識を集中して……。
「ふん!」
気合を一つ入れた。
「!?」
前に立つアレクに変わりは無いが、後ろの4人が驚いている気配がする。
成功したかな?
「生えたわね」
生えたのか。
「ええ……少し離れましょう。姫、動かせますか?」
「はいよ」
後ろが空いた事を確認し、軽く左右に振るようなイメージで、先程の発動と同じ要領でやってみたところ、その通りに動いているのが何となくわかる。
尻尾を動かすってこんな感じなんだろうか?
体を捻って後ろを見ると、何か黒い物体がユラユラ揺れているのが見える。
俺の尻尾は黒いのか……!
「ちゃんと動くわね」
「ええ。服の裾も揺れていますし、物に触れる事も出来るようですね」
「そうなると……普段使いするのは難しいかもしれませんね。あの位置に穴を空けるわけにも行きませんし……」
俺が尻尾を楽しんでいる一方、女性陣は冷静に分析をしている。
そうか……これ楽しいけれど、外で尻を出すわけにもいかないよな。
……どうしよう?
◇
今俺は1の森の浅瀬で、見習冒険者達が薬草採集をしているのを、尻尾を木の枝に巻き付ける事で【浮き玉】に乗った体を固定し、見守っている。
恩恵品【蛇の尾】。
ベルト状だが、発動すると体に直接刻み込まれるタイプだ。
長さは3メートル弱、太さは根本が直径10センチ程で徐々に細くなっている。
そこそこ力が強く、同じくそこそこだが器用さもあり、今の様に巻き付けたりする事で物を掴んだりも出来る。
非力な俺にとっては、丁度いいサポートアイテムだ。
そして、身に付けている物は装備者の一部とみなしている様で、肌からだけではなく、服からも生やせる事がわかった。
【猿の腕】の持ち主が肩当から腕を生やしていたのも、その効果のお陰だろう。
アレクや報告を聞いたオーギュスト達は、恩恵品の警戒を目に見えない部分にも広げる必要があると、少々慌てていた。
セリアーナの命令で【蛇の尾】には一つ二つフェイクを入れるが……懸念だった服の問題が解決し、俺は満足している。
「隊長ー終わったぜー!」
採集を終えた様で、下から声が飛んで来た。
「副長だ!ふーくーちょーうー!」
先週と同じメンバーだが、緊張で破裂寸前の風船みたいだった前回とは違い、大分余裕を持てている。
やっぱ、1回目……それも自分達が最初って事であんな感じになっていたんだろう。
こっちが素の彼等か。
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