第121話

300


【本文】

とりあえず言われた通りにフィオーラの膝の上に移動し【ミラの祝福】を発動した。


「あら?」


が、何やら驚いたような声を上げるフィオーラ。


「ん?…………あぁっ!ごめん、つい癖で……」


どうかしたのかと思ったが、俺が原因か。

ここ最近、誰かにくっ付く時はいつも【ミラの祝福】を発動していたから、無意識の内にやってしまうようになっていた。

たまに屋敷の使用人に張り付いている時もあるが、俺がくっ付く相手なんて、セリアーナ、エレナ、テレサの3人位だ。


使うのも使われるのも問題無い相手ばかりだからな……まぁ、フィオーラも身内枠だし問題ないか?


「問題ないわ。ありがとう……。そのままでいいから聞いて頂戴。貴方に頼みたいことを説明するわ」


そう言うと、机の上に置かれていた、土の入った4個の容器を引き寄せた。


「これは別々の場所で採られた土なの。これを貴方のヘビと恩恵品を使って見て欲しいの」


「んん?まぁ……よくわからんけどやってみるよ」


アカメ達の目と【妖精の瞳】を発動し、容器に入った土を凝視した。

……凝視したが、何もねぇ。ただの土にしか見えない。

どこか理科の実験を思い出すな。


「……ただの土だよ?」


「そうね。だから、一つ手を加えるわ」


今度は何かの液体が入った容器を取り、さらにその液体をそれぞれの容器に少しずつ落としていった。

その際にその液体も視界に入ったことで、それが薄っすらと光っていることが……つまり、魔力が含まれていることが分かった。


これは、理科じゃなくて魔法の実験なのかな?


「もう一度土をじっくり見て欲しいの」


言われた通りに土をじっくり見てみるが、特に変わりなくただの土……じゃない?


「これが少し光ってる気がする」


容器に入った4個の土の内の1個が、ほんの微かに光っている……様な気がする。


「おおっ!!」


それを聞いて、何やらおっさん達が盛り上がっているが、何なんだ?


「な?言った通りだろう?」


いつの間にか背後に回っていたジグハルトが、どこか得意げに言った。

この実験はジグハルトの提案なんだろうか?


「ねぇ、土が光ったりして、面白いとは思うけど……結局これ何なの?」


「ああ、悪い悪い。その地図を見てくれ。4か所に印がついているだろう?そこの土を採ってきた場所だ。そして、魔王種との戦場候補地でもある」


「ほう!」


地図を見れば、×印が記された森の周辺に4か所番号が書かれている。

そして、土の入った容器にも番号が……ってことは。


「その番号と同じ所から土を採ってきたのかな?」


「そうだ。×印の森が魔王種の縄張りだ」


「はっはぁ……。そこからその番号の所に追い込むわけだね」


「理解が早いな。その通りだ。そして、いまフィオが加えた液体にはフィオの魔力が定着しているんだ」


「……うん」


よくわからないけれど、罠でも張るんだろうか?


「被害を少なく、確実に、短時間で倒す為に、少し大きい術を使うの。その為に私の魔力と相性のいい場所であればある程いいの。本来は多くの薬品や時間をかけて行うのだけれど、ジグが貴方ならもしかして、と言い出したの。この分だとうまくいきそうね」


今度はフィオーラが液体の入った容器を振りながら、説明を始めた。

どういう仕組みなのかはわからないが、言わんとする事はわかった。


「じゃぁ、これで終わり?そこでいいんでしょう?」


と、もう消えてしまったが、光を放った容器を指した。

ほかの土は無反応だったし、そこが一番相性がいいってことなんだろう。


「確かに私の魔力だけならそうね」


「ぬ?」


「大きい術を使うと言ったでしょう?その発動にいくつかの薬品を用いるの。魔力の質はその組み合わせで変わってくるから……」


フィオーラは、部屋の隅に置かれている箱を見ながらそう言った。

つられて俺も見るが……結構大きい箱が3個重なっている。

あれの中身ひょっとして、その薬品なのかな?


「まぁ……そう言うことだ」


俺が箱を見ていることに気付いたジグハルトが、一番上の箱の蓋を開けて見せてきた。

ポーションの瓶と同じくらいのサイズの瓶が10本ほど入っている。

下の2つも同じくらい入ってるんだろうか……?


301


【本文】

「済まないセラ殿。だが、フィオーラ殿の魔力と薬品の組み合わせで最も相性のいい土地がわかれば、それだけ戦闘が短くなるのだ。魔王種との戦闘に専念させるため、兵士達が周辺の魔物がなだれ込まないように防衛線を敷くが、魔境の魔物の大群が相手となると最悪の事態も覚悟しなければならない。戦闘時間が短くなればなるほど被害が少なくなるのだ」


「……なるほど」


箱の中身を想像して少々引いていると、オーギュストが俺の目を見て真剣な顔でこの作業の必要性を説いてくる。

同じく支部長も続いてきた。


「森での行動や戦闘に慣れているのは2番隊だ。しくじるわけにもいかないし、そいつらを連れて行く。よそ者なら死んでもいいなんて言う気はないが、それでもこの街の者に死んで欲しくねぇ。お前さんに負担がかかるだろうが……やってくれ」


「……にゃるほど」


あれか、魔人と戦った時の様にドバドバ魔物のお代わりがやって来るんだな。

あの時はあまり強くない魔物達だったし、俺一人でどうにかなったけれど、魔境の魔物さん達だからな……それも恐らく魔王種とべったりの。

そりゃヘビーだ。


「わかった……頑張るよ」


そう言うとおっさん達が口々にありがたいだの助かるだのと言ってくる。


……くそぉ……声援が野太ぇ!



「次はこの組み合わせよ」


「ぉぅ」


フィオーラが、薬品を混ぜ合わせた液体を、容器に順に落としていく。

反応は……何も無し。


「そう……これも洗っておいて頂戴」


と、液体の入った瓶を脇に置いた。

そして、すぐにオーギュストが回収し、外に洗いに行った。

この部屋は、小さいがお偉いさん用の会議室で、調度品はそれなりの質の物が用意されているが、流石に洗い場は付いていない。

その為使った容器の洗浄は、オーギュストや支部長を始め騎士団のお偉いさんが行っている。

洗い方が甘く、結果に影響を及ぼしたりした時のことを考え、こんな仕事も手を抜くことなく緊張感を持って当たれる者……と言うことで、そのままお偉いさんたちがやる事になった。

いつも思うけれど、真面目だよな……。


「よし……フィオ、次はこれだ」


ジグハルトはフィオーラの助手として、薬品の調合を行っている。

大抵の事は力押しで解決できる人だけに忘れがちだったが、このおっさんもインテリ枠だからな……薬品の調合も堂に入ったものだ。


「わかったわ。セラ少し待って頂戴」


「セラ殿、どうぞ熱いタオルです」


作業に少し間が出来たことで、すかさずミオが熱いタオルを俺の目に当ててきた。


「ぁぃ」


作業開始当初はいなかったミオだが、戻ってこないオーギュストの様子を見にこの部屋を訪れたことで捕まり、俺のサポートをやる事になった。


別に俺は疲れるようなことはやっていない。

ただ、ひたすら土の入った容器を睨み続けるという、なんのカタルシスも無い作業なだけに、不毛とは言わないが、何というか……気が遠くなってくる。


幸いだったのは、一か所につき50通りも試せば、その土地の傾向はつかめるらしいことだろうか。

箱の中身を全部組み合わせを変えて4か所全てを、とかだとさすがに逃げ出したくなるが、これ位なら何とか……。


「出来たわ。セラ、これをお願い」


「ぉぅ」


もうそろそろ終わりが見えてきているし、もうひと頑張りだ……!



「あのさぁ、今気づいたんだけど、別に今日一日で終わらせる必要無かったんじゃない?」


夜セリアーナの部屋で今日の作業の事を話していたのだが、ふとその事に気づいた。

なんか熱気に中てられついつい俺も頑張ってしまったけれど……。


「きっと作業をしていて楽しくなったのでしょうね」


「ほ……ほら、各責任者が一堂に会する機会は中々無いし、薬品だって取り寄せたりする必要があるし、早く準備ができるのならそれはきっと良い事だよ」


「ジグハルトに釘を刺しておいたはずですが、あれでは甘かったようですね」


淡々と事実を述べるセリアーナに、フォローを入れるエレナ、ジグハルトへの叱責を考えるテレサ。

……個性が出ているね。

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